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狂気山脈(群馬)

「テケリ・リ、テケリ・リ」


 遠くで声がした。


「ふっふっふ。我々邪神の力を持ってすればショゴスなど伝説の剣の前のスライムなのだよ! ぐあーはっはっはっは!!!」


 クトゥグアが高笑いをした。


「なんでミーがこんな目に。なんでミーがこんな目に。なんでミーがこんな目に。なんでミーがこんな目に。なんでミーがこんな目に。なんでミーがこんな目に。なんでミーがこんな目に。なんでミーがこんな目に。なんでミーがこんな目に」


 すでにSAN値が限界を迎えるにゃーくん。


「たしかスライムってあのゲーム以外じゃ物理無効の強キャラじゃね? つか俺邪神じゃねえし」


 ゲーマーの赤龍はそう言うとビールをぐびっと飲んだ。



 事の起こりは、


「確か……徳川埋蔵金の発掘が面倒くさくなって逃げた直後のことなのねん」


 ……違う。

 アトランティスの探検である。


 面倒くさくなったにゃーくんはクトゥグアを騙して『なんとか探検隊ごっこ』でごまかし、そのどさくさに逃げたのである。

 そしてその直後……


「『狂気山脈』が出現したのです!!!」


 ショッピングセンターに逃げ帰ったにゃーくんへマクスウェルがピコピコと駆け寄った。


「……マジで? つうかあれは南極じゃ……」


 にゃーくんが露骨に嫌そうな顔をした。


「ショッピングセンターのいんふぉめーしょんに出てたのです!」


「まーくん。それは全てクトゥグアの陰謀なのね」


 にゃーくんは澄み切った目でそう言った。

 絶対に関わらねえ。

 その目は雄弁に語っていた。


「あれ? 友達と遊びに行ったんじゃないの?」


 マクスウェルを追いかけていたサラ、カツオ、エレノアが現れた。

 邪神はわざとらしくサラの胸に飛び込む。


「うわあああああん! ハニー!!! クトゥグアがひどいんだー!!! 変な山脈まで用意したんだよー!!!」


 もちろん容赦なくサラに肘を落とされにゃーくんは床にキスをした。


「とりあえず全部解決するまで帰ってくるな」


 サラはニコッと笑った。

 それはにゃーくんにとっては死刑宣告に等しいものだったという。



 帝政群馬。

 人類に残された最後の秘境。

 な、わけがない。

 民が住み、皇帝がいる。

 この時代としてはごく普通の国家である。

 百名山を選定できるほど山に囲まれまくったその地にひっそりと氷の大地が出現したことに誰も気づかなかった。

 現れたのは狂気の山脈。

 そう。

 マクスウェルが作った魔道書。

 その魔力により呼び出されたのである。


 にゃーくんはマクスウェルから借りたモバイルコンピューターでチャット画面を呼び出した。

 竜族専用のネットワークのため、邪神は機械の手を借りないと使えないのである。


「にゃーくん! 通信はどうですか?」


 マクスウェルの顔が映り、少し遅れて声がした。


「OKなのね! 今氷山が見えてるのね」


「はいな。そこに洞窟があるはずです」


「洞窟には何がある?」


 クトゥグアが真面目な声で聞いた。

 一人だけ真面目である。


「はいな。あとらんてぃすの遺産? かもです」


「ひゃふううううううううううッ! 遺跡ハンター来たあああああああああッ!!!」


 ガッツポーズ。

 一人だけテンションが高い。


「まーくん。おじさんはなにすればいいの?」


 赤龍がビール飲みながら聞いた。

 心の底からどうでも良さそうである。


「えっと。物理無効の人? がいるので二人をサポートしてください。最悪の場合は転移魔法で帰還してください」


「おうよ。げぷー」


 酒臭い息を吐く。

 息は少しだけぼうっと燃えた。


「テケリ・リ、テケリ・リ」


 どこかでかすかに泣き声がした。

 このとき五感の鋭い赤龍だけがその泣き声を聞くことに成功していた。

 だがその声の主が何者なのかを知らなかった赤龍は、空耳だろうと思い気にもとめなかった。


 洞窟に入り最深部を目指す。

 美しくも狂気じみた彫刻を見てクトゥグアが目を輝かせた。

 そして最深部。


 ぴこぴこぴこぴこ。


 音がした。


 ぱぴゅーん。どごごごご。

 ぶぶぶぶぶぶ。ぎゅいーん。


 洞窟の最深部。

 そこはゲームセンターだった。


「なんてことだ……一番新しいゲームがスペース○リヤーだと……」


 クトゥグアがつぶやいた。


「……おい。こっちはエレメカだらけだぞ」


 驚きのあまり赤龍がつぶやいた。

 ゲーマーとしての何かが心に響いたのだ。


 エレメカ。

 エレクトロメカニカルマシンの略である。

 モグラたたきやエアホッケーがその代表格である。

 機械制御により物理的な動きで遊ぶゲームが多い。

 人形が動いたり、遊びながら景品がもらえたりと、ドリーム感溢れるものが多い。


 つまり……

 そこはレトロゲームのみのゲームセンターだったのだ。

 温泉街や旅館の片隅に存在するアレである。


 ちなみにネットなどない。


 レトロゲームを見て堪能する三人。

 そして気づくのだ。

 そこにいる何者かの存在に。



「古のもの……だと」


 クトゥグアがつぶやいた。

 イソンギンチャクのような生き物が一心不乱にブロック崩しをしていた。

 それを見ていたにゃーくんの頭に突如声がする。


「格ゲーがやりたい……格ゲーというものがやりたい!!!」


「旧人類が滅んでから何千年が建っていると思ってるのね!!!」


 にゃーくんは全力でツッコんだ。

 どれだけ時代に取り残されればヤツらは気がすむのだろうか?

 今存在したとしても竜族の誰かが大事に持っているものだけだろう。

 そしてまたもやテレパシーが。


「ヤツらが来た」


「ヤツら?」


「ショゴスだ」


 まずい。にゃーくんは思った。

 面倒くさい相手だ。

 邪神といえどもなるべく相手にはしたくない。


 突如、ゲームセンターの電気が消える。

 三人は急いで駆け出した。

 たしかにクトゥグアの炎や火龍がいれば簡単に倒せるだろう。

 だがそれは許されない。

 あのゲームセンターにあるのは旧人類の遺産なのだ!


 三人は外へ外へと走った。


「テケリ・リ、テケリ・リ」


 笛のような泣き声がした。


「なんでミーがこんな目に。なんでミーがこんな目に。なんでミーがこんな目に。なんでミーがこんな目に。なんでミーがこんな目に。なんでミーがこんな目に。なんでミーがこんな目に。なんでミーがこんな目に。なんでミーがこんな目に」


 にゃーくんが繰り返す。

 あまりゲームに興味のないにゃーくんが一番先に壊れたのである。


「るっせーバーカバーカ!!!」


 クトゥグアが怒鳴った。


 そして白い光が見えた。

 入り口まで戻ってきていたのだ。

 外に出ると吹雪が見えた。


 そして話は冒頭に戻る。



 クトゥグアが全てを燃やそうとポーズをとった。


「クトゥグアファイアー!!!」


 そこまで叫んだが何者かの声が聞こえ中止する。


「クトゥグアさんやめてなのです!!!」


 それはマクスウェルの声だった。


「まーくん! なんでね!!! 焼き尽くすのね!」


 にゃーくんが聞く。


「あの人たちはこう言っているのです! 『もうメガド○イブは飽きた……○ターンを……サ○ーンをくれえええええええッ!』って」


「何千年同じハードで遊んでるのね!!!」


 凄まじい執念である。


「今から転移魔法でハードとゲームを送るのです!」


 そう言うとマクスウェルは呪文を唱えた。

 彼らの前に現れた物体。

 それは……ハードと……


 デ○様。


 究極のクソゲーがそこに現れたのだ。


「っちょ! まーくんこれは」


 ゲーマーの赤龍が全力でツッコミを入れる。

 クソゲーではだめに違いないのだ。


「大丈夫なのです! 古代ゲーマーは理不尽な難易度が好物なのです!!!」


「わかったのね!!!」


 にゃーくんがゲーム機とソフトを投げる。

 もちろん光線銃型コントラー付きだ。

 スライム状の体のショゴスはそれをダイビングキャッチ。

 すると


「テケリ・リ、テケリ・リ」


 と奇妙な声で鳴いた。


「『次は格ゲーもお願い』だそうです」


「もう二度と来ねえよ!!!」


 にゃーくんの声が響いた。

 こうして三人の冒険は終わったのである。


 群馬の秘境『狂気山脈』。

 そこに行くとサ○ーンで仲良く遊ぶショゴスが見られるという。

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