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天音、アウレリスの森へ

「この辺りから森になるのね?」


「んだ。馬車はここまで。ここから先は徒歩で道なりに行けば村につくだ。30分程はここにいっがら、無理だと思ったら無理せず戻って来な」


 コーライ村までの馬車に乗ったのだが、森の手前で降ろされてしまった夜霧天音とそのメンバーたち。

 鬱蒼と茂るアウレリスの森を前にしてごくり、息を飲む。

 少し不気味に見えるのは気のせいだと思いたい。


 桜坂美与、夜霧天音、雲浦兎月、ヘンドリック・ワイズマン、ジョージ=W=ロビンソン。五人のクラスメイト達は互いの装備を確認し合う。

 お付きの兵士であるレギンという名前の男は、既に周囲を索敵開始しており、勇者たちに危険がないかどうかを調べている。


 少し痩せ形の男だが、真面目が取りえらしく、淡々と自分のすべきことをこなしていた。

 そつなく周囲をフォローしているためジョージたちは全く気付いてないようだが、兎月はこのレギンという男の抜かりなさに一人感心を覚えていた。


 森に入ると、レギンが先頭を歩き道案内を始める。

 街道と呼べる細い道を歩きながら、邪魔になりそうな枝葉を折り、茨の蔦を切り裂き、勇者たちが危険な目に遭わないように細心の注意を払っている。


「ねぇ、レギンさんだっけ、少し外れた場所に大きめの道が見えたんだけど? あっちじゃないの?」


「陛下より皆さんにはレベルを上げておくべきだと言われております。あちらの道は商人用道路。です。冒険を行うのならばこちらから入るべきでしょう」


「なるほど。既に安全性は確保されてる訳か?」


「はい。右側に向かってしまえばレッドキャップの集落があったりはして危険ですが、こちらは比較的弱い魔物が多いです。お勧めはアボガードですね。防御力が高いですが逃げることはなく体力も少ないのでレベル上げに最適なのです」


 わざわざ倒しやすい魔物まで選別しているとは、優秀な兵士である。

 兎月と天音は自分たちの為にしっかりと調べ上げている兵士に感心するのであった。


「すごい……」


「本当にね。情報を制すれば戦闘に勝てるとよく言われるけど、驚きね」


「ありがとうございます。我々の使命は勇者様達を無事に王国に連れ帰ることですか……」


 次の瞬間、激震が走った。

 なんだ? と身構えた皆の耳に、馬らしき生物の雄叫びが聞こえた。


「……うま?」


「なんでそんなモノの声が?」


「向こうからしましたね、調べてみましょうか? 丁度アボガードの巣が近くにあるようですし」


 レギンに促され、パーティーは一路コーライ村への道を外れ、アボガード達の集落へと向かう。

 そこには……


「ひぃっ!?」


「な、何があったの?」


 どう見ても事後としか思えない白き馬が白目を向く勢いで痙攣していた。

 周囲のアボガードたちが慌てふためいており、わたわたと忙しなく動いている。

 その彼らが天音たちに気付いた瞬間、慌てたように密集隊形になって天音たちに盾を構える。


「アレが? アボガード? アボカドが鎧着てる?」


「……なんか、可愛い」


 天音はずりっずりっと盾を構えつつ近づいて来たアボガードを捕まえ抱きしめてみる。

 鎧を着ているせいで抱き心地はあまり良くない。

 じたばた暴れるアボガードは、丸っこくてやはり可愛かった。


「どうします? 何体か狩って行きますか? あちらのペガサスも今なら狩れるかもしれません」


「いや、止めた方がいいだろうね」


「あら、随分慎重ねヘンドリック君。理由を聞いても?」


「この森を見た感じペガサスなんて何匹も居るようには見えない。おそらくだけど、ボスとか、中ボスに類する生物じゃないかな? 下手に手を掛ければアウレリスって言うのが黙ってないんじゃないか?」


「その可能性は高いですね。私もアレに手を出すのはお勧めしません」


 なら何故聞いた? 美与がギロリと睨むと、レギンは慌てて視線を逸らす。


「可愛いは正義。アボガード愛護条例」


 兜の上からアボガードを撫でた天音の言葉に、美与がこくりと頷く。


「天音が言うのならアボガードは保護すべきね。ええ。倒すなんてもってのほかだわ」


「……Ohっ。変わり身の早さがスピーディーデースッ」


「はいはい。んじゃ他の魔物倒しながら村に向かいましょ」


「それが良さそうだ。天音さん、流石にアボガードを持って村にはいけないからココでサヨナラした方が良いよ」


「むぅ……残念。ばいばい」


 アボガードを降ろしてやると、即座に防御態勢に移行する。

 そんなアボガードに手を振って、天音たちは森の奥へと探索を再開するのだった。

 彼女達は疑問にすら思わなかった。

 そのペガサスを誰が倒したのか、そして、そのペガサスがどういう名前なのかということに。

 もしもステータスを確認することを閃いて居れば、あるいは違った未来も訪れていたかもしれないが、それはもはや、IFの話である。

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