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邪神

 クレアはダストシュートを落ちていった。


 し、死ぬ!


 クレアは慌てていた。

 それほどまでに落下するスピードは速かった。


 そうだ! 風属性でブレーキをかければ……!


 クレアは周囲から風のマナを集め一気に放つ。


「ウィンド!!!」


 思った通りブレーキがかかり、クレアの体は落ちていくスピードを緩める。

 これで墜落死はないだろう。

 クレアはそのまま底を目指していった。



 ダストシュートの底は当たり前のことではあるがゴミ集積所だった。

 クレアは集積所の通風口から身を乗り出し外へ出た。

 集積場の外は南国のビーチ。

 さんさんと照りつける太陽。

 打ち寄せる波。

 サーフボードに乗る半魚人の集団。


 ……半魚人!!!


 サーフボードに乗った半魚人の集団は海上で輪になって集まって何かを唱えている。


「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」


 聞いたことがある。

 太古の邪神を呼び出す呪文だ!

 クレアが儀式を見ているとリーゼントの半魚人が他の半魚人に指示を出していた。


「埼玉の秘宝を贄にするのだ!!! まずは五家宝!」


「は!」


 半魚人が熊谷銘菓『五家宝』をリーゼント半魚人へ差し出す。


「十万石まん○ゅう!」


「は!」


 行田名物である。


「芋ようかん!」


「はッ!」


 川越銘菓。


「草加せんべい!」


「はい!」


「秩父餅!」


「は!」


「我らインスマスが世界を征服するのだ!!! さいたまさいたまさいたまぁッ!!!」


「さいたまさいたまさいたまー!!!」


 半魚人が一斉に叫んだ。


 そうか!

 クレアは納得した。

 太古の邪神こそ、このダンジョンの主の正体だ!

 なんという恐ろしい敵なのだ!!!

 人類のためにもヤツらを討ち果たさなければ!!!


 クレアは剣を抜いた。

 だが次の瞬間、激しい光と爆発が襲う。

 そして目を開けたクレアの目に映ったもの。

 それはなんとも名状しがたい、あえて言えばタコ……頭足類のような巨大な化け物だった。



「へいへいへいーい!」


 海の上を滑るカリビアンな海賊船風の漁船。

 マクスウェルによると超伝導、つまり凄い磁石の効果で浮いているとのことである。

 その漁船を操るのはキャプテンジャック(スケルトン)。


「へいへーい!!! レーダーに巨大な反応あり! すぐに向かうぜ!!!」


 明らかに時速数百キロは出ている。

 だが海上を滑っているため揺れは少ない。

 だが何かが違う。サラは釈然としなかった。


「ひゅー!!! 見えてきたぜ!!! ありゃ巨大なタコか?」


 その身長30メートルを超える巨大な生き物はまるで頭足類を思わせる頭部を持ち、むだに筋肉質なボディ、 お飾り程度にコウモリのような羽が生えているという姿だった。


「あれはクトゥルフなのです」


「クトゥルフ?」


「太古の邪神なのです……ボク悪くないですよ?」


 うん?

 何かがおかしい?

 サラは何かに気づいた。

 なぜかマクスウェルが小刻みに震えている。


「まーくん?」


 サラが貼り付いた笑顔で猫なで声を出した。


「ぼ、ボク悪くありません」


 目をそらす。


「なにが?」


「な、なんでしょうね?」


 激しく目が泳ぐ。


「例えば……いつも『子どもは早く寝ろ』って言ってるのに夜中に抜け出して映画館でホラー映画を見たことかな?」


 つまり……ホラー映画を見たマクスウェルがこの空間を邪神召喚が可能な状態にしてしまったのだ。

 とうとう他人様に迷惑をかけてしまう。

 サラを頭痛と胃痛が同時に襲った。


「にゃ!!! なんでバレ……」


 驚いて振り向いたマクスウェルは見た。

 リアル般若を。


「ちゃ、ちゃいます! ちゃいます!」


「んー? まーくん? 映画どうだった?」


「んー。怖いの嫌いです」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!という擬態語(オノマトペ)が聞こえてくる。

 そしてマクスウェルにサラの手が迫る。


「にゃ、つい答え! や、やめ、やめてえええええええ!!!!」


 梅干し。(出力70%)


 マクスウェルの叫び声が響いた。



「ううううう。痛いの嫌いって言ったのに……」


「悪い子はまだお仕置きが足りないかな?」


「にゃー! ごめんにゃしゃーい!!!」


 マクスウェルは頭を押さえていた。


「で? ジャック船長。どうします?」


「ふ。大丈夫でさあ。社長の設計したこの船に死角なんぞありません!!!」


 船長が赤いボタンを押す。


「全男の子の憧れッ!!! びいむ兵器!!! いっつしょうたいむ!!!」


 ビーム砲まで搭載されていたのである。


「ヒャッハー!!! 埼玉の魔法力は世界いちいいいいぃぃぃぃッ!!!」


 これ漁船だよな。

 お前ら普段何と戦ってんだよ?

 サラは思った。


 クトゥルフにビームが発射される。

 ビームは一瞬でクトゥルフへ到達し爆発する。


「ぶもおおおおおおおッ!」


 クトゥルフがこの世のものとは思えない声で叫んだ。


「ぬう! 流石は太古の邪神!!! 対マグロ用の兵器じゃ仕留められねえか!」


 この空間のマグロはどんだけ強いんだよ!


「ぬうう! 攻撃反応!!! クソッ!!! ロックオンされた!!! 回避するぞ!!!」


 サラが船の後ろを見るクトゥルフがバタフライをしながら迫って来ていた。

 バタフライですくい上げられた水で水柱が上がり、宙に投げ出された大量の水が上から落ちてきた。

 ジャックは巧みな操船でそれをかわしていく。


「っちょ! 物理攻撃!!! ロックオンってただ単に目をつけられただけ?」


「ふははははは! バタフライを選んだ貴様の負けだ!!! イカ漁用、拡散ビーム砲発射!!!」


「ちょっと待てえーい! イカ漁にビームはいらねえ!」


 サラはついツッコミを入れる。

 とうとうボケの産業廃棄物に反応してしまったのだ。

 ビームが邪神に到達する。

 その瞬間、邪神が水しぶきを上げた。

 ビームが水しぶきに当り拡散して消えていく。


「なぬ! 光学兵器を水の乱反射で防ぐだと!!!」


 ジャック船長が叫ぶ。

 どうやらビームは効かないようだ。


「クソッ! じゃあ次はカツオ漁用のリングレーザーを……」


「あのー?」


「マクスウェル。今忙しいから後で」


 サラがたしなめた。


「えー……でも倒せませんよー」


「だから後でって……なぬ?」


「だから、倒せません」


「へ?」


「だってあの質量ですよー。で、相手は神レベルですから無理ですよー」


「じゃあどうするんだ!」


「えーっと……相手は邪神として計算。ネットによると邪神戦はブラックホールレベルの攻撃力が必要です。例えば今日取り上げられたラ○トセイバーとか……」


「……はい?」


「いえ、だから。ライトセイ○ーです」


 サラは懐をまさぐる。

 先ほど取り上げた○イトセイバーがあった。


「世界が滅ぶだろが!」


「大丈夫ですよ? エネルギーは邪神と相殺しますので」


「本当だな?」


「本当ですよ」


「本当に本当だな?」


「本当ですよー? ……たぶん?」


 あやしい。


「えー……滅ぼさなきゃならんのですか?」


 店長がそもそもな疑問を口にする。

 それにマクスウェルが答える。


「あれはチッバー王国の神なのです」


 その一言で全員の心が一つになった。

 倒さねばなるまい。

 この美しい埼玉を守るために。


「ビームセイ○ーを主砲に繋ぐのです」


「あいあいさー!!!」


「出力最大!!!」


「いあいあーまくすうぇる!」


「行きます!!!」


 埼玉の命運をかけた作戦が実行されようとしていた。

 ブラックホールを作るほどのエネルギーが主砲に充填されていく。


「えたーなる・なんとか・ぶりざーど発射!!!」



 クレアは手こずっていた。


 こいつら強い!

 半魚人のくせに。

 半魚人はサーフボードを巧みに操る。

 あるときは移動手段として。

 あるときは攻撃手段として。

 その攻撃は早く、狡猾で隙がない。

 しかも仲間との連携はまるで訓練された兵士のようだった。


「ふはははははは! 古代埼玉人たる我らに勝てると思うか!!!」


 リーゼントの半魚人が海からサーフボードに乗って飛び込んでくる。

 それは恐ろしいほどの速さの体当たりだった。


「くッ! これまでか!!!」


 討ち果てる覚悟を決めたクレア。

 だが運命は勇者に味方した。

 後のクレアの記憶は非情に曖昧である。

 遠くで光が見え、クレアは吹き飛ばされた。

 なぜか陸地で戦っていたはずなのに海で発見されるほどの距離を吹き飛ばされたのだ。



「みゃー! ここに人がいます」


「お、おい! 大丈夫か!」


「とうとうマクスウェルのせいで犠牲者が……世間様になんとお詫びをすれば……」


 クレアはどこか遠くで声が聞こえたような気がした。

 だが意識がどんどん薄れていく。

 そして闇がクレアの意識を乗っ取った。


 こうして三人は出会った。

 そして、ショッピングセンター(おうち)を舞台に探検と経営の日々が始まるのである。

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