ドルアグスさん、苦言を言われる
『ちょっと、どういうことよっ』
その日、ドルアグスが湖に降りたちいつものように涼んでいると、普段来ることのない隣の森に住む生物が空からやってきた。
怒りに満ちた表情で駆け降りて来た純白の羽を持つ馬。その名もペガサス、はドルアグスの眼前に舞い降りるなり喧嘩口調で怒鳴り付けた。
『いきなりどうしたアウレリス』
そのペガサスの名はアウレリス。
ドルアグスの森とはコーライ村を境にして別れたアウレリスの森を管理している魔物である。
鼻息荒くやってきたアウレリスは全く理解していないドルアグスを見てなんとか怒りを鎮めようとその場で大きく息を吐く。
『いい、よぉく聞きなさい』
『うむ』
『あんたの加護持ちのウサギがウチの森で大量虐殺したのよっ』
『……んん?』
『あんたと私は不可侵条約結んだわよね!? なに、今更侵略するつもり!? レッドキャップはウチの最有力実力者の一種族だったのよ!!』
一気にまくしたてるように告げるアウレリス。
その言葉で大体の事情は察したドルアグスははぁっと溜息を吐く。
『あの小さき者か。そう言えばそなたの森については教えてなかったな』
『はぁ!? どういうことよ』
『いや、すまん。ウチの小さき者が迷惑を掛けたようだ。ただの子ウサギなためそちらの森に行ったところで大したことにはなるまいと思っていたのだがな』
ドルアグスにとってみればウサギは捕食動物でしかなく、小さき彼もまた、逃げまどいながら辛勝でクマにマグレ勝ちした程度と思っていたのだ。まさかレッドキャップを倒すとは思ってもみなかった。
『……ん? 待て。そなたの森で大量虐殺?』
『ええ。レッドキャップの群れをおよそ二千程』
『ウサギ一匹で、か?』
『そうよ。話聞いた時は卒倒するかと思ったわ。一体どんな加護を与えて送り込んで来たのよ!?』
そう言われても防御力や反応速度、危機察知力が上がり、危機を回避しやすく生き残りやすくなる加護しか与えていない。
そもそもアホの子扱いしている愉快なウサギでしかないのだ。大量虐殺など何かの間違いではないかと小首を傾げる。
『ただの転生者のウサギなだけのはずだが……何をやらかしたのだ?』
聞いてからドルアグスは後悔した。
怒り心頭のペガサスはふざけんなっとばかりに憤慨しながら一気にまくしたてて説明して来る。
聞けば聞くほど荒唐無稽で物凄い激闘である。
神々しい槍を無数に放ってレッドキャップを群れごと壊滅させるとか、蠍のような甲殻を身につけレプラコーンを毒で弱らせ神々しい槍でトドメを刺すとか。
森の住民である動物達も皆興奮した様子でアウレリスに報告して来たらしい。
アウレリスの森でも極めて危険で森の住民たちから嫌われているレッドキャップの群れではあるが、アウレリスの森が危険になった際には一番重宝する突撃部隊だ。それがまさかのウサギ一匹に壊滅させられたのである。
しかも壊滅させた理由が小人の少女を気に入ったから生贄にされる前に助けるというアウレリスにとってみれば意味不明な理由である。
『く、くははははははっ』
『なに笑ってるのよドルアグスッ!』
『いやスマン。相変わらずのアホの子具合に笑いが自然と、な。実にあ奴らしい理由じゃないか』
『な、何よソレ!?』
『いや、スマン。そやつは別にそなたの森を荒らすつもりはない筈だ。ただ欲望に忠実なだけのアホウよ。なかなか愉快な者だからな、実際に会ってその目で確かめるといい』
苦言を流されたアウレリスはまだ不満そうにしていたが、ドルアグスは加護を与えただけで自由にさせていた。となると本人が勝手に行動を行った事になる。
『じゃあ、あのウサギがどうなろうと、貴方は責任持たない。それでいいのね?』
『うむ。ん? まさか殺すつもりか?』
『何か問題が? 私の虎の子を殺されたのよ?』
『ならばそれ相応の働きをさせればよかろう。アレはなかなか面白いぞ?』
『ふん、どうだか……まぁいいわ。会うだけは会ってあげる。その後気に入らなければ殺す。いいわね』
それだけ告げてアウレリスが去っていく。
こちらの返答は気にも止めていないらしい。
空を駆けて去っていくアウレリスを見つめながら、ドルアグスははぁっと溜息を零した。
『自分で行った業のようだが、苦労しそうだな小さき者よ、だが……レッドキャップの群れを倒すか』
ウサギの身では到底なしえない筈の闘いに勝利したらしいウサギを思い浮かべ、ドルアグスは楽しそうに笑う。
水でも飲もうと首を傾け、ふと、視界に映ったカバが糞を湖に撒き散らすのが見えた。
『あのカバ共もそろそろ出禁にしておくべきか……』
力が強いせいで我が物顔になりつつある種族の鼻っ柱を折るべきか、アウレリスのストレスの捌け口に利用されたドルアグスは自分の八つ当たりを行うべき存在を見定め、憂さ晴らしの為だけに一族を地獄に突き落とそうと画策をし始めるのだった。




