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美少女、だと…?

「ここが君の部屋。あの扉が僕の部屋に繋がってるから何かあったらいつでも来ていいからね」

愛想の良いイケメン少年が豪奢な部屋に通してくれる。

目算で15畳くらいの広い部屋。ロココ調の瀟洒な装飾が施された家具が品よく配置されている。

「ありがとう」

礼を言うと、蕩けそうなくらい甘い笑顔が返ってきた。

眩しいほどの金髪の巻毛に白磁のように白くてなめらかな肌。長い睫毛は髪よりも濃い金色で、キラキラ輝く宝石様な瞳はアクアマリンブルー。

そのままウィーン少年合唱団にでも入れそうなくらい耳触りの良いボーイソプラノ。女の子のように愛くるしい容姿の少年だ。

なんとこの国の王子様らしい。

天は二物を与えずという言葉が異世界にはないのだろう。

「っ」

背後から聞こえる舌うちに振り替えれば、不機嫌そうな表情を隠さない王子様と変わらないくらいの年齢の少年がいた。

イケメン少年其ノ二。

柔らかな金茶の巻き毛。高く筋の通った鼻。意志の強そうな凛々しい眉。アーモンド型のキラキラ光る若草色の瞳。

王子様が中性的な美少年なら、こっちは正統派の美少年。

俊敏そうな体つきといい、成長すれば十人中十人振り返るワイルドな青年になるだろう。

「■■■■■■■■」

イケメン其の二に対して王子様が何かしら言っているが当然のようにわからない。

というか、王子様がこちらに話しかけてくれるときに話している言語も英語に聞こえるが、たぶん違う。

「■■■■■■■■。■■■■■■■■」

「■■■■■■■■」

はあ、と大きくため息をつくイケメン少年其ノ二に、王子様が勝ち誇ったように笑った。

「じゃあサクラ、おやすみ」

キラキラ王子に抱き寄せられて、至近距離でイケメンが!

目を白黒させていると、額に触れるか触れないかくらいのところに吐息がかかって音を立てて離れていった。

どうやら“おやすみのキス”をされたらしい。

白い真珠のような歯をきらりと光らせて、颯爽と隣の部屋に入っていく王子様。

十二、三歳くらいなのに様になるイケメンスマイルに、抱き寄せてキスするまでの手際が手馴れ過ぎていて、将来が恐ろしくてならない。

「■■■■■■■■」

隣で大きいため息が聞こえて、振り返れば、苦虫を噛み潰したようなイケメン少年の顔があった。

「■■■■■■■■」

釘を刺すように怖い顔で何事か言う少年を見上げれば、また大きく肩でため息を吐いた。

うん。わからない。

多分、「王子様がやさしいからって調子に乗るなよ」とかそういうことだと思う。

わからないなりに頷いたら鼻を鳴らしてきた廊下を戻って行った。

きっと自分の部屋に帰るのだろう。

軽くため息をついて自分も、与えられた部屋に入る。

白を基調として細部に金をあしらったロココ調の装飾が施された上品な部屋だった。

磨き上げられた木目も美しい床に薔薇のような花と絡み合う蔦の描かれた毛足の長い絨毯が敷かれ、猫脚のサイドテーブルにも暖炉にも姿見にも使えそうなくらい大きな鏡のドレッサーにも手の込んだ装飾が成られている。

細かなレースと繊細な刺繍がふんだんに施された天蓋付きのベッドに腰をかけると、思いの外体が沈んでバランスを崩し、そのまま倒れこんだ。

体重の全てを柔らかなベッドにあずけて、大きくため息をついた。

今の心境を表す言葉はそう。

「どうしてこうなった」







死んだと思ったらイケメン逆ハーレム、ヒロイン俺。

何を言っているのかわからねーと思うが(ry

ちょっと落ち着け、俺。

名前も思い出せない前世。

そう、前世だ。なぜならしっかり死んだ記憶はあるのだから。

普通の中流家庭に生まれて、ちょっと変わった母親と普通の父親に愛されて育ち、普通に大学までがっつり臑を齧り、社会人になって「いつか辞めてやる」と思いつつ仕事していたある日。

営業先から本社に帰る途中、事故った。

うん、事故だ。

普通に赤信号で止まってたらなぜか対向車線の脇道からトラックが猛スピードで突っ込んできやがって、潰された。

ギャー、と叫んで逃げようとしたが、前にも後ろにも車があって、シートベルトが外れなかった。

もう一度振り返ったら、もうトラックが目の前にあって、「あ、死んだ」と思ったものだ。

うん。どう考えても確実に死んでるだろ、これは。

だが気が付いたら、目を開けてビックリ。

天国?とか思った。

金色の雲海の狭間みたいな場所にいて、目の前には金髪碧眼の美少女かと思いきや美少年がいて。

振り返ったら拘束衣着た天使がいて。

天使だよな?羽生えてたし。六枚ってことは、前世的に解釈すると熾天使か。

天使の後ろには豪奢な縦ロールの金髪美女がいて。

“サクラ”と呼ばれる小さな子供になっていた。

はいはい。わかりますよ。

ゲームはRPG的な長いのが苦手でやったことはないが、普通に漫画もラノベもアニメもチェックしている。

ラノベでよく読んだよこの設定。いわゆる転生ものだろう?

赤ん坊からとかでなく良かった。

ていうか、既に王族とのつながりとかあるし。

ものすごくイージーモードな内政チート目指せって、あれだろ?

天使は美少年に従えとか言ってたし。美少年王子様だし。

何故か半端じゃない知識量が頭の中にあるし、ていうか、知識詰め込んだ桜の神樹の精霊とやらと融合させられた副作用的なものらしい。

部屋の間取りや装飾を見ただけでロココ調だと思ったが、なんだよロココ調って(笑)と内心ツッコミを入れたら。

ああ、十八世紀くらいの中世ヨーロッパのごてごてした感じの家具とか建築様式だ。と思い出した。

あー。

なんというか、疑問に思うだけで知識が勝手に引き出される感じ。

今まで思いつきもしなかったけど、そういえば知ってたね、って思い出す?というか。

そのくせ前世の自分の名前すら思い出せないという。

個人情報は伏せときましたから(いい笑顔)!的な?

ご都合主義すぎるだろ。

不思議な感覚だ。

この分だと自分が忘れていても、むしろ覚えた記憶すらなくても、前世の知識も普通に引き出せそうだ。

必死こいてテスト前に公式や年号暗記したり、取引先の相手の部署と顔と名前と家族構成やら何やらを詰め込んだのがバカバカしくなる。

むしろその時目覚めろよ、便利能力。

いやいやいや。

そんなことはどうでもよくて。

死んだと思って目を開けたら第二の人生が!っていう展開は別にかまわない。

むしろウェルカム!とまでは思わないが。

二回も生きなくてはいけないって、正直面倒くさい。

よくあるだろ。

「もし記憶持って生まれ変われたら~」とか。

むしろ生まれ変わりたくない派だった俺はどうすればいいの?

前世でのやり残したことも取り残してきた人も結構あって、ぶっちゃけ未練タラタラだが、死んだなら仕方ない。

帰れると言われたら帰りたいが、帰れないんだろう?知ってるって。

こうして考えることが出来るということ自体がきっと幸運なことなのだと、頭で理解はしているつもりだ。

感情が追いつくかは別問題として置いておくとして。

次の人生を後悔しないために必要な要素として、活用しなければならない。

大きくため息を吐いて目の前にかざした手は小さい。

だが、握り込めば確かな感触があった。

この第二の体を作ったのも、名前をくれたのもあの王子様なんだから、彼に仕えて立派にしなきゃいけないってのもわかる。

ただ。

この身体は契約によって縛られている。


ベッドに沈み込んでいた体を起こして、大きな窓ガラスの嵌った窓を開く。

部屋の中は明かりも点していないのによく見えた。

窓から差し込む星明りが元の世界よりずいぶん明るく見えるせいだろう。

城を一望できるバルコニーに足を踏み出した。

白っぽい大理石のような石材のレンガを積み上げて造られた城だ。

部屋の様式から想像している通り、中世ヨーロッパ風の建築だ。

例をあげるなら、サン●エトロ宮殿か。庭の方もヴェ●サイユ風のシンメトリだ。

ん?

ロココはアンシンメトリだったはず。建物自体はバロックに近いのか。

プラネタリウムよりももっと多くの星に彩られた藍色の空と、遠くに見えるのは地平線だろうか、それとも山の稜線だろうか。

足がすくむほどの高さにあるというのに、ちっとも風が吹かない。

なにかの仕掛けが施してあるのだろうかと思ってみるが、わからなかった。

唇の端でちらりと笑う。

なるほど、知らないことはわからないのか。

王子様やあのイケメンや美女の名前なども紹介してもらうまでわからなかった。

疑問に思わないことには回答を得られないし、疑問に思っても、そもそも知らないことには回答もない。

ヒヤリとする外気に触れ、一瞬だけ鳥肌が立つ。

大きく深呼吸すると、バラによく似た花の香りが鼻腔をくすぐった。

星明かりと点在する松明に照らされた庭のどこかにきっとバラに似た花でもあるのだろう。

運動もしゃべることも、できる。五感もちゃんとある。

普通に、人の体みたいだ。

天使に人ではないのだと言われなければ、疑問にすら思わなかっただろう。

『この命果てるまで互いに協力し合うこと』

それが主であるオズワルド・ニゲル・シルワとの契約だ。

つまり、一生、彼に協力する義務が生じるということだ。

契約違反がどうなるという条項は盛り込まれていない。まあ、どうなるのか試してみる気は今のところないが。

それにしても、なんとも緩い契約だ。

不利益をもたらしたら死ぬとか、命令に逆らったら死ぬとか、一生奴隷みたいに働けとか。いろいろ制約しようと思えば出来ただろうに。

キラキライケメン王子を思い浮かべて微笑む。

幼い少年。きっと今まで愛されて育ってきたんだろう。

出来ることを、できるだけ協力してやろう。

確か前世では、早く結婚した友人にあれくらいの子供がいたはずだから自分の子供だと思えば可愛がれるだろう。

第二の人生を歩むための衣食住を保証してくれるのに、こんなにも緩い制約にしてくれたのだ。

できる限りの協力を惜しまないくらいしか、恩返しはできない。

苦笑して、部屋に戻る。

明日から、自分に何ができるのかを確認しなければいけない。


軽い音を立てて外界と室内を隔てる窓が閉まった。

白いバルコニーから外を眺めていたサクラは気がつかなかったが、城の壁に寄り添うように一つの影があった。

影はサクラのあとを追って室内に侵入し、その小さく頼りないからだがベッドの中で安らかな寝息を立てるまで窓際からその全てを見ていた。

サクラは思い違いをしている。

オズワルドとしては初めて召喚や契約に成功したサクラを大切にしたがっているが、彼の母親であるアレクサンドラや側近のウィルなどの考えは違う。

一度出来たのだから、サクラが使えなければ他の使える従魔を召喚し、契約を結べばいいだけだ。

最初の契約など緩くて構わない。

契約は一人につき一体と決まっているわけではないし、邪魔になるようなら破棄すればいいだけなのだから。

脱走する気配も気概もないと判断した影は、音もなく部屋をあとにして、アレクサンドラへの報告へと向かっていった。




影が出て行ってから星が位置を変えるほど時間がたった頃、サクラは眼を開けた。

「眠らない、だと?」

肉体的にはどうかわからないが、精神的にはものすごく疲れているにもかかわらず眠れない。

ベッドに横になっても一向に眠気が襲ってこないなと思っていたら、わかった。

神経が高ぶって、などという理由ではなく、この体は睡眠を必要としないらしい。

何ということでしょう。

サクラはため息を一つ吐いて、上半身をクッションに預ける体制で座りなおした。

そっと視線を動かしても、まだ星明り以外の光が空を染める気配もない。

朝までは大分時間が有り余っているらしい。

仕方がない。

暇つぶしに自分のことを少しでも調べることにする。

そして、なんだか物凄く使い勝手の悪いこの「詰め込めるだけ詰め込んでみました」的な知識をどうにかしなければ。

このままじゃ脳内検索もままならない。

…ああ。そうか。

「PCっぽく改造してしまえば、ちょっとは楽になる…かな?」

思い立ったが吉日。

さっそく脳内のデータを分類に入った。





「■■■■■■■■」

柔らかな女性のしっとりしたアルトが耳朶をくすぐる。

柔らかな明かりの気配に目を開ければ、霞がかったような紗のカーテンの向こうに人影が見える。

思考の海を彷徨っていた頭を急速に引き上げながらどうしたんだろうと思って、すぐに思い出した。

(もう朝か)

クッションに沈んでいた上半身を慌てて起こしたところで、カーテンが開けられた。

無遠慮に差し込む朝日が眩しい。

「■■■■■■■■」

反射的に瞑ってしまった目をなんとかこじ開けつつ返すと、逆光で見えないが人影がいる。

何度も瞬きして、徐々に目が慣れてくると、人影はどうやら若い女性のようだった。

見覚えはない。

紺色のロングメイド服を着て、落ち着きのある灰茶の髪を一纏めにした妙齢の女性。

メイド服といっても、都内某所に多種出没する機能性が皆無のあれではなく、由緒正しい機能的なロングの詰襟メイド服だ。

「■■■■■■■■?」

こちらに何か尋ねているらしいが、あいにく言葉がわからない。

軽く首をかしげながらメイドさんを見ると、カーテンが大きくあけられて窓際のテーブルが目に入る。

美しい流線型を描く猫足の小さな円卓に、銀食器と傍らに瀟洒なワゴンに乗せられた食べ物が見えた。

なるほど、「朝御飯の時間ですよー」ということですか。

サクラは小市民根性丸出してへらへらヘコヘコと頭を下げながらテーブルに近づく。

昨夜も思ったが、基本的にこの部屋の家具はでかい。

きっと大人用として用意してあるのを流用したに違いない。

テーブル近くまで行ったら座れと言わんばかりに椅子を引かれた。

肩の高さにある椅子にどうしろと言うんだ。

よじ登れと?

そう思っていたらメイドさんが抱きかかえて座らせてくれた。

メイドさんの胸は視界が埋まるほど大きかったとだけ言っておこう。

赤子でなかったのは幸いだが、まだこの体は幼児と言って差し支えない程度の年齢らしい。

身長は百センチにも満たないくらい?

ようやく歩きだせるようになったくらいの年齢か。

バランスがとりにくくて仕方がない。

とりあえず、メイドさんもそこのところが良く分かっているようだ。

朝食として用意されたものも、スクランブルエッグやビシソワーズ的なスープと、スプーンで食べられるものか手でつまめる果物だった。

フォークを使えるかすら微妙な指の短さだったから、正直助かる。

昨夜脳内整理で判明した結果だと、この体でもモノは食べられるようだ。

食べなくても光を浴びれば水だけで生きていけるようだが、食べたほうが成長や回復は早い。

感覚としては植物の肥料だろうか。

…排泄は、必要ないみたいだった。

容量も一般的な幼児と似たようなものらしく、銀色のワゴンに乗ってきた料理の三分の一も食べきれなかった。

体が成長しても容量が大きくなるわけでもないようだが。

勿体無いと思いつつちょっと食べ過ぎたお腹を押さえていると、メイドさんがさっさと片付けてしまった。

銀のワゴンを押して部屋の前に出すと、ほかの担当の人がいたのか、新しくボウルが乗ったワゴンが登場して、顔を洗われた。

いや、確かに体は幼児でそのまま顔洗ったら周囲がひどいことになるだろうけど、あれだよ?

「自分は身の回りのことなら自分で出来る大人である」という自負と自覚を持ってる中で顔洗ってもらうって、ちょっとキツいよ?

怪我とか病気とか、何らかの理由で一時的に出来ないのならまだしも精神的に救いがあるが、別に身体的に不自由がないのに顔さえ洗ってもらうなんて…。

身の回りの世話してくれるメイドさんとか雇えるセレブな教育は受けてないし、断じてそういうプレイを楽しめるような特殊な性癖も持ち合わせていない。

若干凹みつつ姫系やロリータ系の女の子の部屋にありそうなドレッサーの前に促されて座り、びっくりした。

鏡の前に見たこともないような美少女がいた。

陶器でできたように滑らかなミルク色の肌に、欧米人よりは堀の深くない、ハーフのような顔立ちの美少女だ。

モデルというより、清純路線の正統派アイドル系。

だがそんな顔よりも。

髪が、ピンクだった。

目が萌黄色だったのは、まだスルーできないことはない。

だが、髪ピンクって。

よく見れば、頭頂部の生え際付近はうっすら黄緑色をしていて、そこから脱色したように一度白くなって毛先に行くほど赤みが増してピンク色だった。

色の和名に従えば桜色。

桃色じゃないことを喜ぶべきか、微妙だ。

そして、妙に納得した。

だから、“サクラ”か。

多分前世の性別は男だと思うんだが・・・。

男だよな?

個人情報保護機能が仕事してくれたらしく全く思い出せない。

大きい胸に反応するのは人類の本能だから、性差は関係ないが。

「どうせ主にするなら金髪碧眼美少年より母親の美女が良かったなー」とか「メイドさんもっとスカート短くてもいいのに」とか思っちゃう思考回路からして女性ではない気がするんだが。

四十近いおっさんの精神を持った美少女って、萎える。

一応身体的には性別は無いようだが。

ああ。でも、警戒心抱かせないという点ではいけるか?

そんな埓もあかないことをぐるぐる考えている間に、桜色の髪がハーフアップに結い上げられて花の飾りで止められていた。

そして差し出されたのは、若草色の高級そうなレースのドレス。

ちなみに今着ている、というか体に巻きつけてるのは白い布だ。

天使が最初に召喚された空間でマッパの俺に着せてくれたやつ。

これはこれで現在の俺の美少女天使っぷりに見事に合ってはいるが、これではダメなのはわかりきっている。

鏡越しに見えるメイドさんの顔がいい笑顔だ。

かなり色々と諦めて引き攣った笑いを返した。





すきが高じて書いてしまいました。

完結、出来るかな…。

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