第四話
第四話
千年前の荒廃した地。
それ以降の息を吹き返した地上を人間は無人ロボットに搭載されたカメラより撮影された、モニター越しの映像でしか目にしたことはない。
そこは大自然。
荒廃した地など極々一部。
以前の砂漠は草原へと、海や川も綺麗に、林は森へ。
動物も長い年月をかけ、人のいない生態系へ、更に、個々として進化も繰り返してきた。
しかし、眼前の光景には先に行った事と違う部分があった。
今ユウタが見ている光景には、凡そ、人間と言っていい者たちが生活環境を築き上げ、賑わっている。
しかし違和感もあった。
その者たちに付いている尻尾や耳が獣に似ているのだ。
今、目の前で自分達をここまで案内してくれた、アルという名の少女にも、付いている。
どうしてこんなことになったのか。
・・・・・・・
時を遡って、ユウタたち被験者が同時に目を覚ました時。
そこは凍結保存されているような場所とは思えないような場所だった。
そこは森の中。
然も、かなりの深部で、太陽は真上にあるのに薄暗い。
自らのカプセルも、ほぼほぼ大破していた。
当然、周りにはアイト達のカプセルは見当たらず、自分のカプセルのみが落ちている。
(どういう事だ。此処は地上なのか?其れとも地下のプラント?だが、あれは人工太陽には到底見えないな。人工雲にしたってあんな高度には位置しないはず。じゃあ何か?俺はカプセルで移送中にトラブルで此処に落ちたとでも言うのか?)
思考を巡らしながら、検査着姿で手に持つものがなく、手持ち無沙汰のもあり、自衛の手段を探す。
(お、これは良いや)
カプセルの破片が丁度良い大きさで、刃物のようになっていた其れを片手に持ち、どこの部品かわからないがワイヤーがあったので其れはポケットへ、後は小型のナイフ状の破片を三つほど。
現状、何も情報がなく、簡単に動く事もままならないので、先ずは行動を決める。
(先ずは自衛は良いものが手に入ったし、取り敢えず食料と水、拠点は取り敢えず、このカプセルをどうにか使おうか。後は、って一生サバイバルなのか??俺。アイト達どこにいんだよ。大丈夫かなあ。女子達は一人じゃなきゃ良いけど)
取り敢えず思考を巡らしながらも作業を進める。
先ずは、カプセルは相当目立つので葉っぱで緑色に覆い隠す。
この辺りの葉っぱは相当に大きく、おそらくハンモックも編めそうだ。
次は資材集め。葉っぱで作った簡易バッグに焚き火用の小枝や、木の実、以前図鑑で見た事のある食用キノコを入れていく。
途中、手頃な枝を折り数回に分けて拠点へ運び込む。
(水場を見つけないとマジで死ぬぞ俺っ)
そう思っていた矢先に、びちゃびちゃと、液体が跳ねるような音がする。
(水だっ!)
見えた希望に頬が上がり、少し早足になる。
水音はすぐそこなのに、水場特有の冷気が漂ってこない。
不審に思い、足音を殺しながら木々の隙間からその奥を見やる。
ユウタは蛇に睨まれた蛙の如く完全に固まった。
眼前の光景があまりにも衝撃的だったからだ。
水音は水音などでは無かった。
其れは血肉を喰らう肉食獣の咀嚼音だった。
口元が汚れる事も躊躇わず、ただ腹を満たすだけの下品な行為。
其れは、野生そのものだった。
数秒の咀嚼音を聞き、ようやく意識が鮮明になってきて状況を確認する。
何故こんなに余裕があるのか、其れはユウタは衝撃こそ受けたが、普通の人とは思考が違った。
(見つけた。食料だ)
なんとこの自身の体長と同程度の大型獣を食料と認識する。
其れには食糧以外にも幾つか理由がある。
先ずは塩分、これはサバイバルではかなり強い要素である。
人間は、塩分が枯渇すると様々な症状が現れ、死へと向かっていく。
後は水分や、脂質等もである。
肉にはかなり必要な養分があり、必ず何処かで手に入れる必要があった。
恐らく、自分は少しずつ体力を消耗するだろうから、今、体力がある時に狩る必要があり、さらに相手は食事中。
此処まで絶好のチャンスはないだろうと思い至ったのだ。
この状態でも、此処まで思考が回るほど、ユウタは冷静かつ沈着、そして頭もキレるのだ。
然し、相手は千年万前の生温い動物などではなく、進化した魔物とでも言うべき形相である。
普通のものならまず、実行に移す事などないだろう。
だが、ユウタは実行に移す事に決めた。
気配を消し少し離れた位置に、入念に何重にも罠を仕込む。
初撃が一番重要で、其処からどれだけ相手を欺き優位に立てるかだ。
あの獣相手では、優位性の確保が最重要。
一度でも均衡が敗れればこちらがやられる。
(よし、完了だ。絶対に負けない。完璧だ)
ユウタは背後から近づき、ナイフ型の破片を動脈の集まる首筋目掛けて両手で奥深くまで刺す。
「GUOOOOOOOO!!!」
突然の事に驚いた魔獣は数秒状況がわからず、戸惑ったが、標的を確認し、激昂する。
ユウタにとって1秒あれば良いと思っていたので、この数秒のタイムラグはかなりの良い誤算だった。
ユウタはその間に決めていたルートを走る。
木々を抜け、自分の姿が魔物に見えやすいように走る。
魔物は当然、頭のすぐ其処の動脈を切られ、頭に血が行かず、獣未満の思考しかできない。
ユウタにめがけて一直線で走る魔物。
「GAO?」
--瞬間、魔物はの前足が真っ二つに切断される。
魔物はのたうちまわり、血が噴き出す。
ユウタは直様振り返り長剣型の破片で魔物の目を潰す。
少しづつ弱り、遂には絶命した。
「よしっ!肉ゲット。でも物足りなかったな。魔物ってこの程度か。人一人にやられるなんて情けないなあ。取り敢えず拠点に戻ろう。さっき水場も見つけたしな」
水場を見つけたユウタは、カプセルにあった水筒を容器にしてなんとか1日分の水分を手に入れた。
カプセル何でもあるな、と思うかもしれないが、被験者は、外界からの影響を受けないために、数日、カプセル内に隔離される。
その為、案外いろいろなものが揃っていたりするのである。
拠点に戻り、ハンモックと簡易的な屋根を作り、気をこすり乾燥した木の皮で火種を作り、焚き火する。
其処には、キノコ、肉を串刺しにして焼いていた。
「おおっ!良い匂いがしてきたな!(のじゃ」」
「え?」
何と目の前にはユキがいた。
平然と目の前でよだれを垂らしている。
(幻覚か?いやいや、俺は何も食ってないしそんな症状に陥る原因はないはず)
「ゆうたあー。たべてもいいかー?」
平然としているが、雪の格好はかなりボロボロで少し痩せこけている気がする。
ああ、本物だ。
何故かそう感じた。
ユキ一人でこんな環境はキツイどころではないだろう。
生きていてくれた事に感謝だ。
「ああ。いっぱい食べろ。いくらユキでも数週間はかかる量があるんだからなっ」
少し自分でも心細かったのか少し込み上げてきて、声が上ずってしまう。
「うん・・・!」
下を向いてしまったので、ユキの顔を見ようともう一度顔を上げた。
ユキは泣いていた、笑いながら、顔をぐちゃぐちゃにしながら食べていた。
其れに対して色々察したのか、ユウタは一言こう言った。
「ありがとう・・・!」
お互い涙でぐちゃぐちゃになりながら、ユキもこう言った。
「ありがとう・・・!」
「ははっ・・・!」
「へへへっ・・・!」
その晩、大量の肉を食べてお腹いっぱいのユウタとユキは、お互いが心の拠り所であり、離れたくなかった。
ハンモックをもう一つ作るには一時間はかかるし夜の活動は危険。
そんな理由をつけて、二人でハンモックで寝た。
背中を合わせ、不安を紛らわすため、背中の暖かさを感じながら瞼を閉じる。
二人ともただただ、不安だったのだ。