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天音、戦場に向かう

 朝、チュンチュンと鳴く鳥の声と共に目を覚ます。

 夜霧天音は抱きしめていたアボガードに一度頬ずりを行い、起き上がる。

 まだ美与は眠ったままのようだが、兎月は窓辺にもたれかかって早朝の村を見つめていた。


「あら、もう起きたの?」


「ん。雲浦さん早い」


「私は良いの。寝るのも1時間あれば充分だし」


「倒れるよ?」


「私、人間じゃないから……」


 自虐的に告げる兎月に天音は小首を傾げる。

 そう言えば自分の正体はバレたものの、桃瀬達にしかバレて無かったと気付く。

 自分から告げるのはどうかとも思うが、今の世界で秘密にする方が問題になるだろう。


「正義の味方なの、私」


「頭、大丈夫?」


 本気で心配されてしまった兎月はうぐっと唸る。


「いや、本当に、ね。クラウド・バニーって言うのよ」


「聞いたことある。でも、廚二病、かも」


 はっと、天音は気付いた。


「二階堂さんと、一緒?」


「あんな廚二病と一緒にしないでくれない?」


 そんな会話をしていると美与が起きて来る。

 うーんと背伸びをして胸を震わせ、ベッドから起き上がりながらふらふらと歩きだす。

 おそらくいつもの実家のように部屋を出て顔を洗いに向かうのだろう。


 ガスッとドアにぶつかり、ふらつきながらドアを開いて外に出ていく。心配だったので天音は彼女に付き添うことにした。

 話の途中でぶった切られた気分の兎月は溜息吐いて自分も顔を洗いに向うのだった。


 洗面所で顔を洗っていると、欠伸をしながらヘンドリックが現れる。

 おはよう。と挨拶を交わし合い皆で顔を洗う。

 レギンは既に情報収集に出てしまい、ジョージは未だにぐぅすか寝ているらしい。

 装備を整え酒場の方で食事を取った後は広場集合。とヘンドリックに言われ、皆了解と答えてヘンドリックと別れた。


 部屋に戻って装備の確認をする。

 アイテムボックスに入れていた装備を美与に取りつけてもらい、この世界になじんだ姿をアボガードに見せつける。

 どうかな? と聞いてみるとアボガードが両手を上げてかかと立ち。

 たぶん驚いているのだろうか?


 可愛かったのでとりあえず抱き上げて頬ずりしておく。

 その間に美与と兎月が装備を整え、兎月は武闘家にしか見えない姿に、美与は重戦士かとツッコミ入れたくなるほど重装備になった。


 流石に重たいみたいで歩くのに苦労している。

 兎月が軽装に変えたら? と告げるが、傷付きたくないから、と決して脱ぐことは無く、階段降りるのに苦労していた。


 酒場に向かうと既にヘンドリックと眠ったままのジョージが待っていた。

 同じテーブル席に座り、再び挨拶を行う。


「ジョージまだ寝てる」


「彼は起こしても起きなかったからね。とりあえず連れて来た」


「あ、朝食お願いしますっ」


 近くを通った給仕の店員にお願いした兎月は重装備の美与を見て溜息を吐く。

 これからの戦闘として重装備で動きが鈍るのは致命的になりそうなのだが、戦闘の素人である美与は自分の体に傷が付くのが嫌らしい。


 今回はS級冒険者等も居るらしいのでそこまで危険はないだろう。

 いざとなったら自分が変身して守ればいい。

 兎月はふぅっと息を吐いて知らず緊張していた身体から力を抜いた。


「しかし、ここの食事は美味しいね。昨日の夜食も美味しかったし。腹ごしらえには丁度良い」


「本当にね。はい天音、あーん」


「あーん」


 仕方ないな。と面倒臭そうに口を開ける天音。美与は天音を可愛がれて大満足だ。

 笑顔満面でえへへ。と笑みを浮かべている。


「HAWッ! ご飯の匂いブレックファーストゥッ!!」


 びくんっと痙攣したジョージが突然起きた。

 数少ないながらも酒場に居たおっさんたちがなんだ? と視線を向けて来る。

 天音は自分は他人。とアボガードの後頭部におでこをくっつけ視線から目を背けた。


「お黙りエセアメリカンッ」


 ゴスッと脛を蹴りつける美与。忘れているのだろうか? 彼女は今重装備である。


「Ah、chッ」


 謎の悲鳴がジョージから漏れた。膝を抱えて突っ伏すジョージ、既に再起不能である。

 レギンが戻ってくるとそこで食事を始め、食事を終えた後は広場へと向かう。

 既に多くの冒険者がそこに集まっていた。


「こんにちはクロウさん」


「ああ、来たか勇者君。そちらのが?」


「ええ。皆僕と同じ勇者です」


「そうか。S級冒険者のクロウっつーもんだ。よろしくな」


「ええ。よろしく。これから行くの?」


「ああ、メンバーも充分集まったしそろそろ出発する。北の森はそれなりに広いが、今から向かえば昼前には北側に着く。周囲を警戒さえしなきゃ結構早く向えるんだ」


 森を歩く際は魔物の出没に気を配らなければならないため、今回その心配がないので皆でさっさと移動するらしい。


「昼食は大丈夫か?」


「ええ。マールさんにいろいろ貰って来ました」


「ああ、ライゼンじいさんのとこ泊まってたのか。なら安心だな。あそこは優良だ」


 じゃ、また後でな。とヘンドリックの肩を叩いたクロウは出発の音頭を取るためにライゼンとストナのいる場所へと向かって行った。

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