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独りの恋

作者: 冬雪

私は悲観主義者だった。

何に対してもどうせ意味はないと考え、恋人に振られれば直ぐに自分は孤独なんだ、どうせこの世は意味がないんだなどと世界に絶望する振りをした。

また、私は完璧主義者でもあった。

自分が望むことが果たされないと、他の事で妥協することができなかった。


私が高校生の時、一人の女の子と出会い、恋に落ちた。毎日電話を片手に勉強したことを覚えている。結婚して、ずっと共に過ごすのだろうと確信していた。しかし、大学生となり上京して間もなく彼女は過ちを犯した。彼女に依存していた私は、ひどく哀しんだが、彼女から離れることができなかった。もっとも、私はもう彼女と将来を考えることはできなかった。代わりに私を好きだと言ってくれ、私も共にいたいと思える人が見つかるまで、寂しさを、孤独を感じたくなかっただけなのだと思う。


それから一年後、成人式で同郷の幼なじみと再会し、頻繁に連絡を取るようになり、私は彼女に別れを切り出した。浮気をしたといえども、私に依存していた彼女はひどく泣いた。それは、私を失いたくないのではなく、自分が独りになることへの不安から生じているとしか思えなかった。


幼なじみとの恋も上手くは行かなかった。

専門学校を出て、美容師として毎日忙しく働く彼女と、大学生として人生の夏休みを謳歌する私との間には諍いが絶えなかった。その中で、彼女の仕事が終わるのを待つため、仕事場の近くのカフェに入ると、彼女が男の店長と共に談笑しているのを見かけたことがあった。彼女は、店長と仕事について話していたと言い張ったが、私はもう彼女との将来を考えることはできなくなった。


その後、また先例にならい、彼女と付き合いながらも愛せる人を探していた。しかし、私は彼女から別れを告げられることになった。心から愛しているわけでも、生涯共に過ごしたいわけでもないのに、別れたくなかった。恋とは孤独への不安を誤魔化すだけのものなのだと思った。


私がその人と出会ったのは、桜が咲いていたことから、春の季節だったのだろう。

その人は突然私の前に現れ、付き合ってほしいと申し出た。

色白で、背が高く私にとって好みであったことから、私はそれを受け入れた。


私は自分が悲観主義であることが、女々しいと思う。

しかしそう考えていないと、自分なんてどうせと思っていないと、予期に反する悲しみに耐えられなくなる。彼女と言ったって独りの人間なのだから、どうせいつか裏切る、裏切られたってどうせ人間なんてそんなものなのだからと思っていないと、自分が思う正義とか倫理が通らない社会に絶望する。私は私を守るため、逃げるために悲観を貫くのではないか。


ある日、私はその人と私の故郷で買い物をしていた。

ふと彼女の顔を見ると、内心前の彼女の方が顔は好みだと思っていたが、不思議とその人の顔がとても魅了的に見えた。

買い物の途中、私は旧い友人達と偶然出会った。彼らは既に社会人として働き、結婚しており、私はなんとなく学生である自分が恥ずかしかった。

彼らが去った後、その人は私に、長く勉学に励むことは恥ずかしいことではない、むしろ優秀である証ではないかと話してくれた気がする。そして私は、ずっとその言葉を、誰にでもいいから、言われたかったと思っていたと思う。


完璧主義であるのは、他人からの評価に気を向けすぎているのではないかと、ふと思う。しかし、多くの恋をした方が、「モテる」と囃し立てられる地方の田舎で生きてきた私が、多くの人を抱きたいと思ったことはなく、ただ愛する人と二人で抱き合っていたいと思い続けたことは、それと整合しない。私が完璧主義なのは、私が思う正義とか倫理を、自分にも他人にも押し付けているからだと思う。こういう行動をしなければいけない、なぜそんな行動をするのか。欲求のために、何が人間として正しいか思考し、それに従って行動することを放棄する人間が嫌いなのだと思う。そして、何が人間として正しいかなど分からぬのに、それを他人に押し付け、その思考に完全に従うことができない自分を、心から悲しい人間だと思う。


その人と大学内を歩いていると、なぜか初めての彼女と出会った。その彼女は、浮気相手であった男と共に楽しそうに歩いており、なぜか私を馬鹿にしているように感じた。

彼女らが通り過ぎると、その人は私に、大丈夫、私がいるからあなたは独りじゃない。私はあなたを愛していて、この先ずっと裏切ることなどないと語ってくれた気がする。

そして、その言葉は、私がずっと今までの彼女達から聞きたかった言葉で、その通り行動して欲しいと願っていたものだった。


傷つくのを恐れ、他人を信頼することができず、ただ世界に失望する振りをしながら自分を慰め、その癖に孤独が怖く、自分を構ってくれる人を探し、構ってくれる人なら誰でもいいと思いながらもいざ共にいると自分の価値観を押し付ける。

人は欲求には勝てないと思う。いつか必ず裏切ることはある。それが分かっていても、それが来るのが怖くて、それでもその人の側にいたい。しかしそれが来る兆候が見えるだけで、確信なくとも、この恋はくだらないなど自分を守って、でも孤独は怖くて、の堂々巡り。


この矛盾だらけの我儘な、幼い私はこの恋でいい。

性交がしたいわけではないし、誰かに幸せを評価してもらいたいわけじゃない。

自分が愛する人が、自分を愛してくれ、孤独を打ち消してくれればいいんだ。

自分を肯定して欲しくて、自分が存在することを望んでくれる人の存在が、欲求の最上級ではないか。


私は今晩も、その人に会いに行こうと思う。

名前も歳も、住む場所さえしらないその人に、今日も会えたらいいなと願いながら、私は今日に終わりを告げる。

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