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クロウ、お金を支払う

 ウサギが家で惰眠を貪っている頃、S級冒険者クロウは冒険者ギルドのギルド長室へとやって来ていた。

 といっても、彼が寝泊まりしている場所が隣の部屋なので一度眠った後に余裕を持って報告に来ただけなのであるが……


「……なるほどのぅ。あのウサギに関わると想定以上の事が起こるの」


「いや、ウサ公は今回関係ねぇよ。むしろ今回ドルアグスと話せた御蔭でやべぇ事態に気付けたんだ。ウサ公には感謝だな」


「ほぅ、クロウ君が褒めるとは珍しい」


「俺だって褒める時は褒めるぜ? それよりギルド長、どうすんだ?」


「うむ。大規模戦争になるな。準備に1週間程欲しい。皆の動きも合わせねばならんしな。緊急討伐要請を発布。さらに近隣諸国に援護依頼を送る。ぐらいかの。後はロスタリスに騎士団派遣か?」


「大丈夫か? 下手に森の魔物と揉める奴が来るといろいろ面倒になるぞ」


「だが数がいるのも事実だろう。騎士団ならまず命令厳守じゃ」


「馬鹿は何処にでもいるってギルド長。とりあえずはそれでいいけど、人間側の醜態晒すようなことだけはしないようにしてくれよ。ドルアグスの奴、森の魔物に危害を加えるようなら次は人間との戦争だとか言ってたぞ」


 ギルド長は顔を青くする。

 ドルアグスがどういうものか実際にあった訳ではない。しかし、単独でオークキングを狩れるというのであればその実力など想像するまでもない。

 間違いなくA級冒険者やS級冒険者に比肩する、万夫不当の魔物だろう。


「相対して、どうだったかね、勝てそうか?」


「いやー、ありゃちょっと一人じゃ無理っすわ。麒麟相手とか無謀だって」


 クロウはうーんとシュミレートして、ドルアグスに勝てるかどうか考える。

 辛勝、いや、やはり敗北だろう。

 そもそもドルアグスの森で闘うとなればレイド戦になるだろう。

 挑戦者の自分に森の魔物達が一斉に襲いかかりドルアグスを守るのだ。

 そんな魔物達を相手にしながら実力拮抗と思われるドルアグスと闘う。無謀を通り越して自殺志願でしかないだろう。


「とりあえず一週間、か。んなら知り合いのS級どもに声掛けてみるか。ヤバい精神の奴は放置して比較的まともな奴を」


「S級冒険者、まともなのおらんのか?」


「はっ。人外に全身ずぶっと浸かった奴らだぞ。まともな精神だったらA級で踏みとどまってるさ」


 実はS級冒険者たちをディスっているようで自分自身もまともじゃないとディスってることに気付いていないクロウ。教えてやるべきか迷ったギルド長だったが、まぁいいか。と苦笑するのだった。


「んじゃま、遠距離連絡用のアレ、使わせて貰うぜ」


「うむ。使用に必要な費用は君の給料から差っ引いておくよ」


「え? 緊急時だし無料なんじゃ……」


「ちなみに今回の必要経費も君持ちだ、よろしく頼むよクロウ君。あ、今回の連絡費用は直接払っておいてくれ」


「えええ!? ちょ、ギルド長、流石に酷くないっすか?」


「だって、このギルドにこんな緊急案件で支払える資金なんてある訳ないじゃろう」


 そんな常識だろう? みたいな顔で言われても困るクロウ。

 確かに資金だけなら腐るほどあるのだが、そういう状況となると流石に金が惜しい。


「良し分かったS級冒険者は俺一人、騎士団への連絡も無し、冒険者達にはオークとゴブリン討伐の数による報酬のみ。これなら俺の資金でできそうだ」


「村が滅びそうなんだが……」


「だったら村のギルドとして自分の血肉を削らねぇとな。しっかり金出してくれ冒険者ギルド」


「ここは過ごし易かろうS級冒険者。ぜひとも居場所を守るために金を出していただきたいところですなぁ」


 二人揃って火花を散らし、ぐぬぬと唸る。

 できるなら金は払いたくない。だが戦力は欲しい。

 結局折半で話が付くまで、1時間ほど議論、という名の子供の喧嘩が続いたらしい。




「……つーわけで助っ人頼む」


『ゴブリンとオークの戦争に横槍か。確かに面白そうだ』


 クロウの前には厳かに置かれた一つの水晶玉。その中に映り込んだ影とクロウは会話していた。

 安全のためもあり、相手の顔は見えない仕様になっている遠方通信器具の一種だ。

 ギルド同士で連絡をやりとりする為のモノであり、Sクラス冒険者なども連絡の為に使用することがあるが、割と高い値段の使用料を取られるのであまり使われることは無い。


 それでも彼らが使用するのは、こういった危険生物相手に協力者が必要な場合に連絡を取るためである。

 このため、冒険時以外は連絡が取りやすい冒険者ギルド内を寝泊まりにしているS級冒険者が多いのである。


 クロウはここで知り合いのS級冒険者に話をしてみたのだが、連絡が付いたのは二人だけ。ウチ一人は竜王討伐中という理由で無理だった。

 結局来てくれるのは一人だけだったのだ。

 しかも、クロウとしては真逆のタイプで苦手な相手だ。できるならば顔すら会わせたくないあいてだったのである。 

 憂鬱だ。クロウは溜息吐きながら連絡を終えて待機していた職員に使用料を支払うのだった。

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