カダテロン
危険と理不尽、そして無限の夢があふれるドリームランド。
その世界の神とはクトゥルー神話の神々である。
各地でにゃーくんやクトゥグアをはじめとして、コズミックホラーの神々が奉られている。
そう……嫁に土下座をしているうだつの上がらないオジさん。(ただし美形)
彼は神なのである。
……たぶん。
「お前何をした?」
「だってしかたないのね!!! 天罰を与えるのも神様の仕事なのね!!!」
「だから何をした?」
「いえあのね……」
邪神が露骨に目をそらす。
なぜ二人が言い争っていたのか?
それはしかたないことだった。
「いたぞ!!! 神を捕獲しろ!!!」
フードの男たちが叫ぶ。
その瞬間、サラと邪神は脱兎のごとく駆出した。
「クソ! 逃げた!!! 追え! 殺しても構わん!!!」
フードの男たちが二人を追う。
はたして彼らはにゃーくんの信者であろうか?
「ホントは何をしやがった!!!」
「神様が保証しまくる年利1500%の金融商品を売りまくって逃げたのね」
彼らはにゃーくん被害者の会だったのだ。
彼らは老後の貯金や借金して作ったお金をマネーゲームにつぎ込んだのである。
欲まみれの顔で。
「少しくらい返せないのか?」
「くくく。ミーが返済能力を残すと思っている時点で素人なのね」
「ホントお前最低だよな!!! なんに使ったんだよ?」
「カジノのバカラ賭博で金持ちカモにして一万倍に増やしてから恵まれない子を支援する団体に全部配ったのね! 神は宵越しの金は持たないのね!!!」
ちなみにカジノやそこに集う資産家も邪神のターゲットである。
「ちなみに今回の教訓は『欲は身を滅ぼす』なのね。ミー、すっげー神様してるのね! ちゃんと配った団体の背後も調べて営利団体だったらケツの毛までむしったし……あれ? なんでサラちゃん拳を振り上げてるのね? え? ちょっと! ちょ! みぎゃああああああああ!!!」
常に神を殺すのは亜人含む人類なのである。
◇
ボクたちは空飛ぶ船でカダテロンにやってきました。
カダテロンは魔法学校があるそうです。
学生相手のお店が建ち並んでました。
猫さんたちは「値段が安くて量が多い食堂がいっぱいあるんだ」と言っていました。
なるほど。
これが噂に聞く学生街なのですね。
たいへん勉強になります。
そういえばここってお外ですよね?
なんでボク怖くないのでしょうか?
はて?
「ねえねえ。まーくん。魔法学校の応援団は部室棟の階段の下に布団敷いて住んでるんだって」
「バンカラですねー」
はて?
バンカラってなんでしょう?
よくわかりません。
「あ、歌の練習してるよー」
三毛猫さんが指を指す先には声の強弱で音程をとる謎の集団がいました。
なぜか学生服です。
今度ショッピングセンターでも扱ってみましょう。
暴虐的な合唱が終わると先頭のヒゲを生やした人が絶叫しました。
「魔法がっっこうおおおおおおおおお! おおおおおおお応援んんん団!!! うきゃあああああああ!」
絶叫と同時に大太鼓が打ち鳴らされました。
あまりに大きい音で途中から全く聞き取れません。
ボクは大きい音は苦手なので逃げることにしました。
カダテロンの文化は本当に不思議なのです。
ボクたちはカダテロンの学校を目指しました。
正門に着くと、柵から中で行われている授業が見えました。
……はて?
プラカードを持った人たちがいます。
『ナイアーラトテップを許さない! 学長は邪神を糾弾せよ!!!』
はて……?
ナイアーラトテップ……にゃーくんですね。
ボクはプラカードの人たちに近づくとすそを引っ張りました。
「あのー。にゃーくんに御用なのですか?」
ボクは聞きました。
「にゃーくん? ……ナイアーラトテップのことか!!! 君はいったい!?」
「うーん……なんでしょうね? にゃーくんはショッピングセンターの顧問弁護士でたまにアルバイトで……でもそれはショッピングセンターとの関係で……ボクのお父さん? ……うーんわかりません」
ボクは答えに困りました。
いったいにゃーくんはボクのなんなのでしょう?
「お父さん!?」
プラカードを持った彼らの目の色が変わりました。
「おい! こいつ人質に取ればいいんじゃないのか?」
彼らは相談をするとこちらを向きました。
人質ってなんですか?
「あ、あのねキミィ。ボクらの所に来ないか?」
「ダメなのです。ボクはこれからおうちに帰るのです」
「そうだ! 俺らが送ってあげるよ!!!」
ボクは困りました。
埼玉の人だったらショッピングセンターの中の黒ウニやむらしまの服を着ているはずです。
ところがおじさんたちは化学繊維すら使われていない昔の服装だったのです。
ボクは困ってしまいました。
おじさんたちがボクの家を知っているはずがありません。
急に怖くなったボクは逃げようとしました。
猫さんたちもボクの様子がおかしいことに気づいたらしく、おじさんたちを威嚇してくれました。
怖い!
逃げ出したボクの手をおじさんの一人がつかみました。
痛い!
そのときでした。
スリガラスを引っかいたような音が響きました。
そして大きな音をさせて大きな鳥さんが飛んでくるのが見えました。
「っく! 魔法番長がやってきやがった!」
おじさんたちが散りじりになって逃げました。
なにがあったのでしょう?
「ふっふっふっふっふ! ぐわーはっはっは! ワシが魔法学校総長! リチャードである!!!」
肩の部分から先が破れてない裾の長い学ラン。
それを素肌に直接着込んだ男の人でした。
斬新ですね。
「なにやら巨大な魔力を追ってきてみたら、まさかこんな小さなガキだと! ふはははは! 面白い! 面白いぞ!」
リチャードさんは笑っていました。
◇
被害者の群から逃げきった一行はカダテロンを目指していた。
クトゥグアの
「探検では先に脱出口を確保するのが常識」
という至極まっとうな意見を採用した結果である。
「ところでさ。ここってお金使えるの?」
クレアが何気ない質問をした。
「わ、忘れてたのね!!!」
埼玉の通貨はクレジットである。
だがショッピングセンターの周りだけは奇妙な商慣習が横行していた。
魔導マネー「さいたま」である。
ショッピングセンターでお金をチャージ、あとは店を出るだけで自動決済というお気楽なカードである。
実際、従業員のほとんどはポイントにしてしまい現金を持ち歩く習慣が絶滅しかかっているほどである。
「げ、現金! 特に金貨プリーズ!」
「重いから持たない」
クレア。
「使う機会がないし」
サラ。
「100クレジットなら」
カツオ。
ちなみに100クレジットはおもちゃ付きお菓子を一つ買えるくらいの価値である。
「ありますわよ」
エレノアが言った。
にゃーくんはため息をつく。
子供だからそれほど期待はできないと思ったのである。
「はい!」
エレノアは袋を取り出してサラに渡した。
中を覗いたサラの口調が変わる。
「ちょっとエレノア! これ金貨じゃないか!」
袋はずしりと重く中は金貨が詰まっていた。
「だって魔導マネーの機械の使い方わからいんですもの」
サラはアナログ人間に感謝をした。
そんな二人に水を差すものがいた。
「俺に貸してくれれば100倍にして返すぜ!」
カツオである。
「そうね! むしろミーに少し貸してくれればあっという間に1500倍に……」
にゃーくんが血走った目でエレノアに詰め寄る。
その目は血走っている。
そこに突然ごきりごきりと骨を鳴らす音が響いた。
「これは違うのね」
「違うぞ。全部邪心の陰謀だ!」
にゃーくんはサラに連行されていき、カツオはエレノアに連行されていった。
クレアはまたかよと苦笑いをした。




