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第三話

桜の精霊を基に俺というOSを搭載したサクラだが、種類としてはソメイヨシノに近いようだ。

SEでも何でもない俺がPCもどきを設計するのは並大抵のことじゃなかった。

知識の中には「プログラムの構築の仕方」的なものもあったが、わかってたって、一朝一夕に使いこなせるもんじゃないだろう。

機械音痴が、説明書読んだって最新のスマホがいきなり使いこなせるわけじゃない。

何が言いたいかというと、そう簡単に快適な俺専用PCができるか!ってことだ。

一晩格闘して溜め込まれた膨大なデータを整理したが、検索機能はほぼアナログの図書館と同じレベルだ。

未だに使い勝手という面では本当に使いづらい。

容量に膨大な空きがあるにも関わらず、王子様のデータを丸々コピーしただけで分類など体系もそもそもどんなソフトデータなのかの判別すら付いていない状態だ。

手つかずの本の山が積み上がっているイメージが一番わかりやすいと思う。

いくら本好きの本の虫でも辟易するだろうよ。

できれば、握手をするだけで相手のデータを自動的に取り込んで勝手に分類してくれるくらいの性能は欲しいな。

イメージとしては、USBをPCに差し込むと勝手にデータ取り込んでくれる感じ。

あ、だったら一応ファイアウォール的なものも設置しておくか。

こんなファンタジーではウィルスといえば状態異常とか、精神系統の魔法だろうか。


閑話休題。

そんな感じで、今のところ頭の半分位使って情報整理しながら、もう一方で擬似脳内PCの制作をしつつ、ほんの一欠片の意識でもって体の制御と周囲からの情報収集をしている状態だ。

王子様と同期した情報を整理するためにも、周囲からの情報収集は怠っちゃダメだよな。

言葉が理解できるようになってわかったこと、その一。

俺は案外、可愛いらしい。

いや、自分基準というか、前世基準で行くと清純派アイドル顔の美少女だっていうのはわかっている。

だが、それがこんな西洋ファンタジーの世界基準で“可愛い”に分類されるかどうかは、微妙なところだ。

俺の有り余る知識を詰め込んだPCもどき、仮に“ヨシノ”とでも呼ぼうか。

ヨシノさんの知識によると、“美人”の基準というものはその人のそれまで見た人間の平均から算出される。

つまり、美人とは平均顔であり、見慣れぬ顔は例えそれがミス●ニバースだったとしても“美人”として認識されにくいのだ。

まあ、俺的にはミス●ニバースはちょっとど真ん中のストライクではないのだけれど。

好みではないこともない。美人は正義だから。

かなり脱線したが、何が言いたいかというと、サクラの顔はギリ西洋ファンタジーでもいけるんじゃね?ってことだ。

こんな顔に作ったのは王子様だが、その美的感覚が優れていたということだろう。

実に好ましい。

そんなことを思いながら微笑むと、周囲を取り囲んだメイドさん達から歓声が上がった。

「あら、可愛い。お嬢ちゃん、これ食べる?」

そう言って目尻の泣き黒子がセクシーな少女メイドさんが黒スグリのような果物をくれた。

「ありがとう」

にっこり笑ってありがたく両手で受け取ると、銀髪の下ツインテのお嬢系メイドさんが髪を撫でてくれた。

「はい、あーん」

黒スグリの実を口先に突き出された。

ちょっと躊躇いがちに口を開ければ、金色の綿飴みたいな髪のメイドさんがうふふと笑って、綺麗な桜貝色の爪の指で放り込んでくれる。

ちなみに胸は、泣き黒子メイドさんがB、下ツインテメイドさんがC、綿飴メイドさんDといったところか。

素晴らしいね!

ビバ異世界俺ハーレム。

甘酸っぱい黒スグリを味わいながら、幸せをかみしめていたら、背後から抱き上げられた。

「あなたたち、いい加減にしなさい」

朝世話をしてくれた灰茶の髪のメイドさんはこの三人の上司に当たるらしい。

この人がメイド長であるのかは謎だ。

あの三人が下っ端で、この人の方が先輩ってだけかもしれない。

胸の大きさだけなら長クラスなんだが。

ちなみにこのメイドさん達の名前もヨシノさんが保管しているライブラリにはあるが、紹介される前に呼んでシカトされるのが怖いから、正式に紹介されるか名乗られる前は知らないことにする。

「サクラ様はお召換えが済んだら殿下のところへ行かなければならないのですからね」

王子様の知識を飲み込んだおかげで4~5歳くらいには成長したので、朝着せられた若草色のドレスでは丈が足りなくなってしまったから、急遽着替えることになった。

今着せられているのはクリーム色の薄い紗の生地重ねたドレスだ。

この城には俺くらいの小さい女の子なんていないのに、こんなドレスどっから出てきたんだ。

とか思ったら・・・はい、出ました答え。

『第一王女が滞在された時のためにつくり置いておいたもの』

あ、なるほど。

作っておいたはいいものの、滞在日数等の物理的な関係か、王女様の趣味に合わなかったかで一度も着られなかったってやつね。

この城に限らず、大抵の貴族のお屋敷には溢れんばかりの中古の山があるようだ。

一度も袖を通されていないものや、一度しか着られていないものもあるみたいだ。

貴人の急な来訪にも対応できるように、ということか。

もったいないが、それが貴族的な物持ちなんだろう。

王女様は王子様の五つ上だからもうこんなのは着ないだろう。

このまま宝の持ち腐れになるよりはリサイクル。

いいね。建設的で好きな考え方だ。

別に着古しでも良かったのだが・・・べ、別に変な意図はないよ!

鏡の中のサクラは、森の妖精みたいで愛くるしかった。

ちなみに俺だなんて認識はしないほうが精神衛生上、好ましい。

自分の思い通りに動く清楚系美少女アバターってことでいいよね!

「仕事に戻って」

「「「はい」」」

背中に幸せな感触を堪能しながら、ひらひらと仕事に戻っていくメイドさん達を見送った。

「さ、サクラ様も参りましょう。殿下がお待ちです」

そう言って灰茶の髪のメイドさんが俺を抱えたまま歩き出す。

実は抱えられなくても一人で歩ける。

だがそんなこと、もったいなさすぎるので言わない。

両手の黒スグリが案外邪魔なので食べていたら、片手分の三つほどでお腹いっぱいになった。

どうしようか悩んだ末に、頭上のメイドさんを見上げる。

「はい、あーん」

試しに一粒差し出してみたら、びっくりした目で見下ろされた。

あれ、なんか恥ずかしいぞ?

さっきは結構平気だったのに。

やるのとやられるのは違うのか?

それともあの時はその場のノリというやつだったのか?

引っ込みのつかない手を伸ばしたまま硬直していると、メイドさんは微笑んでぱくりと食べてくれた。

「ありがとうございます。美味しいです」

優しい!

よかった。無視されたら泣くところだった。

ホッと胸をなでおろしてあと二つも残った黒スグリをどうするか思案する。

これもメイドさんに上げるという選択肢はない。

さっきみたいなのは、断られたら泣ける上にちょっと恥ずかしい。

しかし、4~5歳の幼児と言ったら16キロくらいあるだろ。

案外力持ちだな、このメイドさん。




瀟洒な飾り彫りが施された分厚い木の扉の前で一旦下ろされて、メイドさんが入室の許可を求める。

しばらく待たされて返ってきた返事は王子様のものではなかったが、取次の人のものなのだろう。

案の定重厚な扉の向こうは控えの間で、この先にもう二部屋と衣裳室があるはずだ。

ちなみにこの城は第三王妃の持ち物で、王子様はその一角の東の離れに住んでいることになる。

ここは、離れのメインルームだから王子様の部屋ってことだ。

さらに、十歳になったら自分の城をもらってそこに移ることになるようだ。

俺が自由に使っていいと言われた部屋も、使用人というか侍従の部屋の一つで、王子様にはまだ一人しか侍従がついていないから余っていた部屋に割り振った形だ。

セレブ過ぎてついていけない。

「サクラ!そのドレスもよく似合うね。花の妖精みたいだ」

王子様の待つ部屋へ入った途端、これだ。

王子様がイケメンすぎて辛い。

「ありがとう。この人が選んでくれたの」

キラキラの笑顔の矛先をそらす為に、斜め後ろに控えたメイドさんを指す。

「アマンダか。サクラによく似合っている。ありがとう」

灰茶の髪のメイドさん・・・アマンダさんは礼儀正しく頭を下げた。

紹介はされなかったが、これで“知らないふり”はきついだろう。

「おい、お前」

不機嫌そうな顔の少年が、低い声で俺に話しかけて来た。

王子様にはぎりぎり聞こえないくらいの音量だ。

周りを見渡してみたが、俺の後ろにはドアしか無かった。

「何をしている。お前だ」

あんまりにも敵愾心がたっぷりだったので、実は俺に話しかけたんじゃないと思いたかった。

この少年、昨夜も見た。

確か、王子様の侍従で幼馴染のウィルだ。

そういえば昨夜、初対面で言葉が通じないにもかかわらず、不機嫌そうな顔と舌打ちで嫌われているらしいと判断したのだった。

「殿下に対してなんと言う口の聞き方だ。従獣で有るなら、殿下の御前に侍ることは致し方ないが、弁えろ」

え、なんで俺こんなに嫌われてんの?

何かした?

でも、昨夜が初対面デスヨネ?

しかも昨夜は、遅かったこともあってお互いに名前と役職を王子様に紹介されただけだったはずだ。

『ウィル、この子は僕の従獣のサクラ。サクラ、彼は僕の乳兄弟で従臣のウィルだ』と、王子様に紹介されて互いに会釈を交わした。

身分の高い者が、高い方へ低い方から紹介するのが礼儀なのでこれであっているはずだ。

従獣は召喚獣が常駐する場合やテイムされたモンスターが呼ばれる呼称で、主に隷属するため、その主の身分を超えることはない。

ただ、厳密な身分制に縛られるモノではない為、主人以外の者の命令を受ける義務はない。

従って、従臣と従獣の身分の高低は本来ないが、礼儀として臣を獣の上に置くことが習わしとなっている。

王子様もその習慣に従って紹介したわけで、その後の対応も、礼儀を疎かにしたものではなかったはずだ。

さっきまで言葉がわからなかったからその間に無礼でも働いたのかと思案してみたが、そもそも紹介の時点で不機嫌だった。

握手の前も後にも、俺に話しかけてきた記憶はない。

「返事は?」

なかなか反応しない俺に焦れたのか、舌打ちしそうな勢いで侍従くんが迫ってきた。

慌てて頷くと、侍従くんは鼻を鳴らしてさっさと俺のそばを離れて王子様の脇に控える。

え、本当になんでこんなに嫌われてんの?

「ああ、二人はもう仲良くなったのか」

王子様のキラキラ笑顔に気圧されて呆然としている隙に、侍従くんが控えめに会釈した。

王子様は侍従くんの不機嫌そうな態度に気付かなかったのか、彼が元々そういう顔なのか、至って楽しそうに俺を席につける。

促されるまま座った俺に、侍従くんから非難の視線が突き刺さった。

ちょ、おま・・・俺にどうしろってんだよ。

主で国家権力の後ろ盾もある王子様から勧められた椅子を断れってのかよ!

どんなムチャぶりだよ。

理不尽すぎて泣きたい。

目の前に良い香りの紅茶を出されて見上げたら、アマンダさんが微笑んでくれた。

「砂糖か蜂蜜を入れますか?」

女神様降臨。

マジで癒される。

つい口元が緩んだのをどう解釈されたのか、角砂糖っぽいのとさらにミルクまで入れられた。

甘いのは嫌いじゃないからいいけどね。

「熱いので気をつけてくださいね」

平気っす!お姉さんがフーフーしてくれたら他に何も要らないっす!

だが、そんな心の声が言える訳もなく。

仕方なく自分で吹き冷まして充分冷ましてから一口口に含んだ。

――――熱っ!

あああああああああああああ、あっつ!

熱いっ熱い熱い!

何これ、熱い!

思わず、体の制御放棄して熱さにパニクった部分の思考を切り離すのに専念するくらいの異常自体だった。

危ない。

この体が精神体とはいえ、元は植物だって忘れていた。

温めのお茶だって、体温がない植物にしてみたら熱湯だ。

そんなもの飲ませたら普通枯れるって。

いい勉強になった・・・。


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