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通りすがりの竜騎士ですが、何か?  作者: ペケペケ
第1章・最弱の魔法使い
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第四話

 夕暮れ時、赤い日差しが窓辺から差し込んでくる。


 何かに打ちひしがれた目の前の女の子、自分とは違う輝きを持つ女の子。


 喜びに流す涙が綺麗で、どうしようもなく目を惹かれた。


 泣きながら顔を上げた少女はとても…………。






 アルフレッドの寝起きは決して悪くない。

 目覚めてから数秒もしない内に活動を始める事が出来る。ただ、寝起きが悪くない事と寝相が悪い事は全く関係がないので、アルフレッドの一日は部屋の掃除から始まる。



「はぁ、今日はまた一段と凄いっすね」


 男子寮、その一室。


 アルフレッドの眼前に広がるのは荒れ果てた自分の部屋だった。


 昨夜は確かキチンとベットに潜り込み、いつも一緒に寝ているドラゴン人形にお休みと挨拶までした筈だった。


 しかし、目が覚めてみればドラゴン人形は無残に引き裂かれ、当の本人はというと何故かシャワールームでうつ伏せになって寝ていたのだ。


 朝に目が覚めてから味わうドラゴン人形への悲しみは恐らく計り知れないが、アルフレッドは悲しみに涙を流す訳でもなく平然と掃除を始めるのだった。


 面倒だと嘆息し、アルフレッドは呟く。


「なんでこう、俺はちゃんと寝れないんすかね?」



 本人がその理由を知らないのなら、きっと誰もその理由は知らないだろう。


 バラバラに引き裂かれたドラゴン人形のドー君を袋に詰め込むとアルフレッドは自室を後にする。


 エントランスのような装飾を施されている男子寮の出入り口、管理人の住む小さな窓口をアルフレッドは三回ノックする。


「あれ? 珍しいねアルフレッドくん、僕と付き合う気になってくれたのかな?」


 窓口が開いた訳ではない、だが窓口から彼女は顔を出した。


「クロエっちは相変わらずっすね、今日は久々にドー君がバラバラになったから修理をお願いしに来ただけっすよ」


 なんだ、とクロエはあからさまに残念がる。


「しかしねえ、アルフレッドくん、君のお願いごとは毎回毎回難易度が高いんだよ、ドー君は修理じゃなくて、創作といっても過言ではないんだよ?」

「クロエっちならなんとかなるっす、変態の存在意義なんかこれくらいっすよ!」

「なるほどそうだったのか! 分かったよ! うん? そうかな?」

「じゃ、頼んだっす」


 変態が存在意義を考え出したらおかしな事しか口走らないのは知っていたので、そそくさとアルフレッドはその場から離れる。すると、



「ねえキミ! 僕の、僕の存在意義は痛みをーーーーーー」


 アルフレッドはクロエに捕まった哀れな男に黙祷を捧げると集合場所へと急いだ。






 アルフレッドは特別早起きをしている訳ではない、そのため、荒れ果てた部屋の掃除をしてから実習の為の集合場所に移動する時間を考えると遅刻ギリギリになってしまう。

 必然的に朝食を抜く事になるのだが、それは以外とアルフレッドに取っては死活問題だった。



「でもどうしても早起きをする気にはなれないんすよねぇ」


 グーと鳴るお腹をさすりながらアルフレッドが呟くと横から注意の声が飛んでくる。


「アルフ、教員の方の説明の邪魔はするものじゃない、なんだその腹の音は? コントか何かか?」


 濃いブランドの髪をかきあげながらシーカー・マクシミリアンはアルフレッドの事を睨みつけると、悪びれた様子もなくアルフレッドはシーカーに一応謝罪する。


「いや面目無いっす、起きたらまた部屋が荒れてたんすよ、お陰でまた朝飯を食えなかったっす」


 アルフレッドの言葉にシーカーはいぶし噛むような表情をすると、注釈するようにアルフレッドの物言いに付け足す。


「あれは荒れているのではなくてお前が荒らしているんだ、お前の部屋に泊まった時は本当に死ぬかと思ったんだぞ?」


 シーカー曰く、嵐の中を航海する船で寝る方がマシ、との事だった。

 褒められていない事は知っているが、アルフレッドは戯けるように照れたフリをする。


「いやぁ、そんなに誉めないで欲しいっす」

「褒めてはいない、お前はいい加減にその呑気を直すべきだ、#EX職業__エクストラクラス__#の自覚が全く足りていない」


 小言を言うのがシーカーだと知っているので、アルフレッドはいつもの返しをする。


「そんなこと言われても困るっすよ、俺は別に最弱でいいんすから」


 シーカーは呆れたようにため息を吐いて、雑談は終わりだと言わんばかりに前に向き直る。



 いつもなら聞き流すシーカーの小言だったが、今日は妙に心に引っかかった。


 ーーそうっすね。俺もリリィ見たいに何かを目指すのは良いことなのかもしれないっすね。


 退屈な野外実習の説明と空腹から逃避するようにアルフレッドは自分のやりたい事を考えてみるが、ついぞ長い説明の間にその答えが出ることはなかった。







「よっし、シーカー朝飯を狩りに行くっすよ」


 野外実習の説明を終えて、各班で行動する事になった矢先、アルフレッドはシーカーにそう言った。


 小さくため息を吐いて、シーカーはアルフレッドに聞く。


「アルフ、なぜ私がお前の朝食を一緒に狩りに行かないといけないんだ?」


 シーカーは額に手を置いてアルフレッドの脈絡の無さに頭を抱える。

 今さっき、野外実習の課題を聞いたばかりなのに何故そういう発想が出てくるのか全くの謎だった。



「何いってんすか? せっかくの野外実習に狩りの一つもしないなんてもったいないっすよ」


 満面の笑みでそんな事を言うアルフレッドに、シーカーが課外実習のなんたるかを説明し始めるのだが、


「私はそういう事を言っている訳じゃない、いいかアルフ? 課外実習というのはなーー」

「うおぉぉぉぉ」


 シーカーの話を遮るようにアルフレッドはのたうち回る。


「人の話を聞けえぇぇぇぇぇぇ」

「す、すまないっす、でもこの花を食ったら舌に激痛が走ったっんすよ」


 アルフレッドの手に持つ草を叩き落とすとシーカーは憤慨しながらも小言を続ける、が


「訳の分からない物を口に入れるな! 子供か! これは毒草だ、花ではない! いいか? 野外実習というのはなぁ、」

「ヌオォォォォォォォ」

「話を遮るなァァァァ」

「シーカー! このキノコみたいの食ったら目に激痛が!」



 延々と同じ事を繰り返しそうな予感がしたシーカーは渋々アルフレッドの提案を受ける事にしたのだった。







「シーカーの夢はたしか精霊剣士になる事だったっすよね?」


 緑の色が濃い山道を歩きながらアルフレッドはそんな事をシーカーに尋ねた。


「そうだが、それがどうかしたのか?」

「いや、俺も何か目指す物でも探してみようかなって思ったんすよ」


 思わぬ返答にシーカーは驚くが、なるべく表情に表に出さないように徹すると、賛成の意を唱える。


「それはいい事じゃないか、私は賛成だ。とりあえずアルフは最強の竜騎士でも目指したらいいんじゃないか?」


 それとなく最も簡単な道のりを提示してみるが、あっさりと一蹴される。


「そういうのじゃないっす、もっとこう、何かを作るようなものがいいっす」

「生産的な職業ということか?」

「それっす」


 何故こう難しい道を行こうとするのか、とシーカーは少しだけ呆れるが、今回の件に関しては、アルフレッドが本気で考えているのは伝わっていた。


「生産的なものか。それが難しいのはアルフが一番良く知っているだろう? 何故そんな事を?」


 シーカーはアルフレッドの体の事情知っている。

 だから気になったのだ、何かを目指すこと諦めてしまった友がどうしてまた目標を立てようとしているのか、と。


 シーカーの問いを聞いたアルフレッドは目を閉じる。

 瞼の裏側には悔しさに涙するリリィの姿が焼き付いていた。


「特別な理由なんてないっすけど、たぶん羨ましくなったんすよ」

「羨ましい? 何がだ?」

「情熱っていうか、やる気っていうか、才能なんかに絶対に負けないって意思、すかね?」

「肝心なところで疑問にするな、だからお前はブレるんだ、もっとしっかりとだな……」


 アルフレッドの眼を見たシーカーは言葉にすることを止めた。アルフレッドの眼が、俺は本気だ、と物語っているような気がしたからだ。


 シーカーは小さくため息を吐く。


 ーー本当に、どうしてコイツはいつも辛い道を選ぼうとするのだろうか?


 その様子を見たアルフレッドは、すいませんっす、と小さく謝る。



「アルフ、お前が本当に竜騎士以外の何かになりたいなら私は協力する、それは………約束する」


「シーカー、ありがとうっす」



 照れ臭いのか、二人はお互いを一瞥する事なく黙々と山道を登り続けたが、シーカーがある異変に気付いた。



「アルフ、何かおかしくないか?」

「? 何かってなんすか?」

「獣の数が少ない、いや、ここまで一匹も見かけていないような気がする」

「そういえばそうっすね、そろそろ魔獣辺りが襲ってくる筈なんすけど」

「お前の予定は知らないが、襲われてもおかしくないという状況には賛同しておこう」


 二人は一旦、足を止めて周囲の警戒する。シーカーは耳をすませて一帯に広がる音を感知し、アルフレッドは感覚を研ぎ澄まし生物の気配を探る。


 周囲の状況を確認し、二人が出した答えは全く同じだった。


「災厄、か?」

「可能性は高いと思うっす、この山から生物が軒並み避難してるっすからね」

「ああ、鳥の囀りどころか、虫の蠢く音すら聞こえなかった」

「美味いといいんすけどね」

「私としてはすぐに学園に戻って討伐隊を組みたいところなんだがな」



 殺気に似た気配が辺りに充満した。


 殺気を放つ何かは二人が警戒を始めた事に気付いたのだ。



「もう遅いみたいっすよ」


「そのようだな」



 〝それ〟は二人の会話を遮るように前方から猛然と木をなぎ倒しながら駆けてくる。

 大柄な体長はゆうに10メートル超え。口元には獰猛な牙を覗かせている。

 強靭で禍々しい四肢には人や獣を簡単に引き裂けそうな爪を持っており、〝それ〟の皮膚は全てを拒絶しそうな黒光りをする竜鱗を纏い、恐らく生半可な攻撃では傷一つ付けることは出来ないだろう。


 〝それ〟は翼のない竜だった。

 禍々しく、雄々しく、人々が怖れて止まないの恐怖の対象。


 災害指定生物に認定されている〝それ〟は地竜と呼ばれる災厄だった。


 

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