100話突破特別編・リア、サンタクロースになる?
そのウサギは泣いていました。
とても後悔して、今更ながらもう二度としないよと叫んでいました。
真っ白だった毛並みは見事に引き抜かれ、見るも無残な赤裸。
やんちゃが過ぎた白ウサギは、調子に乗って鰐たちにバカなことをしてしまったのです。
嘘をついて鰐を数匹整列させて彼らの頭を足場に川向こうへと飛び跳ねたまではよかったのです。
でも、彼は調子に乗って、約束を破ってしまいました。
鰐たちは騙されて利用されただけだと知らされ、怒り狂って白ウサギの綺麗な毛並みを毟り取ってしまったのでした。
だから今、全身の毛を失くしたウサギは泣いていました。
真っ赤に腫らした眼で涙を流し、身体の痛みに耐えていました。
そこへ、一人の男が通りかかりました。
大きな袋を抱えたその男は、ウサギが泣いているのを見ていいました。
「どうしたんだね?」
「オイラが馬鹿だったのさ。調子に乗ってこの様だよ」
泣きながら後悔するウサギに、男は袋から何かを取り出しました。
何を? と思いようやくウサギは男を見ます。
その男はとても恰幅のいい長い白髭が印象的なお爺さんでした。
真っ赤な服に真っ赤な帽子。ふわふわもこもこの真っ白な綿が服の端や帽子の頭頂部に付いています。
白い袋から、男は一つの箱を取り出しました。
リボンでしっかりとラッピングされた小さな箱です。
そのリボンを解いて箱を開くと、塗り薬が出てきました。
「本来は良い子にあげるプレゼントなんじゃがな。特別じゃ。これを期に心を入れ替え良い子になるんじゃぞ。そしたら、お前さんにもプレゼントを配ろう」
そう言いながら、お爺さんはウサギの赤裸な身体に薬を塗って行きます。
「しばらくすればまた毛も生えるじゃろ。そろそろ儂は行くぞ。トナカイ共を探さんといかん」
「あの、せめてお礼を、お礼をさせてください」
「そうは言うがお前さん。儂はお礼が欲しくて助けた訳ではないんじゃ。それにまぁ、これも何かの縁じゃろう。トナカイ共が日本上空で突然喧嘩して振り落とされての。まぁ、直ぐに見つかるだろうさ」
「だ、だったら、だったらオイラも手伝います! 見つからなかったらオイラだけでもお運びします!!」
困った顔のお爺さんに、ウサギは必死に頼みます。
助けられた恩を返したい。その一心に、お爺さんもついに心を打たれたのでした。
その後、聖夜の夜にはソリに乗ったサンタクロースのお爺さんを引く一匹の白ウサギが空を駆ける姿が見られるようになったのでした。
「……あれ? トナカイさんは?」
「え? あー、えっと……」
そして因幡の国へと向かっていた大黒様は旅先で……血塗れになりながら互いにぶつかり合う二匹のトナカイと出会ったのでした。
「えー、なにそれー?」
それは、暖炉のある部屋で、リクライニングチェアーに揺られながら語られた物語。
黒髪の冒険者から、年端もいかない少女に語られた、昔々のお話、のはず。
後日、庭先でゆったりしていたウサギに向けて、少女は手綱とソリを持ってやって来た。
なんだねチミ、そんなモノ持ってきてもここじゃ滑れんぜ?
半眼で呆れるウサギさんに、少女は満面の笑顔で告げた。
「リアがしゃんたーろすね。うさしゃんはいなあのしろうさしゃんなんだよ? だから、はい」
何も分かっていないウサギさんは手綱を渡され、なにこれ? と小首を傾げる。
それに気付かずリアは背後にあるソリに乗ると、拳を突き上げ楽しそうに告げた。
「プレレント配りにいくぞー!」
プレレントってなんだ!? というかどういうこと? 誰か説明して!?
驚くウサギさんにリアから早くーと催促がかかる。
そして自分の持った手綱を見る。
何となく理解した。
え? これ、俺が引くの?
リアに確認するように視線を送る。
リアはそれを見てそだよーと告げた。
「あのねー、しゃんたーろすさんはね、まっかになったうさしゃんを助けるの。そしたらうさしゃんがお手伝いするよーって言ってね、しゃんたーろすさんを乗せてね、空をぴゅーって駆けてくんだよ」
サンタクロースと大黒様混ざってね?
どうやらまたあの冒険者女がリアに変なことを吹き込んだようだ。
アイツマジ地獄見せる。
ウサギさんは静かに燃える怒りの炎を力に変えて、ゆっくりとだが野球部がグラウンドを均すように、あるいは京都で人力車を押す人のように、必死にソリを引いて前進するのだった。
流石に空を駆けることなど出来はしないが、リアとしてはウサギの引くソリで移動するということ自体が目的だったようで、とても楽しそうだった。
しかし、傍目からはどう見てもウサギ虐待である。
洗濯物干しにやって来たマールお姉さんに見付かったリアは、ウサギさんを虐めちゃダメ。と怒られしゅんとするのだった。




