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博樹、思案する

 坂上博樹はイケメンの部類には入るが、性格は最悪に近い存在だ。

 河井稲葉と付き合っていながら中浦沙希とも付き合っていたことがバレて刺されかけた男でもある。

 運のいい事に中浦は別の男を刺し殺し、そのことが原因で心を壊してしまったらしい。


 命が狙われなくなったので博樹としてはむしろ幸運に見舞われたのだが、それで死んでしまった磁石寺は不運でしかないと思う。

 感謝こそすれ同情する気はなく、彼の責任を取れとか言われてもふざけんなバーカと叫ぶだろう。

 薄情にも思えるが自分が一番可愛い博樹にとっては自分に害がなければ他の誰かが不幸になろうがどうでもいいことだった。


 できるなら楽しいことだけをやっていたい。

 辛いこと、不幸なことは必要ない。

 異世界転移はそんな彼の心を解き放つに相応しい出来事だった。


 警察がいない。

 縛るルールもない。

 やりたい事をやればいい。

 その過程で魔王を殺してしまえば称賛される。


 誰と付き合うのも自由。

 無理矢理襲って手に入れるのも自由。

 やりたい放題やっても咎める者はいない。

 ただし、殺人自由でもあるため、相手に殺されても文句は言えない。


 スリルはある。しかし先行きは明るい。

 何しろ自分のスキルだ。

 一応中井出には魅了魔眼だとは告げたが、それは自前の視線合わせる行為とイケメンスマイルに過ぎない。

 力は別にある。


 これを使って成り上がる。

 面白おかしくこの世界を生きる。

 その為には単独行動がしたい……のだが、博樹から離れようとしない腰巾着が邪魔である。


 相田勇作、鏡音孝作、福田孝明、田代康弘この四人をなんとか引き離し、この国からおさらばしたい。別の国で成り上がるのだ。

 沢山の女を自分のモノにして、チート知識で重臣、あるいは自分が王に、いや、そんな面倒なことしていられねぇ。多くの女を手に入れて自由に出来る家と金があればいい。


「さぁて、どうしたもんか」


 城の庭先で何をするでもなくたむろう男達を見ながら呟く。


「おぅデブ、ちぃっとヤキソバパン買って来てくんね?」


「え? こ、ここ異世界だからない……」


「俺が喰いたいんだよ。今、直ぐに、そら、さっさと行って来いよデーブ」


 かははと笑っているのは相田勇作。

 こいつは根っからの不良体質で隠し持って来ていたタバコを吹かしてう○こ座りしている。

 腐れ縁だがそろそろ切ってしまいたい縁だ。


 一般男子の福田孝明は即座に相田が危険だと気付いて手下みたいに振る舞うことで難を逃れた。

 基本別クラスの友人たちとあの女のパイオツいいよなーとか胸の話で盛り上がっているのだが、この異世界では別クラスの友人など居ない。

 だから速攻で強いモノに巻かれることにしたらしい。


 立派な処世術だが彼のようにはなりたくないな、と思う博樹だった。

 そして……視線の先には慌てて走り出そうとしてこけてしまい、勇作と孝明に笑われてる愚鈍なデブがいた。

 田代康弘。顔もブサイク、身体も樽。いいとこなしのデブ男君は、ぶひぃぶひぃと泣きながら兵士の居る場所へ向い、ヤキソバパン売ってないかと聞いていた。

 当然ながらこの世界にそんなモノ存在しない。殴られるのは目に見えていた。


 こんな異世界に来てまでデブで憂さ晴らしする勇作に溜息を吐いていると、隣に座って来た男が一人。

 座るような場所がないので皆中腰というか、う○こ座りである。

 男の名は鏡音孝作。顔はそこまで悪くはないが、性格が根暗寄りなので女生徒からは敬遠されている男だ。


 噂では高藤桃瀬が好きらしく、いろいろと言い寄っているらしいのだが、それも磁石寺が告白した後のこと。

 傷心気味の彼女を手に入れられると思いいろいろと強硬姿勢を貫いているようだ。

 残念ながらそのことごとくが失敗しており、高藤からもあの人はちょっと苦手、と好き嫌いの少ない彼女からすら嫌われている男だ。


「何か用か?」


「俺のスキル、さ。隷属契約なんだ」


「ああ、そんなこと言ってたな。魔物を奴隷にできるんだっけ?」


「いいや。魔物だけじゃない。人間も、さ」


 そう告げて、孝作はニヤリと微笑む。

 その顔を見た坂上はゾクゾクと背筋を悪寒が駆け抜ける。

 バランスを崩しそうになって思わず後ずさりしてしまった。


「お、おいおい、人間もって……」


「俺は女どもを奴隷にしようと思ってる。最終的には高藤さんだ。その前に……今クラスメイト共が各地に向かって城を開けるらしい。残るのは6班。なぁ、俺に協力する気、ないか?」


「……おまえ、それって」


「天竺郁乃、イルラ、子供先公、ついでにいつ暴走するか分からねェ中浦。全員奴隷にしちまえば、ヤリ放題って訳だ」


「……お前、最っ高だなぁオイ」


 博樹は右手を差し出す。当然のように孝作は握手を交わす。

 ここに同盟は結成された。

 二人の外道による成り上がり計画が、これより始まろうとしているのだった。

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