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リアちゃん、エイプリルフールを知る・後編

「う、うさしゃんどうしよう!?」


 ライゼン爺ちゃんが勘違いしたままクロウ殺しに向かっちまった。

 このまま放置したら流石にヤバいだろうな。

 まぁ、まかせなリア。やるだけやってみるさ。クロウが死んだらスマン。


「わ、私もーけんしゃさんに伝えて来るッ」


 慌てながらもリアが頼ったのは元凶作った黒髪冒険者。

 リアが居なくなるのを確認し、ウサギさんも走りだす。

 お爺ちゃんは直ぐに見付かった。

 何も知らないクロウが街中を無防備に歩いていたのだ。


「あれ? ライゼンさん、なんで武装してんすか」


 そんなクロウに、ライゼンは笑顔でゆっくりと歩きだす。

 一瞬で危機を察知したのだろう、クロウが後退さる。

 周囲の人々も、ライゼンが発する殺気に気付き、慌てて距離を取った。

 アカン、タマ取る気満々やこいつ。


「S級冒険者だ。女を犯すのは、まぁ許そう」


「え? なんことっすか……?」


「リアはなぁ。まだ子供なんだぞ? クロォウッ!!」


「はぁ!? 意味わか……っぶねぇっ!?」


 言葉の途中で振るわれた槍をぎりぎりで躱すクロウ。

 あはは。ちょっと面白いからもう少し視とこう。


「我が孫の為に、死ね! 潔く、責任とって死ねぇッ!!」


 とりあえずプラカード掲げてウサギさん待機。


「ちょ、そこのウサ公どういう……ぎゃあぁ!?」


 あ、気付かれた。

 でも普通にライゼンじいちゃんが気付いてないので襲われたクロウは逃げの一手。

 稲妻のように追い付いたライゼンじいちゃんの槍が唸る。

 おお、かすった、今服が破けたぞ!?


「ウサ公だ、爺さんウサ公を見ろッ」


「聞く耳持たんッ、悪、即、斬ッ!!」


 村の中を必死に逃げるクロウと追い付くたびに槍を振るうおじいちゃん。その表情は血涙ながし怒り狂った悪鬼のようだ。


「おい、ウサ公、マジで助けろっ、死ぬ、マジ殺されるッ」


 ったくしゃーねーなぁ。

 って危なっ!? ライゼンじいちゃん切れすぎてて近づけないっ!?

 まるで暴走列車だ。近づいた瞬間ウサギさんなど細切れにされかねない。


 ウサギさんは即座に理解し、両手を合わせてクロウを見た。

 なんだ? と視線を向けたクロウにごめんなさいしておく。


「ちょ、テメェ、諦めんなッ!?」


 いや、無理だから、そんな暴走列車に突っ込む度胸とかないから。

 なんとか自力で誤解を解いてくれ。あ、こけやがった!?

 尻持ち着いたクロウに向け、お爺ちゃん渾身の一撃が襲いかかる。


「お爺ちゃんッ」


「っ!?」


 おぉっとここで孫娘リアの登場だァッ!

 司会のウサさんも思わず熱く語ってしまったァ!

 お爺ちゃん、流石に孫の前でトドメはさせなかったらしく槍をクロウの眼前で寸止めする。


「おお、リア、あまり見せたくなかったが来てしまったのならしょうがない。待っていろ、直ぐにお前を犯したクソ野郎の首をプレゼントしてやるからな!」


 そんなのいらんだろ。

 リアは一緒に連れて来た黒髪冒険者と共に現れると、ライゼン爺ちゃんの前に飛び出し頭を下げた。


「お爺ちゃんごめんなさいっ!」


「リア? どきなさい、儂は……」


「違うの、嘘なのっ!」


「は? 嘘……?」


 驚き眼を見開くライゼンに、リアはこくこくと頷く。


「お、落ち付いて聞いてほしいの……」


「あ、あの、ごめんなさい。私が悪いんですっ」


 顔を真っ青にした黒髪冒険者。流石に大事になったと理解しているようだ。これなら任した方が良いかもしれん。

 リアを守るようにして前に出た冒険者は泣きそうな顔で告げた。


「私の故郷で今日はエイプリルフールという嘘をついてもいい日なんです。それをリアちゃんに教えてしまって……」


「……では、リアが妊娠したのは、嘘?」


 こくり、頷く冒険者とリアに力が抜けたライゼンから槍が零れる。


「お、お爺ちゃん、ごめんね?」


「リア……リア、ああ、よかった。よかったっ」


 よろめきながらリアに近づいたライゼンじいちゃん。膝を付いてリアを抱きしめると、涙を流して大泣きし始めた。

 よっぽどショックだったんだなぁ。


「リア、帰ろう」


 しばし泣き尽した後、ゆっくりと立ち上がったライゼンに連れられ、リアが去っていく。

 地面に置かれたままの槍を黒髪の冒険者が回収して二人の後を追って行った。

 そして、後には何が起こったか理解できてないクロウだけが残される。


「え? なんなの一体……」


 嵐が突然やってきて過ぎ去った。そんな感じで呆然と立ち去るライゼンたちを見送るクロウ。


「おい、ウサ公、結局なんだったんだ?」


 クロウに問われ、ウサギさんは迷うことなくプラカードを掲げた。

 ドッキリ、だーいせーいこーう。

 クロウは意味が分からず小首を傾げる。

 ほら、これだよ。

 ドッキリ、大成功ーっ。


 ……あ、ダメだ。これ、完全に外した。

 クロウは疲れた顔ではぁと溜息を零す。

 もはや気力が尽きたと言った顔で、ウサギさんのおちゃめなドッキリプレートにツッコミすら入れてくれなかった。

 一番割りを喰ったのってやっぱクロウか? いや、違うな。クロウに実害はなかった。むしろ、リックが一番可哀想かもしれない。


 嘘は、悲しみしか生まないんだなぁ……と、そんな事を思うウサギさんであった。

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