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クトゥルー再び

 僕の目の前に黒の学生服を崩して着たお兄さん、リチャードさんがいました。

 リチャードさんが上機嫌に笑っていました。


「がははははは! 大きな気の出現でまたヨグ・ソトースとタイタ●クロウの殴り合いでも見られるのかと期待して来てみれば、気の主がこんな小さな竜だったとは!!! ほれアメ食べるか?」


 そう言ってリチャードさんは持ちきれないほどのアメ玉をボクの手にのせました。


「ありがとうなのです!」


 わーい♪

 ボクは小躍りしました。

 でも……にいちゃに「歯が悪くなるから一日三つまで!」と言われています。

 こんなに食べていいのでしょうか?

 困りました……

 どうしましょう?


 そうだ!

 こういうときは相談なのです。

 ボクは三毛猫さんに聞こうと顔を上げました。

 すると猫さんはヨダレを垂らしながらキラキラとした目でこちらを見てました。

 なるほど。

 猫さんはアメを食べても大丈夫なんですね。

 ダメなのはチョコレートでしたっけ?

 うん。

 猫さんにもわけてあげましょう。


「猫さんもどうですか?」


「にゃふふふふふふ。なんか催促したみたいで悪いなあ……うへへ」


 そう言って三毛猫さんはアメ玉を持っていきました。

 ボクの手元にはアメ玉が三つ残りました。

 うん。これなら怒られないのです。

 あ、そうそう。

 ちゃんと言っておかないといけません。

 カツオちゃんだったら独り占めしてしまう所でした。


「みんなにもわけてくださいなのです」


「はいにゃー♪」


 猫さんたちはたくさんのアメ玉を分け合ってました。

 どうやら喜んで頂けたようです。


「ふむ面白い。ドラゴンはもう少し自己中心的であると聞いていたが」


「『自己中はダメ』とにいちゃキツく言われているのです」


 うちはそういう所が厳しいのです。


「にいちゃ? ドラゴンか?」


「ちがいますよー? にいちゃはダークエルフさんなのです」


「ダークエルフ? ……ドラゴン? うん? たしか覚醒世界の噂で……」


「はいな?」


「そうか! 邪神殺しのダーク様!!! クトゥルフを頭から丸呑みし、ナイアーラトテップを従え、クトゥグアをも退けたダークエルフ!」


 にいちゃは「小麦粉は太るから」とタコ焼きに手をつけませんでした。

 どうやら別の人のようですね。


「うーんそれは凄いのです!」


 僕はバンザイをしながらぴょんぴょん跳ねました。

 凄いのです。

 にゃーくんやクトゥグア隊長に勝てる人がにいちゃの他にもいたんですね。


「そのダークエルフが守るのは白龍……ん?」


「はいな?」


 リチャードさんが僕を見ました。


「んー?」


「はいな?」


「きのせいか……こんな子どもが龍王のはずがないな」


「はいな?」


 僕はきゅっと首をひねりました。

 龍王?

 そう言えば僕のお部屋の名前は龍王の間でしたね。

 でも僕は社長なのです。

 リチャードさんが僕を見てました。

 しばらくすると頷きました。


「うん。ないな。ボウズ、学長のとこに案内してやるからついてこい」


「はいな。ところで総長さんと学長さんは違うんですか?」


「学長は学者。総長は漢。覚えておけ!」


 なんだか難しいのです。

 僕は気にしないことにして猫さん達と後に続きました。



 タコ焼きにして販売したはずの邪神クトゥルフが復活した。

 まるで何事もなかったかのように。

 あまりにもいい加減なその存在にサラはフラストレーションをためながら立ち尽くした。

 話は遡る。

 子どもの貯金に手をつけるのは許さない。

 サラの教育的制裁により、邪神は「んじゃ友達に金借りるのねん」と不穏な言葉を口にした。

 「でも足代は借りるのねん」

 どこに行くんだよと一行の全員がいやな予感はしたが仕方がなかった。

 邪神の言われるままにある都市へ向かったのである。


 そこは死と暴力が支配する犯罪都市ダイラス・リーン。

 そこに一軒のカフェが存在した。


「いあいあカフェ。ふんぐるい むぐるうなふ」


 カラフルなタコのような着ぐるみを着た店員が接客をしているのが外から見えた。


「オーナーいるのねん?」


 邪神は明らかに近づいたらいけない空気を放つその店舗にズカズカと押し入る。

 中には着ぐるみ姿の店員が客の席まで行ってオムライスにケチャップをかけていた。

 声からすると中の人は女性のようだ。


「おいしくなりますようにー」


 非常にノリノリな声である。


「相変わらずカオスなのねー」


 にゃーくんはカウンター席に腰掛けるとその奥にいるマスターに声をかけた。


「合言葉は?」


「『窓に! 窓に!』なのね」


 気むずかしそうな顔をしたマスターがカウンターの下のボタンを押す。

 その途端、壁があった場所にドアが出現した。


「VIPルームへ行け」


「いあいあー」


 ピコピコピコパキューンピロロロロロ。

 古いゲーム機のチープな音源が曲を奏でる。


「さすがFM音源ユニット……音質が違う」


 つぶやきが部屋に響いた。

 ただし内容は誰の心にも響かない。

 声の方向には緑色のずんぐりむっくりとした生き物がコントローラーを握っていた。


「クトゥルフ! 久しぶりなのね! 金貸して!!!」


 単刀直入である。

 クトゥルフは丸っこい体でうなずいた。

 サラは首を傾げた。

 見たことがあるような気がしたのだ。


「ん? クトゥルフ……あー!!! タコ焼き!!!」


 サラが指をさした。


「ちょっと待って! マクスウェルのなんか凄いビームで調理されたんじゃ!!!」


「ふっふっふ。神様甘く見ちゃダメなのよ。サラちゃん。このクトゥルフはかなり前に寝床に核爆弾仕掛けられたときもなんだかんだで復活したのね。ミーも過去に神の力が宿ったすげえ拳銃で撃たれて滅ぼされたりしたけど翌日には何事もなかったように復活したし」


「ねー。ほら、チッバーの人に呼び出されたらとりあえず怖い演出する契約だし。最近のゆるキャラ業界も厳しいのよ」


 なにその適当な生き物。

 つかゆるキャラって顔かテメエ。

 サラはイラッとしながら絶句した。


「ホラー界の売れっ子リアクション芸人はそのくらい器用じゃないとダメなのよ!」


 この野郎どもボケ倒してごまかす気だな。

 サラは笑顔で拳を握った。


「さてクトゥルフ。金貸してなのね」


「いいよー! トイチで」


「ありがとねー♪」


「ちょっと待て!」


 サラがにゃーくんに詰め寄った。


「はいなのね?」


「返す当てはあるのか?」


「ミーに金貸して返してもらえると思ってるのが甘いのね」


 その顔は本気と書いてマジであった。


「うっわー……」


「あ、大丈夫だよ。ショッピングセンターはうちの会社の取引先だからさんざん儲けさせてもらってるし」


「へ?」


 サラが間抜けな声を出した。


「ルルイエ食品」


 ショッピングセンターではかなりの品数を自社の工場でまかなっているが、仕入れた方が在庫が安定するものや買った方が安いものなどは外から仕入れている。

 その仕入れ先は膨大でありサラと言えど全てを把握しているわけではない。


「店長?」


「えっと冷凍野菜とか冷凍の魚介類の仕入れ先ですね。タコのほとんどはここから仕入れ……」


「ストーップ!!! ストーップ!!! 今何も聞こえなかった!!!」


「イヤホラ俺の触手、タコ焼きにするとスッゲー美味いのよ。いくらでも生えてくるし。あ、明石焼きあるけど食べる?」


 ニョロニョロと触手が動く。


「うるせー黙れー!!! 何も聞こえないー!!!」


 クレアを筆頭にほぼ全員がが吐きそうな顔をしていた。


「たしかにエリンギより安いからおかしいなとは思ってたんですが……」


 死んでるし勿体ないから客に食べさせちゃえ。

 そう思ってやった悪行が見事にブーメランのように戻ってきた。

 悪徳商法は必ず滅ぶのである。

 こうして取引先からの借金という屈辱とトラウマを乗り越えマクスウェルを探す算段がついた一行だった。

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