天音、迷子になる
ガッシャガッシャガッシャ
正直な話、美与がとても煩い。
全身甲冑の為動きも遅く、音も大きい。
アウレリスの森からだろう、やってきた魔物の群れが美与を一瞥して距離をとっていったことからも不快な音なのは確かなようだ。
天音たちはクロウを目的地として付き従うように歩いているのだが、美与が遅いせいでたびたびクロウを見失う。
その内本当にクロウを見失ってしまったので、ヘンドリックの言葉に従い、一固まりになって向う冒険者連中に着いて行くことにした。
索敵自体はレギンが行ってくれているが、魔物達を警戒する必要がないのでそこまで丁寧に索敵をしてはいない。
そのためか、進む速度は皆早く、次々と冒険者達に抜かされて行く。
「ふぇー、本当に魔物がこっちに襲ってこない」
「ぼぅっとするなリルハ。役に立ちたいんだろう。早く合流しに行こう」
「あ、待ってくださいエフィカさーん」
小柄な女性が美与を抜かして駆け抜けていく。
「おーおー急いじゃってまぁ……」
「俺たちは急がないのか?」
「俺らのレベルじゃ足手まといだからな。クロウの知り合いってことで同道させて貰っちゃいるけどよ、俺らがやんのは森に逃げ込んできた個体の撃破だ。大抵の冒険者は俺らと同じだ。急ぐ必要はねぇ」
「まぁ、そういうことだガロン。嬢ちゃんたちはレベルが高いから前線組らしいが、私達がやるのは神官たちの護衛か追討戦。それ以外は森で待機だ」
「そりゃ、仕方ない、か」
そして男三人のパーティーが歩きながら美与を抜かして行く。
あまりに美与が遅いため、徐々に遅れた天音たちは軍団最後尾にならざるをえなかった。
御蔭で兎月の機嫌は徐々に悪化している。
「そう邪険にならなくてもいいよ雲浦さん。僕らは別に急いでる訳じゃないし、急いで戦場に向かったとしても前線に向かう訳じゃない」
「それはそうだけど……」
「それにほら、普段はめったに余裕持って見られない森の中だ。今くらいだよ森林浴ができるのは」
「何よソレ……はぁ、まぁ考えないようにした方がよさそうね」
大きくため息を吐いた兎月はヘンドリックに言われた通り、大きく深呼吸して森林を楽しむことにしたようだ。
天音はアボガードを抱きしめたまま森林を歩く。
天音も少し不満だったので、ヘンドリックの主張を取り入れ、森に意識を傾ける。
さわやかな風に揺れる木々。日の光が微かに差し込む木漏れ日。
周囲には既に冒険者の姿は無く、小さな魔物達が大型魔物の後をつけるように急ぎ足になっているのが少し遠くに見える。
踏み締める足は枯れ草を踏み、ひんやりとした空気がさわやかな気分を届けて来る。
鼻から吸い込むのは木々の匂い。森林のざわめきが微かに聞こえ、森の散策に気分が昂揚して来る。
楽しい? うん、楽しい。
自問自答して歩きだす。
先程までとぼとぼとした歩きだったのに、今はもう周囲など気にせず足がどんどん前へと進む。
そして、不意に暴れ出したアボガードに気付いて我に返った。
慌てて周囲を確認する。
そよ風にざわめく木々。遠くからは鳥の鳴き声。
周囲を歩くのは小動物よりも小さな昆虫たち。彼らにはオークやゴブリンとの戦争も関係ないらしい。いつも通り生存戦争を生き抜こうと必死に枯れ草の上を歩いている。
人は……居ない。
誰も居ない。
美与も兎月もヘンドリックもレギンもジョージも。
冒険者の姿もなく、魔物の姿もない。
どちらから歩いて来たっけ?
どっちに向かえば良かったっけ?
頭がパニックになり始め、自分が何故ここに居るのか分からなくて不安になってくる。
なんでこんなことに?
ここは何処?
何処へ向えばいい?
不安感が押し寄せ、その場にしゃがみ込む。
怖い。
静かすぎる森が怖い。
このまま人知れず死んでしまうのだろうか?
私は何故こんな森に来てしまったのか。
後悔が渦巻き、一人きりの切なさが絶望を呼び寄せる。
ああ、このままここで人生が終わってしまうのだろうか?
何故私はこんな所に歩いて来てしまったんだ。
「あっ!?」
ころり、しゃがんだ拍子に抱えていたアボガードが転がり地面に投げ出された。
アボガードは慌てて周囲を見回し、突然走りだす。
コミカルな走りだったが絶望的な彼女には自分を見捨てて逃げだそうとしているようで、慌ててアボガードを追って走り出す。
「待って、一人にしないでっ。アボガードさんっ」
必死に追いすがる。
しかし、コミカルな小走りなくせに意外と早いアボガード。
届きそうで掴めない。
アボガードに誘われるように、天音は必死に森を走った。
足がもつれて何度か転ぶが、その度にアボガードは走りを止めて天音が立ち上がるまでその場で待つ。
だから天音はアボガードを見失うことなくその場まで辿りついた。
アボガードが向かった先に、無数のアボガードが待っていた。
アーマードスカンクの群れが隣に存在し、彼らの目が一斉に天音に向かう。
そしてアボガード達の中心で、彼らに槍を配る一匹の白いウサギ。
赤い瞳が天音に気付く。
運命の邂逅が、そこにはあった……




