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楓夏、辿りつく

 赤穂楓夏は真壁莱人の幼馴染である。

 二人は共に陸上部に所属しており、双方タイムを競い合う仲である。

 本当ならば、ギリギリの勝負を行える二人だったが、莱人が韋駄天のスキルを手に入れたせいで直接の競争であれば全く勝利不能となってしまった。


 それが悔しくもあり、やはり莱人は速いなぁ。と思わず憧れる。

 ずっと、憧れの存在だった。

 それこそ、物心着く前から、ずっと。

 自分の目の前で成長し、逞しくなっていく幼馴染。

 少女が恋心を抱くのと、近過ぎる距離が恋心を認識することを阻害することも。等しく彼の成長と共に大きくなっていた。


 認識し始めたのはこの異世界に付いてからだ。

 今までの日常が音を立てて崩れ、どうなるか分からないと思った時、莱人の子供を育てたい。と不思議な欲求が生まれたのである。

 そこで彼女は自覚した。

 自分が莱人を好きだったことに。


 しかし、告白するには近過ぎる存在。しかも今は緊急事態で皆がそんな告白出来る雰囲気を作っていない。

 ここは真面目に行くべきだろう。

 急ぐ必要は無いのだ。今まで何とも進展がなかったのだし、急にぽっとでの女に奪われる心配も……


「真廣さん、大丈夫か?」


「ええ。さっきはありがと莱人君」


 ……非常にマズい。

 なぜか戦闘の度に真廣がピンチに陥り、足の速い莱人が助っ人に行くという事象が何度か起こっている。

 結果、二人のキズナというかなんというかが急激に上がり始めていた。

 ついさっき莱人と真廣がキズナシステムというスキルを同時に覚えたところである。

 キズナシステムなんていう、なんか心の繋がりがありそうなスキルを二人が覚えて自分は莱人と覚えていない。その状況が焦りを産む。


 横を見れば、上田幸次も似たような顔をしていた。

 彼は真廣狙いだ。

 楓夏は幸次とアイコンタクトを交わす。


「真廣さん、大丈夫ですか?」


「莱人、怪我してない?」


 二人同時に引き剥がすように声を掛ける。

 二人ともスポーツマンだからか、大丈夫、と即座に反応して来るので少し罪悪感を覚えてしまう。

 そんな四人を見つめ、青春ネーとルルジョバが微笑ましい顔をしていることには、彼らは気付いちゃいなかった。


 ロスタリス王国会議室で向う場所が決まった直後、楓夏たちは即座に装備を整え出発したのだ。

 行動が速いのは装備品が軽装だからである。

 あまりに速かったせいか護衛の王国兵が付く前に出立してしまい、五人でヘコキウタに向かうことになってしまっていた。


 今更ながら大丈夫だろうかと思わなくも無いけれど、戦闘面では問題がないのでどんどん進んでしまえている。

 正直敵が弱過ぎる気がしなくもないのだが、それは真廣が敵を一手に引き受けており、莱人がそのフォローを行っているからでもある。


「なんだ? 変な奴らが現れたぞ?」


「サ○コだサダ○。井戸から這い出て来たのかな?」


「ちょ、囲まれた!?」


 焦る。警戒を怠ったつもりは無かったのに、まるで伏せていたかのように一気に出現する魔物。

 長い髪に猫背の身体。白いワンピースに青白い肌。

 まるで地の底から現れた幽霊のようだ。


 警戒する楓夏達を取り囲んだ彼らは、まるで牢屋の格子が目の前にあるかのように両手で空を握ると思い切り頭を振りだした。

 一瞬、意味不明過ぎて皆ぽかんと見守ってしまう。


「なんだ? こいつら?」


「首を振るだけ……か? ちょっと怖いが攻撃して来る気配は無いな」


 首を振る女の群れ。およそ数千体。正直恐怖しかないが、楓夏たちが歩きだすと、何故かその進行方向が割れるようにして女たちが道を開けて行く。

 意味が分からないが首を振り続ける女たちを見続ける気にもならないのでさっさとヘコキウタへと向かうことにするメンバーだった。


「ふぅ、なんだったんだ?」


 街に一定距離近づくと、彼女達は恨めしげに見つめながら首を激しく上下に振るだけで追ってこなくなった。

 意味が分からなさ過ぎて怖いと思ったのは初めてかもしれない。


「おやヘコキウタへようこそ旅の方」


 楓夏達の到着に気付いたお爺さんが柔和な笑顔で声を掛けてくる。


「ああ。ところでお爺さん、先程黒髪の女の群れに囲まれたんだが、アレは何か知ってるか?」


「ん? おお、ヘドバーンか? ヘコキウタ周辺に出現する魔物じゃよ。といっても首を振ってくるだけだから実質的な被害はないでのぅ。それに彼女らが出ると他の魔物が出て来なくなるので旅人には瑞魔物として親しまれておるよ」


 なんだそれは? 呆れた顔になった莱人たちに老人はふぉっふぉと笑う。


「放置し過ぎたせいか数が凄いことになっておってな。討伐隊も組まれはしたのだが、女性な上に一切無抵抗。しかも恨めしそうに死んでいく姿のせいで可哀想、呪われそうと討伐隊が挫けてしもうてな。ああして増えるに任せておるのが現状じゃ」


 放置して構わない。と言われたので楓夏達も変に撃退することは止め、早々宿を探して休息することにするのだった。

 そして宿での簡易会議でヘドバーンは邪魔にならない限り放置ということで決まった。

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