リアちゃん、インフルエンザ勇者伝説を聞かされる
その日、ある幼稚園で紙芝居が行われようとしていた。
「はーい皆さんお静かに。今日はインフルエンザについてお勉強しましょうね~」
「「「はーい!」」」
先生の言葉に元気よく答える園児たち。
しかし、紙芝居の絵を見た瞬間首を傾げだす。
そこに描かれているのは勇者タミフルの伝説。
どう見てもインフルエンザと関係ない。
「せんせー。勇者とかインフルエンザと関係なくなーい?」
「黙れ。いいから静かに聞きやがれクソガキ殺すぞ。それじゃよーいは良いかな~?」
一瞬、誰もが息を飲む様な殺意をこもらせた先生は直ぐににこやかな笑みを見せて紙芝居を始めるのだった。
~とある平和な王国がありました。
王国には屈強な兵(白血球)が存在し、日夜魔物や野盗などの脅威から国を守ってくれています。
ある日、そんな平和な王国に、魔王が現れたのです。
不意をつかれた兵士たちは魔王の先制を受け一気に弱体化してしまいました。
魔王はまたたく間に兵士を倒し、国に魔物たちが侵入してきました。
兵士たちは死に物狂いで抵抗します。
この時発生する気迫が熱となって身体に現れるのです。
普通の魔物(風邪)程度ならば楽々倒す兵士たちも、魔王の猛威に次第に打ち砕かれ、人々は絶望に項垂れ始めます。
こうなってしまうと高い熱を発して身体がだるくなります。できるだけ早めに病院に行きましょう。
頭痛、発熱、鼻水。咳。関節の痛み、腰や肩に寒気を感じたらインフルエンザの確率が高いので素直に病院に行きましょう。特に40度を超えるようなら命の危機です。42度になると脳味噌が茹で卵化して死に至るので解熱剤必須です。
絶望に打ちひしがれる国民たち。国王が嘆きます。ああ神よ。このままこの国は滅びてしまうのだろうか?
それを聞き届けたように、神(医者)は一人の勇者(薬)を彼らに与えたのです。
勇者タミフルがついに大地に降り立ったのです。
現れた勇者は各地で奮戦していた兵たちの元へ駆け付け、元凶を説いて回ります。
そんな場所で戦っている場合じゃない。奴を倒さねば意味はないぞと。
世界(身体)各地の屈強の兵たちを集め、魔王討伐隊を結成したのです。
勇者は兵たちに指示を与えて魔王本陣へと突撃します。
方向性を与えられた兵士たちは奮戦に継ぐ奮戦で戦場は熱気に包まれて行きます。
余りに熱く激しくなりそうなら回復職(とんぷく薬)を呼びましょう。戦場の熱気を下げて再び戦士達が戦える場を整えてくれます。
奴だ! 魔王を倒せ! 勇者と一丸となった兵たちが一気に魔王を撃退して行きます。
そして、ついに魔王を倒し、世界の平和を取り戻したのでした!
しかし、彼らの闘いはまだ終わりません。
魔王に従っていた魔物たちの残党狩りがあるのです。
そして、魔王との激戦により荒らされた大地(喉等の腫れ)も直さなければなりません。
倒した魔物の死体は纏められます。魔物の死体(痰)は放っておくと悪臭の元になるので定期的に捨ててしまいましょう。
魔物を倒して掃除が終われば、ようやく王国が元通りの平和な国になるのです。
「めでたしめでたしかぁ。先生の紙芝居にしちゃ珍しくいい感じに終わったな」
「待て、先生まだ終わりって言ってない」
「あ、本当だ……」
ただし、勇者にはとある秘密(副作用)がありました。
魔王を倒し役目を終えた勇者は褒美を要求します。
女好きの勇者は王国の綺麗な女性を自分の物にしようとします。
これに激怒した男たちは勇者を追い駆け回しました。
これからヒャッハーするぜと息巻いていた勇者は裸のまま逃げだして行きます。
これが子供の異常行動として現れる副作用の理由でした。めでたしめでたし。
「めでたくねぇし!?」
「……と、いう話を昔幼稚園の先生から聞かされたのよねー」
本日もリクライニングチェアーに腰かけた冒険者がリアに語っていた。
暖炉の傍で蒸し兎と化していた俺はなんというか、変な人ってどこにでもいるんだなーとどうでもいい事を思っていた。
リアも話の内容があまり良く分かってないようだし、ただ勇者が魔王を倒した話として納得したようで何で勇者様は逃げちゃったの? と可愛らしく小首を傾げていた。
「つまり、インフルエンザは恐ろしいってことよ」
「ふーん。魔王インフレンザさんが来てもうさしゃんが守ってくれるからだいじょーぶだよ? ねー」
ウサギさんじゃインフルエンザにゃ敵わんぞ? 一緒に風邪引くくらいじゃないか?
そもそもこの世界にインフルエンザあるのかどうかすら分からんし。病弱なウサギさんに病魔退治を頼むんじゃない。普通に死ぬぞコラ。
そんな事を思いながらふわぁーっと欠伸して眠りに付く俺だった。




