第五話
木々の隙間から木漏れ日が差し込み、森の中にも日が昇ったことを伝える。
ユウタは重たい瞼をこすり、思いっきり体を伸ばす。
ふと、隣を見やるとユウタと同じように瞼を擦り、体を伸ばす。
「おはよう」
「おはようなのじゃ」
ユキはニカッと笑って元気が復活したようだ。
早々に朝の支度を済ませ、もう一度火をおこす。
破片が丸みを帯びていたので、大きめの破片でしっかり洗ってなべがわりにする。
石や木々で、鍋を支え木の実、きのこ、肉も入った薄味のスープが完成した。
昨日は一心不乱で獣のように食べたのであまり味わわなかったが、これがなかなかに美味である。
きのこはしっかり旨味があって味と食感はエリンギに近いだろうか。
少し小ぶりなエリンギで、旨味は強い。
魔物の肉は特に衝撃的であった。
恐らく、普通の肉なのであろうが、まだ狩って1日もたっていない肉は食べたことがない。
新鮮度が桁違いなのだ。
もしかすると表面をあぶるだけでも食べられるかもしれない。
木の実、これはジャガイモのような食感で少し水分量が多いと言ったところか。
兎も角スープにして正解であった。
ユキも同じことを思っていたようで、顔を見合わせて「美味しいね」と言外に伝え合う。
ある程度落ち着いて食事するようになった頃、ユウタは切り出した。
(これは聞いていかなければならない。俺たちの行動指針に関わる。それと絶対的に情報が少なすぎる)
「ユキ、俺と出会うまでのこと、聞かせてくれるか?」
「・・・わかったのじゃ」
ユキはその容姿に似合わない達観した様子で遠い目をしながら語りだす。
「あれは、そう、ユキはこのもう少し奥の森で、ユウタみたいにカプセルが壊れて地面に横たわった状態で目を覚ましたのじゃ。やっぱりここはあの凍結の日の遥か彼方なのかって思ったんじゃが、どうにも分からないことがあった。其処には人がおったのじゃ。あれは、なんというのか、そう、ファンタジーに出てくる、エルフじゃ。あの耳の長いの」
ユウタはエルフと聞き、驚く。
生活圏まで築いているのか。
あの機械的だったデュアルとは大違いだ。
それにデュアルとは動物の遺伝子で強化人間を作成するもので、エルフなど、創造することは容易くないはずだ。
いったいどんな工程を踏んだのか想像もつかない。
「デュアルを見たことがあるから驚きはせんかったが、そこからが大変じゃった。最初は他種族だからと嫌な顔をされながらも食事をくれたのじゃが、いかんせん食べすぎてしまっての。晴れてエルフから追われる身となったわけじゃ。どうも起きてから食べる量が増えた気がするのじゃ」
ユキの気楽さ、奔放さに、あっけに取られたような顔をする。
「おいおい。今食ってるのでお腹いっぱいじゃないとか言うんじゃないだろうな」
「むうー。仕方がない、この倍で我慢してやるのじゃ」
「こんだけ食って半分!?すでに3キロは食ってるんじゃないか?またこいつ狩らなきゃなのかー」
ユキに変わって今度はユウタが遠い目をする。
「まあそれでじゃな、なぜか思ったより症状も出ず、生きれたんじゃが、それから何も飲まず食わずで一週間だったんじゃ。ユウタ、本当に嬉しかったのじゃ。ありがとう」
「ああ、こちらこそユキが見つかって嬉しかった。生きててくれてありがとう。さて、仕方ないからユキの食べもんはなんとかしよう!」
胸に拳を置き任せろと言うようにダンと叩き、頼れる男アピールのユウタ。
そして少し落ち着いたらこう言った。
「今からのことを決めようか」
「そうじゃな」
「まず、その耳はなんだ」
「ユキもそれは言おうと思っておったのじゃ。ユウタよ、その耳はなんなのじゃ」
お互い、相手の耳部分に視線が寄る。
まさかと思い自らの耳に触れると、「ふさっ」とした感覚が。
「う、そ、だろ(じゃろ)?」
なんと二人共に獣耳が付いていた。
因みにユウタは猫耳、ユキは犬耳。
「何てことだ。まさかこんなことになっちまうなんて、いや、でも可笑しいぞ?こんな尻尾も昨日は無かったはずだ」
一晩で生えたのか?いや、そんな事はないだろう。
思案にふけっているとユキが「引っ込めーー!」と唸っていた。
ユウタは自分の耳を触りながら、くすぐったい感覚に、本物だと感じる。
「引っ込んだ!」
「うそお!?」
何と気合で尻尾と耳を引っ込ませることに成功したユキ。
「ど、どうやったんだ?」
「えっとね、何か目を覚ましてから身体中に違和感を感じないかの?全身に巡るエネルギーみたいなもの。それを一点に集中させる感覚じゃ。目を閉じて見ればわかるのではないかのう」
そう言われたユウタは目を瞑って、全身に感覚を集中する。
すると、明らかに血液とは違うエネルギーの液体、いや、もっと細かい粒子のようなものが、全身を駆けずり回っているのを感じる。
(これか!よし。)
それからユウタは何かを掴み始めたのか、ユキにも集中してそれを感じてみろと言い、自身も完全に瞑想する様にあぐらを組み、集中して感じる。
(おおっこれは色々できそうだ。なんなんだこの不思議粒子は)
ユウタは体の中で不思議粒子の感覚を掴み取り、元から知っていた様に全身の中でコントロールすることが出来た。
どうやら、この不思議粒子は身体中で性質を変えることができるらしい事がなんとなくわかった。
(あの科学者はサードヒューマンと評して俺たちの体に何をしたのだ。外の環境に適応するための適合者と聞いて、外界の美味しいものでも食べられるようになるだけかと思っていたものを)
「ユキ、掴めたか?おそらくこれは熟練度がまだまだ俺たちでは足りない。でも、この粒子の密度を高くすると、その部分だけ硬質化して力もあげられる様だ。少し放出しながら身体にまとわせるだけでも軽い怪我なんかかすり傷にもならないとおもう」
「そ、そうなのか?放出というのはぐあーってやってぴたーでいいのじゃな?」
そう言って擬音語ながらも体全体で表現するので存外わかりやすい。
「そうだ。多分この不思議粒子のお陰、お陰と言いたくはないがそのお陰で今までと違う事が起こっているのかもしれない。こんなもの、最早魔力だな」
「おおっ魔力とな!じゃああれかなのじゃな?ファイアーボールとか打てるのじゃな!」
少し中二病気味のユキにはこの魔力という言葉に反応し、手に不思議物質ーー以降は魔力とするーーを集中し、「ファイアーボール!」などと叫んでいるか流石にそこまで簡単に発動出来流ほど甘くはない様だ。
しかし、これでわかった事が幾つかある。
1.先の魔獣戦であの肉硬い皮膚を容易く奥深くまで刺す事が出来たのは、この身体の補正効果、または魔力による補正では無いかという事。
2.ユキしかソースがいないので不確定ではあるが、一週間飲まず食わずでも問題が無い事。
3.これも不確定ではあるが、エルフがいた事で自分たち以外の人間の存在がいるのでは無いか、という事だ。
これらを踏まえた総評。
まずこの世界は、あの日からかなりの月日が流れた世界、若しくは、馬鹿馬鹿しいが、別世界では無いか、という事だ。
エルフなどというふざけたものや、この魔力などという物質が存在するのか。
以前の俺たちがいた頃には恐らく近宇宙を含めて、全ての粒子が把握されていた。
今の世界は科学的にありえない事が多すぎる。性質の変わる粒子など、世界のことわりごと変わって、ファンタジーの世界にでもなったかの様だ。
しかし、まだ情報が少ない。
この身体があれば少しの無茶は耐えられるはずだ。
少し睡眠を減らし、探索時間を増やそう。
そしてユウタ達は探索を開始した。
「行くぞ、ユキ」
「はいなのじゃ!」
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