ロボ2号
龍王の間。
マクスウェルがニコニコとしている。
手には組み立て途中のロボットのプラモデル。
マクスウェルが幸せそうにプラモデルを組み立てているとエレノアが言った。
「マクスウェル様。それゴーレムですか?」
マクスウェルがびくりと動いた。
そして目を丸くしながらブツブツとつぶやく。
そしてエレノアに言った
「……その発想はなかったです」
「あ、あの……マクスウェル様?」
そのままブツブツとマクスウェルはつぶやき続けると、突如ノートを出して何かを書き始める。
「えっと……ここをあの方程式使って……」
しばらくすると魔導端末を取り出し、怒濤の勢いで何かを入力し始める。
「マクスウェル様……これは何をなされてるのですか?」
「エディタです。今、数式翻訳のプログラムを組むのです」
ここまで来てエレノアは自分がマクスウェルの押してはならないスイッチを押してしまったことに気づいた。
このダンジョンで一番安全な生き物もやはりドラゴンだったのだ。
「ぬおおお!」
「な、なんですか? マクスウェル様?」
「僕……制御系のプログラム苦手なのです……」
エレノアは胸をなで下ろした。
マクスウェルの言っている事は何一つ理解できないが、暴走しなくてよかった。
実はエレノアやサラは海で遊んだ後ににゃーくんに説明を受けていた。
マクスウェルの能力は創造神に匹敵。
扱いを間違えると軽く世界を滅ぼせる。
発明品だけで埼玉軽く滅亡。
本人は悪意もなく安全な生き物だが、欲まみれの人間に渡したらこの世界終了のお知らせ。
とにかく暴走をさせないようにと言われているのだ。
安心したエレノアにマクスウェルのつぶやきが聞こえた。
「こういうときはネットで詳しいドラゴンさんに呼びかけて……」
この世界マジでピンチ!
エレノアは焦った。
◇
「で? お前は何が目的だ?」
サラが尋問をしていた。
もちろん相手は邪神のにゃーくんである。
今回は暴力は一切用いない。
本音を聞き出したいからだ。
「だからー、まーくんの監視ネ」
「ああ。だからこそ問題だ。お前は人間と魔族どちらの味方だ?」
直球でサラが聞いた。
こういう訳のわからない性格のやつには直球で勝負した方がいい。
「んー。人間かな?」
にゃーくんが頬杖をついた。
その態度にサラは少しだけイラッとしたものの我慢して飲み込むことにした。
わざとらしい態度の裏に何かがあるに違いないと思ったのだ。
「なぜ人間に荷担する?」
「荷担はしない」
にゃーくんはニヤニヤと笑っていた。
サラは奥歯をかみしめる。
「俺がアザトースから与えられた任務は守ることだ」
ようやく邪神がじらすのをやめた。
まさかマクスウェルを守るとでも言うのだろうか?
「人間を歴代最強の龍王から守るのが仕事だ」
邪神は底意地の悪い顔をした。
◇
マクスウェルの「宵越しの金は持たない」戦術により極端に金回りのよくなったこの地域。
今やその経済力は他を圧倒。
臨時で独自通貨を発行するまでになっていた。
それと同時に斥候や勇者が行方不明になったという知らせが舞い込んだ。
帝国の首脳陣は未だ姿を見せぬ恐ろしい敵を恐れた。
経済による征服。
まだこの時、歴史を軽視する彼らにはこの概念を知らなかったのである。
もはやあのダンジョンを滅ぼすしかない。
あるものはそう主張し、あるものは街までも含めて焼き払うべきだと主張した。
だが……
「いやあ、あの下着。素晴らしい品質ですな!」
「ほっほっほ。この靴のできも素晴らしい」
「最近では街で腕時計などという道具まで発売されてますな」
すでに行商により、王都の住民の身の回りの品はがっちりショッピングセンター製に置き換わっていたのである。
◇
グリフォンに乗った集団がショッピングセンターに降り立った。
彼らは大さいたま帝国の特殊部隊だった。
彼らに与えられた命令。
それはダンジョンの攻略。
彼らは並々ならぬ使命感を持ってダンジョンに挑もうとしていた。
ショッピングセンターの裏口。
そこから彼らは侵入しようとしていた。
未確認情報ではあるが相手はスケルトンを中心とした部隊との事である。
聖属性で攻撃をすればリスクを最小限にできる相手だ。
そういう意味では楽な相手である。
少人数で建物内を制圧。
ボスを討ち速やかに逃亡。
そう頭の中で確認した隊長に声がかけられた。
「隊長! 何かが出てきます!」
慌てて隊長が入り口を確認する。
スケルトンによって何かが搬出されている。
そこから出てきたのは巨大な鎧。
胴体部分には
『スーパーウルトラデリシャスロボ2号』
と書かれている。
「な、なんだあれは?」
「さ、さあ?」
慌てる隊員たち。
するといきなり鎧の目が光った。
「ええええええ!」
隊長が声を上げる。
次の瞬間、鎧の姿が消えた。
「な、どこに行った!!!」
次の瞬間、むやみやたらと勇ましい曲が流れる。
「(ちゃらりら~)良い子の諸君!(ちゃらり~)俺が正義の味方スーパーウルトラデリシャスロボ2号だ! え? 1号はどうしたって? 撮影中のバイク事故で全治半年の怪我を……じゃなくてブラジルで悪を倒している最中だ!!!(ちゃーちゃーちゃっちゃっちゃ!)」
鎧はなぜか道の脇に立てられた柱(電柱)の上で腕を組んでいる。
「とおッ!」
鎧が飛び降りる。
そして華麗な着地からのポージング。
なぜか地面が爆発する。
煙がなぜか七色だ。
「全力正義!(ちゅどーん)」
意味がわからない。
「解説しよう。スーパーウルトラデリシャスロボ2号は理論を説明できない謎パワーによって空間をねじ曲げることができるのだ!」
「解説になってねえ!!!」
思わず隊員がツッコミを入れた。
鎧はその言葉をかわすかのようにいきなり前転。
「うちうけいじ!(ガッツポーズ)」
意味がわからない。
もしかしてこれは魔族の罠なのだろうか?
「ところで今日の特売はきゅうり35クレジット」
「……はい?」
「肉厚しいたけ98クレジット!!!」
「っへ?」
「買え!」
「……意味がわからん」
そう答えると鎧の目が光った。
「デラックスビーム!!!」
そして目から光線が発射される。
だが兵士たちもさるもの。
いきなりの攻撃を避ける。
「いきなり攻撃か!!! この魔族の手先が!!!」
「貴様ら万引き犯だな!!!」
なぜか鎧が怒り出した。
「知ってるぞ! スケルトン24時でやってたぞ!!!」
「なんの話だ!!!」
「喰らえロケットパーンチ!!!」
拳が飛んでくる。
「ぬう! 気をつけろ! こいつはバカだが強いぞ!!!」
熱いボス戦が始まったのだ。
◇
「『AIの作り込みが甘かったゴメソ』と謝罪メールが来ました……」
マクスウェルが頭を抱えている。
エレノアはニコニコとしながら慰めている。
「だいじょうぶですわ! マクスウェル様ならこの失敗をバネにもっと凄いものを作れますわ!」
よくわからないが失敗した方がいいだろう。
エレノアは思った。
「やはりテーマソングをならしながら解説AIがまずかったのでしょうか……」
完全に落ち込むマクスウェルをさらなる悲劇が襲う。
「くおらぁ! マクスウェル! ロボットが暴れてたってみんな言ってるぞ!!!」
「みぎゃあああああああッ!」
激怒するサラが現れたのだ。
◇
「な? ミーの言ったとおりでしょ。マクスウェルには遊びでも人間はこの様ねー」
にゃーくんが呆れたような声でそう言った。
先ほどの部隊は全滅していた。
ただし怪我はしていない。
ロボットと全力で闘ったせいで体力や魔力の限界を迎え動けなくなってしまったのだ。
「言っておくけど、この人たち一人一人がクレアちゃんクラスよ-。人間では最強クラスよ。さてこの件を帝国はどう思うか? わかるね?」
「ああ。わかっている」
サラは拳を強く握った。
◇
その後、鎧は小型化に成功。
AIもスケルトンの人工魂に変更。
外観も万人受けするカワイイぬいぐるみに変更されたのだ。
「あい。きょうのとくばいはネギ88クレジットれす♪」
舌っ足らずのくま。
人の半分ほどの背のくまがそう言った。
彼らは新しい警備&案内ロボット。
スーパーウルトラデリシャスロボ2号の失敗を元に製造されたものだ。
人気は上々。
量産も計画されている。
「またのご利用をおまちしてます」
ぺこりとくまがショッピングセンターを出て行く子ども連れに頭を下げた。




