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【昔語り】

【2014年2月27日昼前 板宿駅近辺の喫茶店】



少女と少年が入ったのは、木目調の内装をした喫茶店。

窓際の席に二人は陣取っていた。外の道路を自動車が走り抜けていく。

博人がテーブルの向かい側へ視線をやると、麗しい少女の姿。

ダンプトラックに轢かれたというのに、傷一つない。

その肢体だけではなく、身に着けているものも。

先ほど起きた事は本当に現実だったのだろうか?

博人少年は自分の正気を疑い出していた。

一方、そんな少年の視線を知ってか知らずか、ワンピースの少女はメニューを見ている。

「―――うむ。メロンソーダにしよう」

お前はどうする?と真顔で聞いてくる少女。親切である。

「あ、じゃあジャンボパフェを」

注文を取ったウェイトレスが店の奥へと歩いていくのをよそに、少女は肘をつき、顎を手で支えている。

その視線は博人へと向けられていた。眼帯にされている刀の鍔がミスマッチであった。

「あの……その眼帯は一体」

つい疑問が、少年の口をついて出た。

「ああ、これか?ファンがうるさくてな。変装だ」

「ふぁ、ファン?」

「わたしはこれでもアイドルという奴を生業にしていてな」

驚愕の事実であった。というか殺人アンドロイドもどきがアイドル!?

「これでも去年は、大晦日に公共放送でやってるあれに出たぞ」

「……こ、紅白カラーのあれ!?」

そういえば、確かにいた。この美少女。見覚えがある。

内心穏やかではない少年に対して、少女は頷く。

「うむ」

「……なんでそんな人が僕を襲うんです?」

疑問である。恨みを買った覚えなどないのだが。

「話は、今から一万と二千年前までさかのぼるのだが」

「前世ネタやめてくださいよ」

「誰が前世ネタだ」

イタい人だった。帰った方がいいかもしれない。

―――いやただのイタい人がダンプ持ち上げたり腕変形したりしないから!?

気を取り直す。

そんな少年へ向け、少女は語り始めた。

長い長い話を。




私の種族が生まれた星は、こことは異なる。

恒星に近く、とても高温で、珪素と金属主体の機械生命体が埋め尽くしていた星だ。

だが水はあった。超臨界水、という奴だな。極限のバランスで液状を保っていたよ。

我々の祖先は、地球で言えばアリや蜂のような生態を持っていた。群体だったのだ。

彼らは進化の過程で知能を持った。それは人類とはだいぶん異なる、巨大な集合知性体だ。

数が増えれば増えるほど、祖先は賢くなっていった。知識も蓄積していく。

やがて、彼らは自らを改造していくことを覚えた。

死んだ個体の体をバラバラに解体して、他の個体にくっつけたりとかな。接ぎ木のようなものだ。

それは地球で言えば、道具を作り始めた事に相当するだろう。

やがて知識を蓄え、改造技術も洗練されて行き、彼らは宇宙へと進出した。

失敗も色々重ねたがね。

そして―――自分たち以外にも知性体がいる事を知った。

それもたくさん。本当にたくさん、銀河には知性体が住んでいた。

初めての接触では、大変不幸な出来事が起きた。

彼らの一部―――群を構成する者の何体かが、異星人の手で捕まり、破壊された。今になって思えば、ロボットだと思われたのだろう。調査するつもりだったのかもしれない。

だが当時の彼らにそんな事、分かるわけがない。

彼ら―――もう、私たち、というが。私たちは、恐怖した。

私たちを破壊する他者がいる!

それは、私たちにとって初めての体験だった。そう。初めて敵と遭遇したのだ。

恐ろしかった。本当に恐ろしかった。

だから―――私たちは、私たちを脅かすすべてのものを滅ぼす、と決定した。

そう。すべての知性体の根絶だ。

そうしてあらゆる知性体に戦いを挑み―――そこに立ちふさがった者がいる。

そう。お前だ。

お前によって我が種族は滅亡寸前まで追い込まれた。

それが、一万二千年前のこと。

角田博人よ。

お前は、我が種族を滅ぼす男だ。




「……」

少年は無言。

「どうだ恐れ入ったか」

と、そこへウェイトレスがやってくる。

彼女はメロンソーダとジャンボパフェをテーブルへ置くと、再び店の奥へ。

少年は呆然としながらも、スプーンを手に取った。

ぱくっ。

美味い。

その一口を飲み込むと、絞り出すような声を、博人は出した。

「……なんですかその出来の悪いラノベみたいな話……」

「何が出来の悪いラノベか!?我が種族の存亡の話だぞ!?」

「いや、前半はいいんですけど、なんで僕が唐突に登場するんですかぁ!?一万二千年前ですよね!?」

「しょうがないだろタイムトラベルしやがって!」

「え、なんでそこでタイムトラベル!?」

「でなきゃどうやって一万二千年前に登場できると思うんだ!?」

ぜいぜい。

興奮した少女は、ストローから一気にメロンソーダを吸引。

機械生命とか言う割には人間臭すぎである。

「大体ですよ、僕が仮にその一万二千年前に行ったとしてですよ?どうやってあなた方倒したんですか。この際あなたが機械生命体なのは百歩譲ってありとしますよ。でもあなたみたいな凄い力を持った人を倒すなんて僕には無理ですよ」

ダンプに轢かれても平気で腕がビームガンになるような殺人アンドロイド(仮)なんかに、ただの少年でしかない博人が勝てるとはとても思えない。

担がれてるんじゃないか?

そう思う。

それに対する少女の返答はシンプルであった。

「ああ。別にお前が超能力を発揮して我らをバッタバッタと倒していったわけじゃあない。お前は、簡単に言うと会社を作ったのだ。戦争を代行する、いわば民間軍事会社をな。ちなみに今でも存続してるが」

「か……会社!?」

ビックリである。一万二千年前の会社が存続してる事もだが。

「当時の我らは、恒星間航行技術こそ有していたが、戦争は下手くそだった。何しろそれが初めてだったからな。戦い方自体が試行錯誤だったと言っていい。

いや、銀河じゅうが、と言った方がいいか。当時、戦争が上手な種族は銀河系にはまったく存在していなかった。お前を―――地球人をのぞいて」

「じょ、上手なんですか地球人って!?」

「同族同士でこんだけ殺し合ってて、核エネルギーまで手にしてるのに滅んでいないのは人類だけだよ。

そのおかげで、地球人は宇宙でも屈指の戦上手だ」

故に、種族レベルで地球人は戦争の才能があるのだ、と少女は告げた。

「そ、そうなんだ……」

「そうなのだ。

わたしも、お前が生み出した兵器を参考に、より進化したものとして建造されたのだよ」

「でも、僕そんな凄い兵器作れるほど頭良くないですよ」

「科学技術の基盤自体は既に銀河系には存在していた。お前はそれを組み合わせる能力が優れていた、ということだな」

「な、なるほどなぁ……あれ?じゃああなた方も核兵器とか持ってるんですよね?」

少年の素直な疑問。

「うむ。当然だな。もっと凄いぞ。私一人でも今の地球を壊滅させるくらいなら造作もない」

「じゃあなんで、昔の地球滅ぼさなかったんですか?僕をわざわざ殺さなくても人類滅ぼせば歴史変わるんじゃ」

「……面倒くさい事情があってな。

収斂進化という言葉を知っているか?」

「えーと……同じような環境にいると、似たようなものに進化する、ですよね?」

「正解だ。

簡単に言うと、一万二千年前の時点で地球を焦土にしたとしよう。

人類は滅ぶ。

だが、そのうち地球には新たな知的生命体が生まれるはずだ。それは人類そっくりになるだろう。進化は遅れるだろうがね。

そしていつか、お前がまた生まれる。正確には、お前の役割を持った別人だろうが。

そいつが選び出され、そして一万二千年前の世界に送り込まれる事になるだろう。

仮に地球を丸ごと消し飛ばしても同じだ。宇宙のどこかで同じことが起きる。

それを防ぐには、一万二千年前の世界と現在とが繋がった瞬間、すなわちタイムトラベルの瞬間を狙って殺すしかない」

「……選び出される、という事は、僕は誰かにタイムトラベルさせられるの?」

聞き捨てならない言葉。

少年は的確にそれを聞き分けていた。

「その通り。

この銀河系の中心に座する巨大ブラックホール。そこに住んでる超知性体《偉大なる意志》―――グレートオーダーが、お前を過去に送り込む。

昔、私自らが、奴に聞いた」

「……じゃあその偉大なる意志を倒せばいいんじゃ」

「無理だな。奴はブラックホールから出てこない。そして、さしもの我々もブラックホールは破壊できない。入り込むなど論外だ。

よって、我々が歴史を変えるにはお前を、適切なタイミングで殺す。これ以外に方法はない」

少年はパフェを口にして考え込んだ。

……あれ?

「じゃあなんでさっき僕を襲ったんです?まだ僕タイムトラベルしてないですけど」

「はっ!?……しまった。つい興奮しすぎてな。長い事待った獲物を目の前にしたせいだ」

「なぁんだ。じゃあさっきのって先走っただけかぁ」

少年は胸をなでおろした。すぐには殺されそうにない、とわかって安心である。

目の前の自称機械生命体、実はポンコツかもしれない。

「まあ近いうちに―――おそらく数日以内だ。近日中に、お前は死ぬ。私が殺すからだ」

「えー。勘弁してくださいよ」

「却下だ」

などと言っている間にもジャンボパフェは減り続け、ついにはなくなり。

「あ、お姉さん、チョコレートパフェもう一個追加で」

「って待てぃ。お前他人の金だと思って好き勝手してるな」

少女は呆れ顔。

「でも、僕殺したら歴史変わるんですよね?」

少女は頷く。それが目的だ、と。

「じゃあそのお金なくなりません?歴史変わったら僕を待ちかまえないですよね。お金いちいち稼ぎます?」

「……はっ!?」

気付いていなかったらしい。この少女本当にポンコツなのでは。

「なら僕を殺す前に持ってるお金、全部使い切っちゃいましょうよ。ね?」

「そうするか……」

「やたっ!」

「誰がお前のために使うと言った」

「でも僕と一緒にいるんですよね?僕に色々奢ってくれた方が僕が逃げなくていいですよ」

「……寿命伸びただけだからな? な?」

少女は、少年の図太さに心底呆れたような顔をしていた。

ただ、若干の笑みがそこには含まれていたかもしれない。

―――どうして楽しそうなのか、少年は不思議に思った。


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