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ンガイの森(埼玉)

 さらさらという音がする。

 透き通った小川に太陽の光が反射しキラキラと光る。

 川の中には小魚の泳ぐ姿が見えた。


「うおおおおおおおッ! カツオちゃん! カツオちゃん! お魚! お魚です!!!」


 マクスウェルはそわそわと激しく動く。

 その場で器用にしゃがみ込むと水の中をのぞき込む。

 魚はマクスウェルの影に驚き逃げていく。


「おおおおお。逃げました」


 マクスウェルは身を乗り出す。

 動物の子どもの頭は大きい。

 ゆえに頭を支えきれなくなったマクスウェルはそのまま川へ落ちた。


 どっぼーん。


「ぬおおおおおッ!」


「うおおおおッ! マー君大丈夫か?」


 カツオが叫び川の中に入る。

 幸いにも川は浅くすぐにマクスウェルは抱き上げられた。


「……大自然は過酷なのです」


 がっくりうなだれるマクスウェル。

 家の外に出られないドラゴンには自然は難易度が高すぎたようだ。


「マー君は10センチの段差を踏み外してアウトになりそうだな……」


「すぺら○かーなのです」


 マクスウェルはぷるぷると体を振り水を落とした。

 川を堪能したところで次は、本題の虫取りである。


「俺が蜜を塗った木があっちにあるぜ!」


 森を突き進んでいくと突然、ぽっかりと空いた場所が現れた。

 その真ん中にはぽつんと一本のクヌギの木がある。


「あの木だ」


「はいなのです」


 木にはカブトムシやクワガタがうじゃうじゃいた。


「おおおおおおおッ!」


 先ほどまーくんころころから、小川に嵌まって大変だったことをすっかり忘れマクスウェルは尻尾を振る。

 テンションはマックスである。


「こ、これが……く、クワガタ……ネットでしか見たことがありませぬ」


 マクスウェルがまるで都会っ子のような言葉をつぶやく。

 確かに帝都近郊ではクワガタの捕獲は難しい。

 だが外に出られないマクスウェルの場合はそれ以前の問題なのだ。


「つ、捕まえていいでござるか?」


「おうよ」


 マクスウェルがクワガタに手を伸ばす。

 すると器用にクワガタが振り返った。


『おっと坊主。それ以上近づいたら俺のハサミが火を噴くZE!』


 クワガタはそう言わんばかりに威圧してくる。

 ぷるぷるとマクスウェルの手が震える。


『ふふふ。うぬはすでにクワガタ神拳奥義クワガタ破岩顎の射程内よ』


 ぷるぷるぷるぷる。

 そして。


「ふー。ひ、引き分けです」


 手を引っ込めた。


「弱ッ! ドラゴンがクワガタに負けた!」


「い、いえ。カブトムシさんを捕まえるのです!」


 カブトムシに手を伸ばす。


『パパウ! パウパウ!』


 ビクッ!

 今度はカブトムシからの謎の威圧感がマクスウェルを襲う。


『コホォォォォゥッ!!!(吸血鬼を倒す不思議な体術的呼吸)』


 ぷるぷるぷるぷる。


「負けなのです。……ぐすり」


「弱ッ!!! ドラゴンってそれでいいのか!!!」


 一生虫さんに勝てないのではないだろうか?

 マクスウェルはそう思った。



 一方、保護者。


「……これ室内だよな? クレアちゃん」


「……館内図的にはがっつり室内ですね。 サラちゃん」


「なんでこのダンジョンはどこもかしこも太陽があるんじゃあああああああッ!!!」


 室内のはずなのに太陽が照りつけ蝶が飛んでいる。

 どこまでものどかな風景が広がっていた。

 やや頭が固いサラはツッコミを入れまくる。

 この間の海もそうだが、なんで全てのフロアが物理法則をガン無視するのだ!

 サラの胃が痛くなる。


「まあまあ。細かいことを気にするのはやめましょう。ね? 早く管理人さんのところに急ぎましょう!」


「ううう。でも太陽がそう何個もあってたまるかっての!」


 サラは引きずられていく。

 サラはどうしても納得がいかなかった。


 管理人の家に着くとミノタウルスのフネさんが一行を出迎えた。


「まあまあ。専務さん。お噂はかねがねー」


「うちの子がご迷惑おかけしたようで……」


「いいえー。うちの子とすぐに仲良くなっちゃってー! 二人で森に行ってるんですよー。さきほど店長さんにもご報告したんですよ」


 そうか入れ違いだったか……って!

 サラは耳を疑った。

 

「森?」


「裏のンガイの森ですよー」


「え? 危なくないですか?」


「いえー。カツオもいますし大丈夫ですよー」


「いやいやいやいや。うちの子に森とか無理ですって。お外にすら出られないんです!」


「あはははは。大丈夫ですって!」


 台所で麦茶をコップにそそぎながらフネが言った。

 どうやらフネの子育ては雑なものらしい。

 それに比べてサラは余裕がない。

 この辺に母親のキャリアの差が出たようだ。


「す、すぐに森に行かないと!!!」


 サラは駆出す。


「あ、サラちゃん待って!!!」


 クレアも後を追った。


「お二人さん。ノド渇いたでしょう。麦茶……あれ?」


 フネが麦茶を持ってくると二人はすでに消えていた。


「あっれー? ンガイの森はちゃんと鳥居から入らないと危ないのに……まあ専務さんなら大丈夫か……」


 フネは客に出すはずの麦茶をそっと口にした。

 彼女はどこまでも雑なのである。



 ンガイの森。(不法侵入)

 森はどこまでも不気味だ。

 鳥どころか虫の一匹もいない。

 まるで侵入者を拒絶しているかのようだった。


「こんなところで虫取り? おかしくない?」


「サラちゃん……ちょっとまずいかも……全方位から殺気を感じる」


 クレアがそう言うと剣を抜いた。

 同時にバサバサという羽の音が聞こえ、すりガラスをひっかいたような不快な泣き声が響く。

 それは巨大な鳥だった。

 羽毛の代わりに鱗に覆われた体が一直線にサラたちに向かってくる。


「邪神の眷属か! ファイア!」


 クレアが迎撃しようと魔法を放つ。

 だがサラが放った炎をシャンタク鳥はするりとかわし、クレアを襲う。


「っく!」


 超高速でクレアに迫るクチバシ。

 クレアはそれを剣で迎撃しようとする。

 果たして勝てるのか?

 クレアの剣に迷いが生じた瞬間、シャンタク鳥が吹き飛んだ。


「んぎゃあああああああああッ!」


 不快な叫び声を上げながらシャンタク鳥は地に叩きつけられ、何度もバウンドし、そして動かなくなった。

 クレアが横を見るとサラが拳を握っていた。

 どうやら横から殴りつけたようだ。


「20クレジット……」


「へ?」


「いえ、焼き鳥一本20クレジットでどうでしょうか? いやあと5匹倒して焼き鳥弁当にすれば100食は確保できるかも……たれを濃くすればイケるような気がします」


 クトゥルフを刺身にして叩き売った専務はやはり通常運転だった。


「……食べれるの?」


「たぶん……マクスウェルの鑑定魔法なら確実に断定できるかと。明日のタイムセールはこれで決まりですね」


 鬼である。


「さてと。先にうちの子を探さねばなりません。これは放っておいて後で回収しましょう」


 ここのダンジョンの住民強すぎじゃね?

 クレアは思った。

 もちろんそれは事実である。

 その後もサラは拳一つでシャンタク鳥を次々と撃墜する。

 まさに化け物である。


 やはりサラちゃんがこのダンジョンのマスターだ!

 クレアは間違った結論に突き進む。

 勘違いは無限連鎖していくのだ。

 クレアが妄想していると、いきなりサラが止まる。


「なに? サラちゃん?」


「ヤバいのが来ます。クレアちゃんはここにいてください」


 森の奥で何かがくねくねと動いている。


「あれってもしかして見たらヤバい系?」


「そのようです……」


「サラちゃんどうするの?」


 この際、ダンジョンの主の戦闘術は見ておいた方が良い。

 クレアはそう判断する。


「普通に倒します」


「どうやって?」


「気合ですよ?」


 そう言うとサラは普通に歩いて行く。

 遠距離から呪いで攻撃してくるモンスターに普通に近づいていくなんて!

 その後は……とても信じられない。

 まさか本当に呪いを気合だけではじき返すとは……

 クレアは本当の化け物を知ったのだ。

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