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第7話 霊的地術に関する考察

 霊術には幾つかの便宜上の系統が存在する。造形系統、操力系統、変成系統等々、系統分類できない物も数えればその数に限りは無い。その中でも造形術の定義は分布の操作だ。物の形を変えるのも造形魔法の派生形の一つに過ぎない。これは対象の物質を構成している分子の分布を操作して擬似的に形状を変えている過ぎない他にも、彼が居た現代では海水に含まれる物質の分布を操作して析出させることにより海水から、銅や銀、金といったものは勿論、ニッケルやクロム、白金(プラチナ)といった希少金属(レアメタル)等の有用金属を海水から効率的に抽出する方法を確立し、資源問題というものは殆ど技術の争いになっている。


 それと付け加えて言うならば、造形術の対象として設定するものに関してはなにも、分子や微小金属といった極小(ミクロ)単位のものである必要はない。現に彼が所属していた学び舎では造形術を用いて多数のボールを利用したパフォーマンスショーが行われたこともある。


 そして忘れてはいけないのは霊術にとって系統とは、目的・結果よる分類ではなくその適性・性質に応じた分類だという点だ。例えば、先程溶液から特定の溶質を抽出する造形術の例を出したが、これは物質に働いている重力や熱エネルギー、運動エネルギーの操作を行う系統である操力系統でも似たようなことはできる。現代の霊術の分類は「何かが燃えた」、「何かが動いた」といった結果からではなく、その結果がいたるまでの過程で分類をしている。だから、特定の系統でしか成し得ない事象というものは根本的に存在しない。


 霊術にとって評価条項となるのはどれだけ優れた結果を創りだしかではなく、それに至る過程をどれだけ優れたものにできるかに在る。霊術の術式行使難易度はその術式の過程と構成要素の多少で決まる。それはつまりその結果に導くに適した系統(方法)であればあるほど、それに至るまでの過程・要素を簡略化(ショートカット)できるということだ。


 だからこそ、霊術師は霊術全般に関しての幅広い知識が求められる。それ故、霊術師の中に特定の系統や術式しか使えないという人間は霊術師というのも憚られる様な半端者を除き、存在しない。


 現に彼の居た高校でも専攻別の授業を展開しているにもかかわらず、それと同時に霊術全般を学ぶ基礎霊術という授業を並行して行っている。


 だからこそ、彼弁財天 上総宮 形部は例えそれが自らの専攻や家の稼業とはかけ離れたものでも、移動に用いたような総力系統の単一工程のものであれば、使用するのはたやすい。霊術の難易度はその規模や出力ではなくその構成要素の多少によってきまるものだ。


 知識を読み込んだ結果、此方の霊天技術(霊術に問わず、先天性技能などを含めた霊的技能全般を指す言葉)は、人間の行使する技術ではない事がわかっている。


 元来霊的技術の発展は多くの犠牲の上に成り立っている。それは一重に霊的技能が人間が持つ技術であり、現代の機械技術の様にそれを代用する術が無かったからだ。人間の歴史では計算技術は演算器具で、徒歩による移動を馬車、蒸気機関、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン、人間の発展の歴史とは如何に大量に安定的に結果を導き出せるようにできるか、という目的で進化してきた。例えば、今あげたものはすべて初期の段階ではそれまでの者のよりも性能面で劣ったものが殆どだ蒸気機関であっても、スティーブンソンが開発した蒸気機関車は時速16~19kmしか出ないうえに、現在の鉄道などと比べれば、故障も多く燃費も悪くお世辞にもその性能は優れたものとはいえない物だった。なにせ、馬と競争して負けることもあったという話も存在するのだからそれは火を見るより明らかだろう。


 ではなぜ、それがのちに一般的は普及するようになったのか。それは簡単だ。


 「決まった性能のものを、安定的に大量に作ることができる」からだ。確かに、馬に限らず、既存の技術であっても同等以上の質の品を用意することは簡単だろう。しかし、それを創るのに必要は時間や手間、生産効率を考えれば問題外だ。


 産業革命によって、イギリスで大量に生産されたイギリス綿布は、綿花の生産元であるインドから現地産綿布を激減させるほどの力を見せた。イギリス産綿布は質にも優れていたがそれよりも問題だったのは、その生産効率の高さと安定した品質そしてそれらと、それからもたらされる低価格だ。


 以上の歴史の事実からも解るとおり、人間の歴史は質よりも量を求めてきたことがわかる。戦争でも結局はより多くのものを持っている側が勝つこと圧倒的多数なのは、太平洋戦争時、日本がUSAに完敗したことからも明白だ。


 それにかんがみて言えば、霊術は放逐されてしかるべき技術だった。なにせ、それがどれだけ優れた結果を導き出せても、所詮人間しか行使することができない技術であり、それを他の物で代用する方法が存在しない物なのだから、質は横に置いておくとしても、その総量はたかが知れている。結局霊術は、科学という万能技術の前に近年になるまで日の目を見ることが無かったのである。その理由の一つとして霊術は霊力を用いて現実を改変する技術であるが、その霊力は非物質型エネルギーであり、それを人間の能力以外での操作ができない物だったということが致命的だろう。


 しかしその点でこの世界は違っていた、何故ならこの世界の霊化物質は彼が居た世界のものと比べて圧倒的に安定していて、その消滅速度は至極遅い。これによってもたらされたのは霊術の「科学化」だ。


 そして霊術の発展は、多くの人間の犠牲の上に成り立っている。多くの先人達が霊術の研究過程で事故で命を散らしたり、或は自らを望んで生贄にささげその発展に寄与してきた。これは一重に霊術が人間の扱う不安定極まりない技術だからだ。だからこそ現代霊術が開発される過程において霊術の最大の弱点、ハイリスクの軽減は最優先課題だった。何故なら社会の技術として組み込む以上そんな危険極まりない技術をそのまま採用するなど容認し難いことだったからだ。


 しかしこちらの場合は違う霊力がとても安定している。それがゆえに霊力が物質に与える影響も安定している。それが故に結果的に人間が霊職を扱う技術は発展せず、物質にふくまれる霊力を利用する技術が発展した。マグネアチョンが先程使用していた通信機もその技術の産物だ。


 形部達、霊術師が使っていた霊術と此方の技術は一長一短がまるで逆の性質を持っている。


 「……ッ」


 此方の技術は、リスクを軽減し汎用性を高める代わりに、展開速度と出力を犠牲にしている。


 「…ンッ」

 

 それに対し霊術は、リスクが高く汎用性も無い。その代わりに展開速度と出力は比べるべくも無く、圧倒している。


 「ドンッ!!」


 ローリスク・ローリターンとハイリスク・ハイリターン。この二つはどちらが優れている家という点で比べることはできない。戦う土俵が違うからだ。しかし、今回の様な対人戦で言うならば、使う人間のレベルにもよるが霊術の方に分が在るだろうと、彼は目の前の敵を淡々と処理しながら考えるのだった

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