うさぎさん、未知との遭遇
っと、こんなとこで遊んでる場合じゃない、そろそろ泉が空いてるだろうし泳ぎに行こう。
まだ熊が水浴びしてたりしないよな。まぁさっき帰っていたから居ないと思うけど……と。やってきたのですが、先客いました。
なんかヤベェのがいます。なんぞアレ?
名前:ドルアグス
種族:麒麟
Lv:???
HP:???/???
MP:???/???
TP:???/???
状態:普通
スキル:
不明
種族スキル:
不明
ステータス不明な生物が水浴びをしています。
何アレ怖い。
と、鑑定した瞬間、視線がこちらに向けられた。
びくりと驚く俺を少しだけ見たそいつは、すぐに興味を失くして水浴びを再開する。
なんてこった。こんな化け物も存在するのか。
というか麒麟っつったら霊獣とか評されてる生物だよな。
日本に伝わる存在からすれば想像以上の強力な生物のはずだ。
俺なんかおそらく一瞬で死ぬね。
というか、なんで最初の森にこんなやべぇの居ちゃうかな。人生ハードモードだろ。兎だけど。
あ、そうなると人生じゃなくて兎生?
どうしようか迷ったが、泉の周辺は安全。
それを体現するように、水辺には数匹のホーンディアやゴブリンが水を飲みに来ている。
お前らさっき争ってたのに真横で水飲むなよ……
ゴブリンも大人しく水飲んでるのが凄いな。あのキリンがいるからか? 顔上げようともしてないし。
どうやらあの麒麟がいてもこの泉周辺なら問題は無いらしい。あ、熊が来た。
多分グリズリーと思われるそいつは、一瞬麒麟を見てぎょっとした後、恐る恐る泉に入って水浴びを始めた。
どうやら泉は憩いの場で確定のようだ。ここまで多種の肉食系魔物と草食系魔物が居れば俺が来ても安全だろう。
恐る恐る俺は姿を現す。
ゴブリンやグリズリーが目敏くこちらに目を向ける。
が、それも一瞬、どうでもいいというように水を飲んだり水浴びしたり。完全放置である。
よし、なら俺も泳ぐぜ。
さすがにバタ足練習して怒らせると危険な生物が大量なので、潜水したり平泳ぎの練習を行う事にした。
犬かきならぬウサギかきは出来るようになったけど平泳ぎはキツイな。むしろドルフィンキックの方が楽かも知れん。
だが、可能性は掴んだ。俺は泳げる。ウサギだって泳げるのさ!!
ふと気付くと、麒麟が興味深そうに俺を見ていた。
いやん。そんなに見られると、照れちゃう……
って、近づいてる!? 近づいてきたっ!?
近寄ってきた麒麟は驚く俺の前にやって来ると、首を降ろして俺を見る。
鼻を動かし匂いを嗅ぐようにしてしばらく。
『転生者か。魔物の泉に迷い込んだ動物がいるから驚いたが……なかなか面白いことになっている』
な、なんか声聞こえた!? 脳内に直で響いた声だけど、老成した男の声です。
というか、俺が転生者だと知られてる!?
俺も返事をしたかったが驚き過ぎで言葉が見つからなかったのと声帯が無かったのとで返事は返せなかった。
『しかし、その素体では数年で死ぬだろう? 魔物になった方が長生き出来るぞ?』
いや、魔物になれと言われてもやり方も分かりませんが?
『Lvは5か。10まで上げれば上位進化が行えるはずだ。マギ・ラビットを選択しろ。それで体内で魔素生成が出来るようになる。あとは魔力を扱っていれば自然魔物化するだろう』
なんかアドバイスを受けました。
とりあえずお礼の代わりに首肯してみた。
すると麒麟は満足したように鼻息をならして首を背ける。
『小さき者よ。我は祈ろう。生けとし生ける者全てに幸福を、そして小さき者へ祝福を』
―― 麒麟の加護 を授かった! ――
―― 魔素取り込み を覚えた! ――
よく分からないうちに加護を貰ってスキルが増えた。
そんな俺を無視して麒麟は水面を歩く。やがて中央で立ち止まると一度だけ俺を見た。
『小さき者よ。さらば。また会える日を願おう』
そして、麒麟は去って行く。
水面から空中を蹴り上げ大空へと駆け昇って行った。
まるでそこに坂でもあるかのように、道のない宙空を駆けて行く。
うん。まぁ……幻想的風景でした、と。
とりあえず水泳の練習再開だ。
ステータス確認はまた後でいいや。
ドルアグスの旦那については巣穴に帰ってからゆっくり考えるとして、俺は一先ず水泳を優先することにした。
絶対的強者が居なくなったからか、泉の周囲に魔物たちの声が聞こえ出す。
ギャッギャとゴブリンが煩い。
そしてその横でクマと鹿が水飲んでるのが凄い。
あと俺みたいに泉に入ってるカピバラみたいな生物がいる。
なんで頭に手拭い置いてるんだろう。温泉じゃないぞここは?
そんなことを思いながら本日は水泳で時間を潰して行った。
―― 水泳 を覚えた! ――




