第8話 もののけと語り合う
もののけとして自覚が足りない葉子ちゃん。
うーん。どうなんだろう? 私としては幼女で妖狐なもののけの葉子ちゃんは「全然あり」だけどね。なんといっても可愛いし!
自覚が足りない話は良く分からないなー。だって可愛いなら何でもいいと思うのよ。むしろいいに決まっているじゃない! だって葉子ちゃんは可愛いよ? なんと言っても可愛いは正義だよ!
「そんな事は言わない」と言いたいそこの貴方! 昔の人々は言いました。「色白は七難隠す」と。色白は昔の美人の事です。美人は可愛くてきれいな人です。
だから可愛いは美人なのです! 美人は色白なのです! なので可愛いは正義!
うん、完ぺきな三段活用! 私も自分で何を言ってるのか分からなくなってきたな。誰だよ、そこの貴方って。
ポコポコと湯気を出しているやかんを見ながら、妄想を繰り広げている私を見て、楓さんが呆れた顔になっていた。どうかしたのかな?
「美裕はん。なんや百面相をしてるけど大丈夫? 見てておもろかったけど」
え? 百面相? そんなに顔に出てたかな? でも葉子ちゃんの事を考えてるから仕方ないよね? 私は楓さんの目を見て力強く大きく頷いた。
「葉子ちゃんの正義について考えていただけです!」
「正義!? もののけとしての自覚の話やのうて!?」
ああ、そうだった。もののけとしての自覚の話だった。妄想が捗って横道にそれちゃったよ。じゃあ改めて葉子ちゃんの「もののけとしての自覚」の話を考えるけど――考えられるわけがない。
だって! もののけとしての自覚ってなに! なにを指して言うの? そもそも私は一般人だよ。そんな人間に聞かれても分かるわけないよね。
「うーん。私には分からないですね」
素直に答えた私に楓さんが軽い感じで頷いていた。
「やよねー。でも、使役の契約を結んでいる美裕はんには考えてもらわんとダメなんよ」
またでた。なんだろう「使役の契約」って? 率直に聞いた方がいいよね。
「なんですか? さっきから楓さんが言っている『使役の契約』って?」
私の質問に楓さんは軽く目を閉じると話し始める。
「それは単純な話よ。術者が眷属と契約して色々な事をさせる。そのままの意味になるわ。そして私がここに来た時にはすでに美裕はんと葉子とは使役状態になってた。しかも代償なしで。本当になんでもさせる事が出来るのよ? それこそ、暗殺や自爆も。そんな事は妖狐の歴史の中でも無かった事なの。どれだけ異常な事か分かる?」
楓さんの怪しい京言葉が無くなり、標準語っぽく話し始めているのを私は黙って聞いていた。どうも私と葉子ちゃんとで契約が結ばれ、私が主人として葉子ちゃんを隷属している状態らしい。
全く自覚も感覚も無いけどね。それと暗殺や自爆? そんな事をさせるわけないじゃない! そんな非道な事を考える奴がいたら私がぶっ飛ばすわよ。
それにしても結んだ契約はかなり強固なんだね。私が死ぬまで葉子ちゃんは離れる事が出来ないんだって。
「葉子ちゃんと一生一緒に居られるなんてご褒美じゃないですか」
「いや、そんな簡単な事やあらへんで? 使役する為に美裕はんは葉子に力を渡し続けんとあかんし、これから行われる選定の儀式に参加する必要もあるんよ? 結構、長丁場になるけど、普通に働いている美裕さんに参加出来るんかな? OLさんやろ?」
前半の部分はよく分からなかったけど、後半部分なら大丈夫なのだよ。私の会社は仕事は忙しいけど、有給休暇が取りやすくて良い会社なのだよ。
「ふっふっふ。楓さんは人間社会の事を少しは知ってるみたいだけど、私の会社はホワイト企業なのだよ。そして今日は水曜日の平日です。つまり! 私は休みが取りやすい! さらには有給休暇も30日ほど残ってるから大丈夫!」
「ええ会社に入ってるんやねー。じゃあ選定の儀式にも参加してもらおうやないの。最近は力を持っている者が少なくて助かるわー」
やかんの前で楓さんと話している間にお湯が沸いたのを見て、私はお湯を湯呑に入れて少し冷ましながら、急須に茶葉を入れていると楓さんが感心したような表情を浮かべているのが見えた。
「日本茶の淹れ方を知ってるんやねー」
「聞きかじりですよ。湯呑に入れてお湯を冷ましたら急須に入れて1分ほど蒸らす。後は濃さが均等になるように注ぐくらいしか知らないです。ところで楓さん」
「んー?」
急須に湯呑のお湯を入れて、茶葉が開くの待ちながら私が問い掛けると、楓さんが首を傾げてこっちを見てきた。
「そろそろ、葉子ちゃんを解放しても良いですかね?」
「ああ、そうやった。まあ、ええやろうね。あの子も反省してるやろうし。だから湯呑が3つなんやね」
湯呑にお茶を注いでいるのを見ながら、私のお願い聞きつつ何度も頷いていた楓さんが葉子ちゃんの解放を認めてくれた。
良かった。せっかくだから3人で楽しくお茶をしたいよね。2段ベッドでムグムグと呻きながら動いていた葉子ちゃんに近付くと、その動きがピタリと止まったのが見えた。
「楓姉さま? ジッとしてましたよ? 本当ですよ? 解除しようとか思っていませんよ?」
いや、葉子ちゃん。その言葉を発した時点で完全に黒だよ。しかもしっかりと努力の跡が見えるよ。着物が少しはだけてるし、縄も緩んでいるようには見える。
「葉子ちゃん。頑張ったんだね」
「美裕!? 頑張ってなどおらんぞ! 妾は楓姉さまの仕置きを真摯に受け止めておったのじゃ! なにを言うか! 勘違いされるような事を言うでない!」
「まあまあ。楓さんが縄を解いてくれるって。私が解いても良いですか?」
楓さんの返事を待たずに葉子ちゃんに近付くと、縄を解こうとする。あれ? 私が触ったら思ったよりも脆くボロボロと崩れて消えていくよ。
「あれ? 崩れたね。葉子ちゃんが頑張ったからかな?」
「そんな訳あらへんやろ! うちの拘束術は強固で有名なんよ!」
あれ? 涙目になった楓さんが叫んでる。その横で拘束が解けた葉子ちゃんが楓さんに近付いて背中を撫でて慰めているようだった。
解せぬ。




