三 揺れ
子どもたちを学校まで送って行った後、六畳のベッドで二度寝をする。
このベッドから見える景色が好きだから、西向きの掃き出し窓のカーテンは常に開けている。
この家の外構はコンクリートで固められていて、家の裏には幅一メートルほどの空きがある。そこから五段ばかりの狭い階段を上がり、断面をやはりコンクリートで固められた休耕地に行くことができる。柿の木が一本植えられていた。地面は雑草に覆われ青々としていた。
ベッドに転がりうつらうつらとうたた寝をして、目を開けた時一番に視界に映る、この陽に輝く緑が好きだった。掃き出し窓の下半分は擦りガラスで、上半分は透明ガラスだったので、この緑だけが切り取られ、額縁に入れられた絵のようだった。
だから私はこの部屋の、この位置にあるベッドが好きだ。どんなに、眠りを邪魔されようと……。
昼に近かったと思う。いきなりベッドがガタガタと揺れた。
地震だ!
寝転んでいるのに、身体の安定が保てないほど激しく揺れている。
私は思い切り叫び声を上げた。
自分の声で、目が開いた。
辺りは鎮まり返っていた。
何も壊れていないし、動いていない。
部屋も、家具も、何もかも、息を殺してそこにあった。
私は深く溜息をついた。
まだ、自分だけが揺れているように感じた。
いや、やはり揺れていた。床ではなく、空気が、小刻みに振動していた。まるで地震の余波のように……。
それも、この部屋の中だけ。
ベッドに座って台所に目をやると、黄色のテーブルクロスを掛けた食卓が、きちんとお行儀よく佇んでいた。
まだ揺れている。
これではおちおち寝ていられない……。
何かないかと思考を巡らせる。魔除け。お守り。この土地に合うもの。
私は押し入れの中に入れっぱなしだった、いつも持ち歩いていたショルダーバッグを取り出した。
確か、ここに入れていたはず。
ああ、ちゃんとあった。
醍醐寺の山頂で買った不動明王の梵字の刻まれたペンダントを、台所との境に設けたカーテンレールに引っ掛けた。
揺れが、ぴたりと治まった。
私はほっと吐息をもらし、もう一度ベッドに横になった。惰眠をむさぼり、もっと深く意識の奥底に沈み込むために。