ウサギさん、戦場を駆ける3
「おらおらおらー!」
クロウが猛攻を仕掛ける。
ゴブリンキングといえど流石にS級冒険者の連撃は避けきれないようだ。
少なくない傷とダメージを負い、口惜し気にクロウを睨む。
残念だがゴブリンキングよりクロウの方が強いようだ。
強いなクロウの奴。S級冒険者って自称じゃなかったのか。
ゴブリンキング相手に一歩も下がってない。
むしろゴブリンキングが一歩、また一歩と下がっている。
さらに少し離れた場所ではストナとゴブリンマザーの豪快な戦闘。
ゴブリンマザーは丸太を削った棍棒を、ストナは自分の2倍くらいある大剣を振りまわし、周囲の生物を粉砕しながら闘い続けている。
ただ、やはり火力が違うのだろう。
ゴブリンマザーがやや押され気味のようだ。
徐々に後退するゴブリンマザー、その背後にはクロウに押されるゴブリンキング。
これはもう倒せるか?
背中がぶつかった二匹は一瞬焦る。
その一瞬が命取りになった。
S級冒険者二人の同時攻撃。
とっさに、ゴブリンマザーはゴブリンキングの首根っこ掴んで投げ飛ばした。
致命的な隙が出来、クロウとストナの一撃が同時にゴブリンマザーの胴を薙ぎ首を刎ねる。
投げ飛ばされたゴブリンキングは?
放物線を描いて森で待機していた人間族の元へ飛び込んだ。
嘘だろオイ!?
逃げて来たオークを倒すだけのためにそこまで強い人材が残っていない森の人族向けてゴブリンキングが襲いかかる。
流石にこれには焦るクロウとストナ。
しかし、二人を足止めせんとゴブリンウォーリアたちが群がっていく。
ゴブリンよりも強い上位が群れを成して襲いかかって来たせいで二人の足が止められる。
俺は咄嗟に視線を向ける。
エフィカ、リルハは!?
ダメだ。敵陣深く入り過ぎてあそこからじゃ間に合わない。
ドルアグスの旦那は!? オークキングで手いっぱいだ。アウレリスも周囲から押し寄せるオークの上位存在相手で動けない。
マズい、なんてもんじゃねぇぞ!? 人間族の元へ戻ったと思われる天音があそこにいるんじゃないか!? 下手したらゴブリンキングに殺される!?
ええい、クソ、何か方法……っ!!
そこにいらっしゃるのはメガテリウムの旦那! 頼む俺のジェスチャー通じてくれ!
慌ててグランドメガテリウム……だっけ、にジェスチャーを行う俺。頼む通じてくれっ!!
「ぎゃあああああああああっ!?」
そこはまさに悪夢であった。
逃げだして来たゴブリンを討伐するために待機していたため、残っていたのはC級以下の冒険者達。ゴブリンナイトやウォーリアならば苦戦しつつも倒せはしたのだ。
最初にやってきたゴブリンがゴブリンキングなどと誰が想像できただろう?
着地した瞬間、何が飛んで来たのか彼らは理解できなかった。
呆然としている間に立ち上がったゴブリンキングが一振り。目の前に居た冒険者数人が一瞬にして絶命した。
そんな光景を、目の前に居た天音はアボガードを抱き上げたままただただ呆然と見上げていた。
ゴブリンキングの瞳が彼女を捉える。
戦慄したままだったヘンドリック、ジョージ、レギン、美与が我に返った時には遅かった。
凶刃が天音向けて襲いかかる。
「天音――――っ!!?」
美与の絶叫。振り下ろされる大剣。
「クラウド装着! 変っ身、クラウド・バニーッ!!」
ただ一人だけ。こういう想定外をこそ想定していた人物がいた。
呆然と佇む天音と振り下ろされる大剣の前に躍り出ると、手に持った棒を使って剣を受け止める。
「グガァ?」
「あっぶな。危うくクラスメイト見殺しにするとこだったわ。逃げなさい夜霧さん。ここは正義の味方クラウド・バニーが引き受けた!」
「あ……ぅんっ」
恐怖に身を竦ませつつも、ここに居てはマズいと慌てて逃げだす天音。
「クラウド・バニー? なんでここに?」
「そんなことどうでもいいわよ。待って天音ッ」
必死に逃げだした天音を追って美与も走り出す。しかし全身甲冑のせいで身体が重く上手く走れない。
途中で躓き倒れ、走り去る天音の後姿だけを見せつけられた。
思わず伸ばした手は空を切り、天音の姿が消えてしまう。
「おい、美与を立たせろ! 逃亡ゴブリンが来るぞ!」
「この状態でか!?」
「マイガーッ! 神に見捨てられた気分デスッ!」
森での待機組とゴブリン達が激突する。
それを横目で見ながらクラウド・バニーは焦りを覚えていた。
自分は正義の味方だ。怪人相手なら充分勝てる。
でも、このゴブリンキングは別格だった。
S級冒険者はよくもまぁこんな奴を相手に闘えていたものだ。
いくら強い正義の味方といえど、この世界にあるレベル制の前には苦戦せざるをえないらしい。
覚悟を決めてゴブリンキングと敵対する。
最悪、防御に回ればそのうちS級冒険者たちが助っ人に入る。それまでの辛抱だ。
正義の味方としては頼りないかぎりだが、この世界ではレベルの低い彼女ではゴブリンキングの相手は無理だ。そこは割り切るしかないようだった。




