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そーらーれい

 龍王の間にはみかん箱に入って居眠りをしていたマクスウェル。

 カツオにエレノア、にゃーくんに店長、サラもいた。

 そこにクレアが飛び込んできた。


「たいへんです! 免罪符が暴落しました!」


 マクスウェルはきゅっと首を傾げた。


「んー。たぶん大丈夫なのです」


 この発現に慌てたのはクレアである。


「い、いやマズイでしょ! まだ売れ残ってるじゃないですか!」


 ところがマクスウェルは平然としている。

 慌てているのはクレアだけなのだ。


「ちょっと! なんでみんな平気なんですか!」


「んー。もともと余りすぎていたお金なのです」


「そうだな。どう使っていいかわからなかったし」


 サラまでどうでもいいとばかりの態度だった。


 ぶ、文化が違う……


 クレアは焦った。

 確かに元の金額から見れば黒字ではある。

 だが少し前は二倍以上の金額だったのだ。

 売り逃げができなかったのが残念でならないのだ。


「はーいクレアちゃん。これが人間の感覚なのねー」


 にゃーくんがニコニコしながら言った。


「い、いや邪神様……いくらなんでも誰でも悔しいでしょうよ」


「そう。悔しいね。だから人間は胴元が逃げたのにまだゲームを続けているのね」


「どうもと?」


 にゃーくんの意図はわかっていないのだろうか、マクスウェルが素直に聞いた。


「まーくん。免罪符の値段を決めているのは誰?」


「うーん……そうか! 『ぼく』です」


「そう。まーくんね。だって本当に免罪符をほしがってるのはまーくん。ショッピングセンターだけだもの」


「まーくんが、いくらでもお金を払うからみんなも免罪符をほしがったのね。でも買うのをやめた」


「だから値段が下がってしまったんじゃないですか!」


「クレアちゃん。それはなぜ?」


「いやだから買う人が少なく……あれ?」


「そうね。つまりこういうことね。クレアちゃんこれはなに?」


 邪神が免罪符をクレアに差し出す。


「……ゴミ?」


 ついに『免罪符』と答えていたクレアまでゴミ扱いをした。


「はい正解。そもそも中古の免罪符に値段なんてないのね。ウチが買わなければ」


「えっとつまり……」


「簡単ね。免罪符はゴミに。価値はゼロになったのね。借金してまで免罪符買ったアホどもはこれから地獄を見るのね」


「えっとつまり……?」


「うん。ワラービの代官やらさいたまの貴族やらの財産がどこかに消えたのねー。それもどこかに移ったのではなく消え去ったのねー。バブル終了させたワラービの代官はオワタね。複数の意味で。まあウチに入ったんだけど。儲かったのはミーの信者の取り次ぎ屋さんと運のいい子だけねー。あ、大丈夫よ。取り次ぎ屋さんは夜逃げ完了したのね」


 クレアの顔が青ざめる。


「っちょ! ちょっと! それはまずいんじゃないですか! 人間が攻めてきますよ!」


 にゃーくんはあくまで余裕である。


「だいじょうぶよー。それをさせないためにアダチの騎馬民族にピンポイント爆撃したのねー。来るなら来いやゴラァーね。利益もないのに攻めてくるんですか? あなたも痛い目に遭いますよーって感じね。それにねアダチの騎馬民族の蜂起。そのスポンサーは大さいたま帝国よ」


「え?」


「うーんとねー。東京とここの二つを同時に倒したかったみたいねー。でも組合でもうちは力を持っているから東京にやらせちゃえー……みたいな感じね」


「ちょっと! じゃあ余計にマズイじゃないですか!」


「んー大丈夫ねー。火龍の集団、いたいけな邪神、それに勇者を用意できる勢力に喧嘩売るバカはいないのね。お金の方も貴族のケツの毛までむしったしーなのね」


 勇者であるクレアがばつの悪そうな顔をした。

 もちろんにゃーくんは全てを知っている。

 武力と金の力の両方で相手を葬る。

 まさに邪神である。


「それにねー奥の手があるのねー」


「奥の手……なんだかヤバそうだな」


「うん。ヤバいよ。ねえねえ、まーくん」


「はいです」


「人工衛星作らない? 太陽光ビーム撃てるヤツ」


「そ、そーらーれい……」


 マクスウェルの目が輝いた。

 男の子の憧れのビーム兵器。

 今までサラにダメと言われていた本気のもの作り。

 とうとうそれに許可が出るのだ。

 マクスウェルはブルッと震えた。


 そわそわそわそわ。

 ぴこぴこぴこぴこ。


 耳がピコピコと動きながら尻尾が揺れる。


「作りたい?」


「はいなのです!!!」


「んじゃ……凄いの作れる?」


「作れます! はやく! はやく!はやく! はやく!はやく! はやく!はやく! はやく!」


 にやり。


「我が愛しの龍王よ!!! エレベーターでロボット工場へ行くのね!」


「うにゃあああああああああああ!」


 なぜか二足歩行でピコピコと走って行く。

 四足歩行を完全に忘れてるようだ。


「あ、待って! 俺も行く」


「マクスウェル様! 私も行きますわ!!!」


 カツオにエレノア、子どもたちがマクスウェルについていく。

 子どもたちが出て行くと、にゃーくんがニヤリと笑い話を続けた。


「さあて。子どももいなくなったしこれからは大人の時間ねー」


「うっわ! まだ酷い話があるんですか!」


「たいしたことないよー。実はね。丸儲けのはずのお坊さんもこの儲け話に乗って手を出しちゃいけないお金まで使っちゃったのねー」


「いやどう考えてもわざとだろ……」


「ちょっとだけそそのかしたのねー。そしたらまあ欲望むき出しにしちゃって!」


 全てを破滅へ導く。

 それが邪神スタイル!

 ゴーゴー邪神!

 ぺんぺん草すら生えなくなるまで。


「んでねーここからが重要なのね。儲け分をお寺の損の補填に使うのねー」


「っちょ! ほぼゼロどころかマイナスですって! いいんですか?」


 クレアが怒鳴るが、サラはどうでも良さそうに言った。


「いいんじゃない? どうせアンタの事だからなんか考えてるんでしょ?」


「そうねー。うふふふふ」


 地獄に落としてから恩着せがましく救ってやる。

 もちろんショッピングセンターの名前は出さない。

 ある日突然打ち明けて脅しの道具に使う。

 気づいた時には自分の子分。

 それが邪神スタイルなのだ。


「ではー遊びに行ってくるねー」


 邪神は鼻歌を歌いスキップしながらお出かけする。

 何人のSAN値がゼロになるのだろうか。

 それは邪神にもわからない。

 適当に近づいて、罠にはめて、はしごを外す。

 るんたったーるんたったー。

 最高に面白くなるぞ。

 邪神は思った。


 ……もちろんこれから邪神は酷い目に遭うのだが。



「うおおおおお! まーくんすげえ!」


 カツオの声が響いた。

 ロボット工場ではマクスウェルがすでに太陽炉を制作して実験を開始したところだった。

 コランダムをああしてこうして……さらに太陽光線を使って2050度もの高熱で焼く。


「こうして人工ルビーができるのです。結晶の形はいびつですけど。これが成功すれば、この経験を元に装置を大型化して……」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ。

 マクスウェルの黒目が大きくなった。

 いままでサラに抑圧されていた創作意欲。

 それが一気に吹き出したのである。

 様子のおかしいマクスウェルの姿を見てカツオが汗をたらりと落とした。


「カツオちゃん!」


「ひゃい!」


 こ、怖い。

 カツオは膝がガクガクと震えた。


「『コロニー落とし萌え♪』ってネットに書いてありました……」


 あかん。

 カツオは思った。

 目が本気だ。

 今のマクスウェルなら蚊を駆除するのに世界崩壊クラスの兵器を使いかねない。

 誰かがマクスウェルを止めなければ!

 カツオはエレノアの方を見た。


 そうだ!

 この暴走少女を使えば止められるかもしれない!

 ところが次の瞬間それは打ち砕かれる。


「エレノアお姉ちゃん」


「はいですの」


「プレゼントです」


 作り終わり冷却が終わったルビーを差し出す。


「ぎゃおおおおおおおおおおッ!」


 鼻血を出しながらエレノアが倒れた。

 プレゼントがうれしかったらしい。

 役立たずがリタイヤし、カツオは窮地に立たされたのだった。

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