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プロローグ

別作品でちょこちょこ話題にでていた秘密結社の怪人なのに一般人に殺されちゃった(笑)な人の転生物語です。第一章はドルアグスの森でサバイバル。第二章は近くの村で過ごす日々。第三章は古代遺跡の最終兵器少女を予定しています。

「ずっと前から好きでしたっ、俺と、付き合ってくださいッ」


 春も半ばの教室に、二人の男女が居た。

 全ての窓はしっかりと閉じられた空き教室。

 空は青海。教室内は日の光が差さないせいか薄暗く、しかし周囲が明るいので陰鬱とした気配は微塵もない。放課時間の不思議な静寂と遠くから聞こえる部活の掛け声、野球部がボールをバットに当てた音が聞こえている。

 俺、磁石寺啓太じしゃくじ けいたは一世一代の勝負に出ていた。


 ぼさり、手に持っていた学生鞄を取り落とし、何を言われたか理解できていない彼女は、え? え? と可愛らしいリアクションをしてくれる。

 大人しく、誰にも優しい素敵な女性。太眉の可愛らしい少女は名を高藤桃瀬たかとう ももせと言った。

 華奢な体躯にFカップ程の巨乳。おっとり天然系の彼女は、次第に現状を把握して来たようで顔を真っ赤にして行く。


「ふえぇぇぇぇ!?」


 さぁ、どうだ?

 本当ならずっと秘したままにする思いだった。

 けど、好機が巡って来たのだ。

 俺に掛かっていた洗脳が解けて、俺のいた秘密結社・・・・が壊滅した。

 だから俺は今、野良になったのだ。

 つまり、この学校に潜入する意味はもはやない。

 上から降りてくる任務をこなす日々ももう存在しない。


 人生を謳歌できるのだ。

 俺の人生はここから始まるのだ。

 まずは、今までずっと好きだ好きだと思っていた女性に、告白。コレが第一歩だ。


 例え振られたとしても悔いはない。その場合は学校を止めて別の秘密結社に身を寄せるか、正義の味方に転向するか。

 ああ、そうだ。今までのように、秘密結社インセクト・ワールドに忠誠を誓う必要はない。

 俺は、もう誰にも縛られない。

 だから……


「う、うん……私なんかでよかったら」


 恥ずかしそうに告げる桃瀬。

 一瞬、俺も何言われたか理解できなかった。

 肯定した? え? 肯定してくれたのか?


「ほ、ほんとに、え? ほんとに!? 夢じゃない?」


「う、うん。磁石寺君のこと、私もその、好きだなって思ってたしその、あぅぅ、恥ずかしぃよぅ」


 ヤバい、夢みたいだ。こんな奇跡あっていいのか? 両想いだと?

 思わず頬を引っ張る。痛ひゃい夢ひゃふぁい。


「じゃ、じゃあ、えっと、一緒に帰……」


「ちょぉッと、待ったぁぁぁ!!」


 二人手を繋ぎ、淡い青春の一ページを刻もう。そう思った瞬間だった。

 バンッと教室の扉を開き一人の女生徒が現れる。

 まさかのちょっと待った宣言に俺も桃瀬も驚きを浮かべる。


「わわっ。兎月ちゃん!?」


「ようやく見つけたわ。秘密結社インセクト・ワールドの怪人、マグネス・コピオ!」


「げっ」


「兎月ちゃん、何言ってるの?」


「離れなさい桃ちゃん。そいつは人類に仇名す凶悪な怪人の一人よ」


「ま、待てよ雲浦さん、俺は……」


「問答無用クラウド装着! 変っ身、クラウド・バニーッ!!」


 突如現れた雲浦兎月くもうら とつきは突然意味不明な言葉を叫ぶ。

 すると彼女の周囲から雲のような水蒸気が噴き出し彼女を覆い隠した。

 驚く俺達はただただその変身を見つめるだけだ。


 やがて、雲が散ったその先に、バニーガールのような姿でウサミミ付けた兎獣人と化した雲浦がいた。若干の雲浦要素が残っているので、雲浦がクラウド・バニーの正体だと知っていれば彼女が雲浦だと認識出来る。

 バニーガールといっても網タイツは履いておらず、代わりにスパッツを着用。

 手には棒を持っており、俺に向けてそいつを構える。


 普通一般人相手にそんな事をすれば大問題に発展するのだが、彼女は俺が怪人だと気付いているようだ。

 まぁ、十中八九確信を持っているのだろう。何しろ彼女は、正義の味方なのだから。

 俺みたいな怪人を倒し、人々に称賛されるヒーローの一人だ。


「覚悟!」


「磁石寺君、こっち!」


 ふいに、手を引かれた俺。すぐ横を棒から繰り出される強烈な一撃が襲いかかる。

 机が一つ爆散した。


「ちょ、桃ちゃん!? なんでそんな奴を!?」


「分かんないっ、わかんないけど、なんかダメぇっ!」


 俺の手を引いて走る桃瀬。その胸が走るたびに上下に揺れる。凄い迫力だ。できれば前から見せて貰いたい。

 しかし、と後ろを振り向く。

 バニーガールも、捨てがたい。

 ああ、敵対しているのでなければあの足に擦り寄ってすんすんしたい。

 控えめな胸を揉みしだきながらちゅっちゅしてぇ。

 だが、彼女は現在敵対中。間違ってもそんな事はできるはずもない。


 教室を飛び出す。

 すると同時に隣の教室からも男女が飛びだして来た。

 同時に同じ方向へと走り出す。


「お前、同じクラスの磁石寺か!?」


「そういうあんたは坂上か!? なんで走ってんの!?」


「中浦と付き合ってるのがバレてこいつと口論になったんだ。そこに中浦が包丁持って乱入して来た。そして逃げる。←いまココ状態だ!」


「相変わらずの屑っぷりだな。河井さんもこんなのと付き合わなきゃいいのに」


「ほんとよ、こんな奴と知ってれば付き合うのオッケーしなかったわ。マジ最悪。死ねッ」


 そして口論を始める坂上と河井。徐々に差を詰めて来るクラウド・バニー。そして遅れて迫る包丁を両手で持って突撃して来る中浦。


「貰った!」


 一足飛びに近づいたクラウド・バニーが俺に攻撃を仕掛ける。

 ダメだ逃げ切れない。

 咄嗟に足を止め、迎撃しようとした俺の前に飛び出す桃瀬。驚くクラウド・バニーが慌てて棒を逸らし、桃瀬に体当たり。しかし当る瞬間やっぱり怖いっ。と桃瀬がしゃがみ込む。


「ええっ!?」


 慌てるクラウド・バニーが桃瀬に蹴ッ躓き俺に突撃。

 ふにょんと顔面が柔らかいモノに包まれる。

 これは、まさか、πか? 牌なのか? これが、男達が求めてやまない至高の……


「きゃあぁ!?」


 気付いたクラウド・バニーが慌てて飛び退く、その後から迫る中浦。

 桃瀬に蹴躓き、俺の胸へとダイレクトアタック。そう、包丁を持ったまま、ダイレクトアタック。


 ……え?

 俺は思わず自分の胸を見る。

 心臓部分に深々と刺さった包丁。

 それは中浦と呼ばれる少女の両手に握られている。


 ……あれ? え? 何コレ?

 身体の力が急激に抜けて膝を付いた。

 女性向けて身体が倒れる。


 俺、刺された? 関係ないのに? え? 死ぬの?

 中浦はようやく自分が何をしたのか気付いて目を見開く。

 自分が刺したというのに俺を押しのけ包丁を引き抜き逃げ出した。

 中浦に押され仰向けに倒れた俺の胸から血が流れる。

 すごい勢いだ。絶対、助からない。


「ひ、人殺しっ!?」

「お、お前、何関係ない人殺して……」

「ちが、違うっ。私じゃない。これはあんたが避けるからっ」

「うるせぇっ。こっち来んな人殺しッ!」

「だ、黙れッ。黙ってよッ! あんたよ。そう、あんたのせいで私はこんなことに。終わりだわ、終わりよっ。あんたを殺して私も死んでやるッ」


 ……おい、ふざけんな。

 俺を放置して何してんだお前らっ!?

 お前ら、お前らそれ、本気で言ってんのかよっ!!


 あ……ダメだ。

 俺の身体から生命が抜ける感覚がわかった。

 もう、俺は死ぬ。確実に死ぬ。痴情の縺れに巻き込まれて、怪人であるはずの俺が人間の女性に殺される。


「磁石寺くんっ、磁石寺くんっ!? 嫌、嫌だよっ、死なないで磁石寺くんっ――――……」


「どきなさい桃ちゃん、そいつから離れてっ」


「嫌、離して、兎月ちゃ……」


 心臓が止まるその刹那。俺の死を感知した自爆装置が俺の死体を爆破して周囲を巻き込むのだろうが、もはやどうにもならない。俺が何かできる訳じゃないし。

 ただ、自分の呆気ない終わりに嘆きながら、俺の意識が次第拡散していく。


 最後に浮かんだのは……インセクト・ワールドの怪人同士での飲み会。

 皆……もう殆どの奴が正義の味方に屠られたが……はは、向こうに行ったら笑われそうだな……

 一般人に殺されたの、俺が初めてじゃないか?

 チクショウ、F・T、S・Sお前らはこっちに来るんじゃねーぞ。来たら絶対イジってやっからな。


 折角彼女、できたってのにな、童貞のまま死ぬのかよ……

 だが、最後の最後クラウド・バニーのばいんばいんは最高でした。ウサギ、最高。願わくば、次のせいではハーレムを……

 そんなことを思いながら、俺……は……――――

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