第六話
探索を開始して最初に見つけたのはケモミミ小女だった。
正確に言えば、前に狩った獣のもう一回り大きいのを買ったのだが、情報収集と言う面では、これが最初である。
「やばい。これ本格的にこの世界ケモミミ天国かも」
「じゃな」
「おっといけね、助けよう」
そうして取り敢えず意識があるか確認するため、肩を叩こうとして肩に触れた瞬間。
ケモミミ少女がクワッと目を見開き持っていたナイフのある方の手で俺の首をかき切ろうとすごい勢いで迫ってきた。
しかし掻き切るには至らず、触れるかギリギリの寸前で止まった。
場に沈黙が流れる。
「えっえええええええ!?」
ケモミミ小女が叫び出す。
「「えええええええ!?」」
こちらも負けじと叫ぶ。
「うわあっ!申し訳ありませんです!」
とっさに離れて土下座をするケモミミ小女。
(な、な、なにが起きたんだ。死んだと思ったぞ)
ユウタはいきなりの事態に流石に思考も回らず、呆気にとられる。
「いやあ、本当に申し訳ない。死んだふりをして、獣が襲ってきたところを狩るつもりだったんですが、危なかったですねえ」
悪びれもなく、良かったですねとでも言いたげな雰囲気でケモミミ少女が言う。
「いやいや、待て待て、危なかったですねえ。じゃ、ねええ!死ぬってほんと死ぬかと思ったんだからなあ!?」
ユウタは涙目で徹底講義する。
そして当のケモミミ少女はと言うと。
「えへへー」
「えへへじゃねえっ!」
「いや、申し訳ないとは思っていますよ。まあそれは良いとして。それにしても、貴方達は見たことがないですねえ。どこから来た人です?」
首をかしげ、不思議とばかりに聞いてくる。
「はあー。もういいよ。殺しそうになったのに軽すぎんだろ。いや、俺が見た最初の人だ。貴重な情報源だし無下にはできんか・・・」
「なんです?」
「ああ、いや、俺たち自身、記憶も曖昧でここがどこなのかどこから来たのかもわからないんですよ。人里や、この辺りの情報教えてもらえません?」
「ええー面倒くさいですねえ」
どこかでプチっと軽く血管が切れた音がした。
「俺、殺されそうになったんですよお〜?責任とってもらわないとねえ。何なら他の事で払って貰おうかなあ?」
ユウタは、周辺の物全てをちぢこませるほどの殺気を放ち、光の無い目で顔を近づける。
「ひいっ!わ、分かりました!案内しますししますー!だからお許しを!」
何か背中にぞくっと感じたケモミミ小女ーー先程教えて貰ったのだが、名はあると言うーーは、素直に頷く。
対して、ユウタはニコニコと微笑を貼り付け、満足とばかりに頷く。
その後ろで、ユキが、「ユウタ怖いっ!」と震えていた。
「ではレッツラゴーです」
勿論このテンションに乗れないユウタ達は、反応せず、微妙な空気が流れ、次に言葉を発したのもアルだった。
それは、自分の醜態をごまかすようでもあった。
「さあっ!つきましたよ!ここが我が里タルカンです!」
ここで冒頭に戻る。
何と、およそ人間という人種は見当たらず、ケモミミ達がはびこっていた。
「アルからも聞いたがやはり、この世界には、人間なる者は住んでいないようだな」
「そうですよ、ユウタみたいに、尻尾と耳を消せるものなんて聞いたことないです」
俺たちは、ここまでの道中である程度打ち解けていた。
「暫く、我が家に厄介になるといいですよ」
「すまない、ありがとう」
「ありがとうなのじゃ」
アルの家は族長の家で、ある程度の広さがあるようで今開いているという部屋を一部屋、ユキと一緒に借りた。
その部屋にはベット一つ、タンスにクローゼット、机一つに椅子一つという部屋だった。
木造の家で、少し年季は入っているが、それもまた風情というもの。
荷物を整理したら御礼に、今持っている獣肉を、族長さんに渡した。
「おおお、有り難や有り難や。この村にこんな大物を狩れるものはおらんでのう。今夜は宴じゃ。アル、村の皆に伝えよ」
「はい、お爺ちゃん」
「さて、お前さん達は、村を散策でもしてくると良い。アルが戻ってきたら案内させよう。と言っても何もないところじゃがのう。かっかっか」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」
村を散策していると、畑で作物を作っているところが見えた。
どうやら、最近はあまり、作物がとれなくなってきているらしい。
しかし、この世界は文化レベルが低く、現代知識を持っている俺たちからしたら、余り良いやり方では無いことがわかる。
「すみません、族長さんにお世話になって最近ここにきたものなんですが、此処はですね、こうして、肥料をこうすれば、格段に出来がよくな入りますよ」
「して、肥料とは何だい?」
(そ、そのレベルか。)
「家畜の糞だったり、葉っぱを腐らせて、土にしたものとかですね」
「それを入れたら、作物がなるのかい?」
「そうです。耕しただけの同じ土では、いずれ栄養がなくなってしまいますから」
「おおお、お前さんは物知りだねえ」
喜んでもらえたようで何よりだ。
そのあとユウタとユキは、同じように村を現代知識で魔改造し、村に住むものにも挨拶して回った。
そして日が落ち、村の中心で焚き火が行われている。
そう、今宵は宴である。
族長によって手回しされ、 ユウタらが狩ってきた獲物が調理され豪華に並んでいる。
男達はがっつり肉が食べられることに大いに喜び、子供がはしゃぐので、女は大変そうながらも楽しそうであった。
「やあにいちゃん。スッゲー世話になったな。あんな便利なもん初めて知ったぜ」
(この人には水車を作ってあげたな」
「お兄さんやい、ありがとうな、あんなもの初めて見たよ。」
(このおばさまには、電球を作ってあげた)
こんな風に其処彼処から、感謝の言葉が行き交う。
今宵の宴はユキとユウタの歓迎会となった。
次の日。
昼過ぎに何かすることは無いかと、辺りを散策していると、何やら村の人々が一つの場所に集まっていた。
「何かあるんだろうか」
気になって見に行って見ることにした。
「何をされているのですか?」
近くにいたアルに聞いてみる。
「ああ、あのですね、領主様がまた年貢を徴収しにきたんです。今年に入ってもう何回目かわからないですよ。すでに年貢じゃないです」
「そんなひどい領主なのか」
「そうなんです」
話に聞くと、その領主はポドモンといい、見た目は100キロを優に超えるデブで、見た目そのまま中身まで醜悪そのものなのだあるそうだ。
そんな思考にふけっていると、デブ領主がユキに卑下た視線を向ける。
「ふひ、そこのおなご、余の側室にならんか。飯もたらふく食わせてやるし何でも買ってやるぞ。どうだ?悪い話では無いであろう?」
ユキはあまりにテンプレで醜悪極まりない言葉、外見、その他諸々に相当な悪寒を覚えたのか、震えながら、「嫌じゃ嫌じゃ!そんなのいらぬ!」とユウタの背中にがっちりしがみついた。
「ならいた仕方ない。余と婚姻を結ぶのである。この領地の領主の妻であるぞ?ふひっ。そうと決まれば、さっそく式の準備を進めるのであるぞ」
「いやじゃーーーー!」
「おい、そこので、領主様よ、ユキは嫌だと言っている。なにをかってにきめている!」
ユウタもユキの思いがよくわかるほどあやつは気色悪いので追随した。
「何であるかお前は。おい、チェン。あいつの首を掻っ切るのである」
「はっ、流石はポドモン様。何とも早い決断力、恐れ入ります。この私目があの輩を血祭りにあげてあげましょうぞ」
そうしてユウタ対デブ領主の懐刀、チェンとの決闘となった。
評価等、宜しくお願い致します。