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新型ハード

 最近……ショッピングセンター内に妙な従業員が増えた。


 サラは思った。

 サラがいるのは地下の倉庫区画。

 ここで妙なことが起きているのだ。


「テケリ・リ、テケリ・リ」


 妙な声をさせながら『なにか』がサラの方へやって来た。

 なんと表現すべきかわからないようなアバンギャルドな造形のスライムが運搬車、いわゆるターレットトラックと言われるものを器用に操縦しているのだ。

 牽引されている荷台にはペタドライブというマクスウェルが作ったゲーム機が大量に積み込まれていた。


「テケリ・リ」


 サラと目が合ったスライムがぺこりと頭と思わしき部位を下げた。

 どうやらサラのことを知っているらしい。

 運搬車が荷物搬入用エレーベーターの前につく。

 車両ごと運搬できる大型エレベーターだ。

 あの姿は人間にはマズイだろとサラが思った瞬間、


「テケリ・リ!」


 と、一声泣いたスライムが一瞬で作業服を着た女性の姿に変わる。


「荷物搬入お願いします!」


 スライムから変身した女性の声が響くとスケルトンたちがエレベーターのドアを開けて車両を中に通した。

 非常にスムーズなオペレーションだ。


「誰が連れてきた……?」


 サラは首をひねった。



 クレアは首をひねった。

 おかしい。

 女性社員が増えている。


 なぜ警備員のクレアがそんなことを考えているのか?

 それは簡単だった。

 昇進したのである。

 警備部部長。

 それが今のクレアの肩書きである。

 (と言っても肩書きがついて給料が上がった以外は何も変わらない)


 そのクレアが知らないうちに社員が増えるなどないはずだ。

 そしてもう一つクレアには気になることがあった。


 人間の客に混じって、妙な生き物がいるのだ。

 ゴブリンやオークなどの魔族ではない。

 魔族ならこの地域の人間なら誰も疑問に思わないだろう。

 今もクレアの横をゴブリンの夫婦と子どもが通り抜けた。


 だが……アレはいったい?


『しもつかれ』


 シャツにはそう書かれている。

 (『しもつかれ』とは北関東の郷土料理でビジュアルが凄まじい食べ物である)

 いや『しもつかれは』どうでもいい。

 ツッコミどころだがそこは重要ではない。


 その一団の姿は奇妙だった。

 あえて表現をするならば羽の生えたサボテン。

 そのような魔族をクレアは知らない。

 その一団がクレアの方にやってくる。

 大きい個体と小さな個体。

 親子だろうか?

 一団がクレアの近く来た。

 するとクレアの頭の中に声が響いた。


「ペタドライブの売り場はどこですか?」


 クレアは謎の生き物のテレパシーに内心冷や汗をかきながらも平静を装い売り場を教える。


「ありがとうございます」


 サボテンはそう言って去って行った。


「あの人の関係者かな?」


 クレアも首をひねった。



「ミーじゃないのね。今回は本当なのねん!」


 邪神が言い張った。


「あれらは邪神じゃないの?」


 サラが聞いた。

 口調が普通なのは邪神の声色から嘘ではないことを見抜いたからだ。


「サボテンはたぶん『古のもの』なのねん。スライムはショゴスだと思うのねん。でもミーとは波長が合わないから苦手なのねん。人間とか魔族みたいにツッコミ入れてくれないのねん! リアクション芸人としては面白くないのねん!」


 いつからお前はリアクション芸人になった。

 サラは心の中で激しくツッコんだ。

 だが話が進まないので表には出さない。


「ツッコミがない……だと……」


 サラがにっこりと笑った。

 「いい加減にしないとドタマかち割るぞ」という意味である。


「オウ……とにかくミーは無実なのねん!」


 邪神がそう言い張る。

 もちろんサラは嘘ではないことを見抜いていた。

 だが……誰が?


 それは意外な人物だった。



「ボクですよ」


 マクスウェルがはっきりそう言った。

 クレアは「まーくんかぁ……」と頭を抱えた。

 クレアは気を取り直して優しく質問する。


「まーくん。どうして雇ったのかなあ?」


「はいな! この間の探検のときなのです。にゃーくんがモバイル端末を洞窟に落としてしまったのです!」


 その後マクスウェルは、事の次第を話し始めた。

 ショゴスに追われるうちに誰かがマクスウェルのモバイル端末を落とした。

 それをショゴスが拾ったのである。

 そしてマクスウェルとの通信が始まった。

 熱く、熱くゲームを語るショゴス。

 「テケリ・リ」という泣き声をなぜか理解するマクスウェル。

 そこでは名状しがたい妙なやりとりが繰り広げられていたのだ。


「テケリ・リ! テケリ・リ!」


「わかるのです。新ハードは重要なのです。あのワクワク感は言葉にできないのです!」


「テケリ・リ? テケリ・リ」


「え? 新ハード作らないか? ですか……夢の256ビットハードはどうでしょう?」


「テケリ・リ。テケリ・リ」


「え? どうせなら1億ビットとか1兆ビットに挑戦? ……そんな誰もが一度は考えたことを……」


「テケリ・リ! テケリ・リ!」


「確かに……なぜか同時に使えないデュアルCPU。下位互換のために犠牲にされたグラフィック。ゲームソフトの理不尽な難易度。一見弱点にも思えるそここそが魅力なのです!!!」


「テケリ・リ! テケリ・リ!」


「無茶するのがゲーム……確かに!!!」


 ガッツポーズをするマクスウェルとショゴス。

 廃人ゲーマーという絆がそこには存在したのだ。



「……というわけでペタドライブの開発をしたボクはおもちゃ売り場にショゴスさんたちを送り込んだのです」


 ああダメなスイッチ押しちゃった。

 クレアは思った。


「えっと……サラちゃん呼んでくるね……」


「はーい」


 そしてクレアの報告を聞いたサラは深く深くため息をつくのだった。


「っきゅ?」



 こうして数千年にも及ぶ文明の断絶を経てゲーム機がこの世界に蘇った。

 人々はこぞってゲーム機を買い求め、初回生産分は完売。

 その噂が巷に広がり、人々は増産を待ち望んだ。

 販売予約は一瞬で終わり、ごく少数の店舗販売分のために長い行列ができ……そして行列は修羅場と化した。


「さ、サラちゃん!!! アダチの騎馬民族が喧嘩を始めちゃった!」


「あーのーバーカーどーもー!!!」


 暴れるチンピラ。

 転売目的の商人。

 クソゲー狙いのドラゴン(人化済み)。

 場は正にカオス。

 すでにコントロールは不能。

 サラがストレスのあまり歯ぎしりをした。

 だが今回の犯人はサラの溺愛するマクスウェルなのだ。

 邪神は全く関わってないのだ。

 どこにストレスをぶつけたらいいのだろうか。



 おもちゃ売り場。


 普段は物資の搬出入を担当するショゴス部隊は女性店員に化けて買い物客をサバく。

 スケルトン部隊も全力で仕事をしている。

 半漁人もだ。

 それどころか、にゃーくんすらもかり出されていたのだ。


「はい。6864クレジットなのね」


 客が渡してきた紙幣をレジに通す。

 すると自動でおつりが出てくる。

 おつりとレシートを客に渡し、にゃーくんはふと自分の手を見る。


 ミーは邪神なのに……

 なんでショッピングセンターでレジ打ちしてるのね?

 邪神は思った。

 ああ。でもこれこそが愛する妻と息子のための労働なのね。

 そう無理矢理納得したにゃーくんは次の客の会計をはじめる。


「ペタプロレス。超プロレス。スーパーウルトラデラックスプロレス。本体……プロレス専用コントローラー……ん?」


 プロレス。

 まだこのショッピングセンターでもそれほど定着してないコンテンツだ。

 それを知っているとは誰なのだろう?

 疑問に思った邪神は顔をあげた。


 『プロレスLOVE』と書かれたシャツ。

 虎のマスク。

 それは邪神の知っている人物とよく似ていた。

 にゃーくんが冷や汗を流す。

 まさか。なんで?


 なんでコイツ来たの?


「あれ? にゃーじゃん? どうしたん?」


 筋肉質の人間。

 冬でも半袖、ピチピチのシャツ。

 口ヒゲ。

 悪趣味な柄のジャージのズボン。

 スニーカー。

 意味もなく巻いた肘サポーター。


 それは……

 にゃーくんが叫んだ。


「アザトースなにしてるのね!!!」


「いやプロレス……」


 そう……創造神がゲームを買いに来たのだ。

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