表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

三 揺れ

 子どもたちを学校まで送って行った後、六畳のベッドで二度寝をする。

 このベッドから見える景色が好きだから、西向きの掃き出し窓のカーテンは常に開けている。


 この家の外構はコンクリートで固められていて、家の裏には幅一メートルほどの空きがある。そこから五段ばかりの狭い階段を上がり、断面をやはりコンクリートで固められた休耕地に行くことができる。柿の木が一本植えられていた。地面は雑草に覆われ青々としていた。

 ベッドに転がりうつらうつらとうたた寝をして、目を開けた時一番に視界に映る、この陽に輝く緑が好きだった。掃き出し窓の下半分は擦りガラスで、上半分は透明ガラスだったので、この緑だけが切り取られ、額縁に入れられた絵のようだった。


 だから私はこの部屋の、この位置にあるベッドが好きだ。どんなに、眠りを邪魔されようと……。



 昼に近かったと思う。いきなりベッドがガタガタと揺れた。

 地震だ!

 寝転んでいるのに、身体の安定が保てないほど激しく揺れている。

 私は思い切り叫び声を上げた。

 自分の声で、目が開いた。

 辺りは鎮まり返っていた。

 何も壊れていないし、動いていない。

 部屋も、家具も、何もかも、息を殺してそこにあった。

 私は深く溜息をついた。

 まだ、自分だけが揺れているように感じた。

 いや、やはり揺れていた。床ではなく、空気が、小刻みに振動していた。まるで地震の余波のように……。

 それも、この部屋の中だけ。

 ベッドに座って台所に目をやると、黄色のテーブルクロスを掛けた食卓が、きちんとお行儀よく佇んでいた。


 まだ揺れている。

 これではおちおち寝ていられない……。

 何かないかと思考を巡らせる。魔除け。お守り。この土地に合うもの。

 私は押し入れの中に入れっぱなしだった、いつも持ち歩いていたショルダーバッグを取り出した。

 確か、ここに入れていたはず。


 ああ、ちゃんとあった。

 醍醐寺の山頂で買った不動明王の梵字の刻まれたペンダントを、台所との境に設けたカーテンレールに引っ掛けた。

 揺れが、ぴたりと治まった。


 私はほっと吐息をもらし、もう一度ベッドに横になった。惰眠をむさぼり、もっと深く意識の奥底に沈み込むために。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ