クトゥグア探検隊
クトゥグア探検シリーズとは、世界に存在する秘境を探検し驚異の謎を解き明かす冒険野郎の記録である。
さいたまワッラービで農業を営むクリスチャンさん(54歳)は語る。
「そうあの丘の向こう。何か光る物体が群れを成して飛んでいたんだ!」
空飛ぶ円盤UFO、全ては宇宙人と通じたショッピングセンターの陰謀だった!
GOGO! クトゥグア探検隊!
宇宙人の残した遺跡の謎を解き明かせ!
人外魔境カワグッチーに着いた我々を待ち受けていたのはコンクリートの魔境だった!
「人聞きの悪いことを言うな!」
「ぎゃんッ!」
サラの蹴りがクトゥグアに炸裂する。
邪神であろうとも容赦はしない。
サラこそこのショッピングセンターでの法律なのだ。
もちろん邪神たちは攻撃を食らった程度では仕込んだネタをやめない。
「探検隊にはキャラの強い隊長が必要! なので、エレノアパパに来てもらいました!」
シャキーンとにゃーくんがポーズを取る。
「え? ちょっと待て。隊長オレだから……」
「隊長のエレノアパパです!」
クトゥグアを完全に無視してにゃーくんが力強く発表する。
ぱちぱちぱちぱち。
よくわからずにマクスウェルが拍手をした。
「いやちょっと隊長オレ……」
「キャーッ! エレノアパパがんばってー! 火龍探検隊がんばってー!!!」
クトゥグアをあくまで無視してにゃーくんが叫ぶ。
嫌がらせのためなら死ねる。
それがにゃーくんなのだ。
「えー。エレノアのパパです。朝起きてビール飲んで二度寝しようと思ったら、いつの間にかここにいました」
どうやら無理矢理召喚したらしい。
血圧が通常値に戻っていないせいか声が低い。
寝起きで機嫌も悪そうである。
そんなエレノアパパににじり寄ったにゃーくんが何かを差し出した。
それを見た瞬間、武神とまで言われた火龍の目がくわっと開いた。
「ま、まさか……これはまさか古代埼玉時代に存在した演歌界の大御所の……」
「ブラックメタル時代の自主制作CDでござります」
そこには顔を白と黒に塗るコープスペイントと呼ばれる独特のメイクをし、たいまつ片手に火を噴く男の写真が写っていた。
この男は数年後にパンチパーマでキラキラスーツに身を包むことになるのだ。
「っく! ドラゴンミュージックユニオンでの超絶プレミアCDだと!!!」
「くっくっくっく。ショッピングセンター内で売ってたのを買っておいたのね!」
「ガハハハハハハ! よし! 探検でもなんでもしようじゃないか!」
大人のドラゴン、そのほとんどには病的な収集癖がある。
あるものは宝石。
あるものは武具。
またあるものは書物という具合である。
ドラゴンの本能が趣味の品を集めろと命令するのである。
そしてエレノアパパのフェイバリットアイテムはCDなのである。
寿命の長いドラゴンがため込むため、最終的にはどんなくだらないコレクションでもプレミアがつき、財宝と言えるまでの価値が発生してしまう。
そう。ドラゴンのコレクションには人間が命をかけて討伐するだけの財産価値があるのだ。
この収集癖のせいでドラゴンはその総数を減らすことになっているのだ。
病的な収集癖、つまり欲につけこむのはにゃーくんの得意技である。
こうして、お代官様と越後屋の利害が一致しアトランティス探検隊が結成されたのである。
◇
まずは魔道書が必要である。
探検隊の冒険は栃木語版のナコト写本を用意することから始まった。
栃木語版のナコト写本のレシピ
豚ひき肉
ニラ
キャベツ
皮
おろしにんにく
しょうが
しょうゆ
酒
ごま油
調味料と豚ひき肉とニラとキャベツをフードプロセッサーで細かくしながら混ぜる。
隠し味に市販のラーメンのスープ(原液)を入れ軽く混ぜ、できたものを少し冷蔵庫で寝かせる。
最後に皮に包んで焼く。
「ぎょうざだよね?」
「違いますよー。ナコト写本ですよー」
そう言いながらマクスウェルは器用にぎょうざを作っていく。
カツオやエレノア、にゃーくんなどのその場にいた全員でぎょうざの皮にタネを包む。
不器用なエレノアパパにはビールを渡して大人しくしてもらう。
全員で黙々とぎょうざを作っていく。
30分ほどで、ぎょうざの山ができた。
エレノアとカツオの作ったものはやたら見た目が汚く、サラや無駄に器用なにゃーくんは市販品のような完成度である。
そしてマクスウェルが言った。
「焼くのです!」
マクスウェルがごく普通にぎょうざを焼く。
相変わらずいい匂いがしたと思った瞬間、ぎょうざは魔道書へと姿を変えた。
「えっと……やっぱ見えない」
カツオがもう一度と言うのもお約束である。
「カツオ……世の中には追求しない方が幸せなことがあるのね。コチニールの原料とか」
にゃーくんが生暖かいアドバイスをした。
そう。
もうなんでぎょうざの材料で魔道書ができるんだとかツッコんでもしかたがないのだ。
「はい。ナコト写本です」
マクスウェルがクトゥグアに本を差し出した。
クトゥグアは本を受け取る。
口をあんぐり開けながら。
「……え? この子が魔道士?」
「いんや。まーくんは龍王ね」
クトゥグアが口を開けたまま固まる。
「え?」
「だから龍王ね。アザトースと同じ力を持っている子ね」
クトゥグアが横目でマクスウェルを見た。
本を渡したマクスウェルは余ったぎょうざを焼いていた。
クトゥグアはにゃーくんの首に腕を回し小声で話しかけた。
「ちょっと待て! アザトースの命令は遠くから見守ることじゃなかったのか」
「ふんッ! あんなプロレスニュースにしか興味のないアホなんか知らないのね!!!」
にゃーくんはアザトースにリストラされたせいか、言うことを聞く気はない。
全て命令の逆をやってやる。
リストラの恨みは恐ろしいのである。
その後、全員で楽しくぎょうざを食べたのである。
きょうはぎょうざをつくりました。
おいしかったです。
あと、おそとにはでないのです。
『マクスウェルの日記』
◇
尻尾から降ってくる蛇。
撮影の関係で船から荒川に飛び込むクルー。
お約束のピラニア。
隊員に襲いかかる蛇は全然動かない。
ぺろぺろアタック&オヤツちょうだいアタックでクルーを襲う荒川土手を散歩中のわんこたち。
「隊長! 来てください!」
「ぬう! なんだにゃーくん!」
そこには地元のヤンキーが書いたと思われる落書きが。
「埼玉原人のしわざね……」
「な、なにい!」
そこに荒川土手から不自然な落石が。
「うわあああああッ!」
オーバーアクションで落石(発泡スチロール製)から逃げるにゃーくん。
「みんな大丈夫か!」
「痛え!」
わざとらしく倒れるにゃーくん。
岩(発泡スチロール製)に押しつぶされて死ぬところだったのだ。
「めでぃーっく! めでぃーっく!」
もちろんノリノリでエレノアパパは演技をする。
もちろんこれだけではない。
川に出れば出たで、
「隊長! ピラニアが!!!」
なぜか手を押さえているのに頭から血を流すにゃーくん。
「全員! ピラニアの口に指を突っ込むな!」
隊長の冷静な判断で難を逃れた。
にゃーくんショーは続くのだ。
「おい。お前ら」
「隊長! 今度は動かないサソリが!!!」
「おーい! お前らー!」
「隊長! 徳川埋蔵金が!」
「いい加減にしろ!!!」
クトゥグアが怒鳴った。
「なんね? こちらは埼玉原人の捕獲で忙しいのね!」
「オイコラ!」
クトゥグアがそう言った瞬間、にゃーくんの背負ったリュック目がけて矢が飛んでくる。
「うわああああああああッ! 埼玉原人の攻撃だあああああッ!」
「逃げろオオオオオッ!」
それを合図にクトゥグアを置いて一目散に逃げる二人。
「っちょ! おま!」
そう。
今までの茶番はこのための布石だったのだ。
探索になどつきあってられない。
バカは適当にまくに限るのだ。
ぶぁーか!!!
にゃーくんはほくそ笑んだ。
◇
「きゅっ? あれー?」
マクスウェルが首をひねった。
ネットの新着情報。
それもショッピングセンター内のグループウェアの新着情報である。
狂気の山脈はじめました。
はてなんのことでしょうか?
マクスウェルはもう一度首をひねった。




