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うちう

 蓑虫のようにロープでグルグル巻きにされ逆さに吊られたニャーくんがもぞもぞと動いていた。

 なんども動くと声を出して抗議した。

 どうやら猿ぐつわが外れたようだ。


「み、ミーを殺す気か!!!」


 シュッという音とともに大きな物体が回転しながら飛んでいく。


「ふんがー!!!」


 ニャーくんは身をひねりそれをかわす。

 そしてその物体は後ろの壁に突き刺さる。

 それは大きな斧。

 いわゆる戦斧である。


「邪神の他愛無いイタズラにこの仕打ち!!! サラちゃんもう遊んであげないんだからね!!!」


 逆ギレした小学生のように訳のわからないことを口走る邪神。


「るせー!!!」


 サラはその場にあったコップを投げつける。

 またもやニャーくんはそれを器用に避ける。


「サラちゃんのことなんて全然好きじゃないんだからね!!!」


 わけのわからないツンデレ。


「店長! 熱湯ください!!!」


「専務! さすがにそれは!!!」


「うがあああああッ! うちの子返せぇッ!!!」


 サラが子どもを取られた雌のガルーダのようになる。

 サラが怒るのも仕方がない。

 なぜならロボット工場は不思議な力で封印されていて助けに行けないのだ。

 もちろんこの不思議な力の原因はニャーくんである。


「バットしかし、これは試練なのです! 邪神からのささやかなプレゼントフォーユー!!!」


「店長。やっぱり熱湯」


 雌ゴリラは邪神にも容赦がないのだ。


「ッちょっと! ちょっと待つのね!!! この試練を乗り越えれば、まーくんのHIKIKOMORIも治るのデース!!!」


「ほう……もし治らなかったら?」


 極寒の冷気。

 サラはボキボキと指を鳴らす。

 そんなサラを見て冷や汗を流しながらニャーくんは言った。


「大変遺憾であり、注意深く見守……」


「店長。熱湯!!!」


「ノオオオオオッ! 邪神いじめると三代祟るのねえええええッ!!!」


 そう言いながらもなぜか嬉しそうなニャーくんであった。



 一方こちらのニャーくんも碌な事をしてなかった。

 ニャーくんは、うにゃりと笑いながらマクスウェルにとんでもないことを吹き込む。


「HAHAHAHA!!! まーくん! 今こそロボットに乗るのでーす! 怖ーい怖ーいお姉ちゃんが、ホラ! 後ろから追いかけてくるのでーす!」


「みゃあああああああああッ!」


 転びながら必死に逃げるマクスウェル。


「な、なんてことをするんですの?」


「ちっちっち。火龍のお嬢ちゃん。ミーは面白ければエブリバディオーケーなのよ」


 まさに外道!

 ニャーくんは心の底から楽しそうである。

 そうこうするうちにマクスウェルはロボットの元へ辿り着いていた。


「まーくん! ロボに乗るには『働いたら負けかなと思ってる』ってシャウトね!!!」


「みゃー! 了解です! 『働いたら負けかなと思ってる!!!』なのです」


 マクスウェルがそう叫ぶと体が光に変化しロボットへ吸い込まれていく。


「ふふふ。友情正義ロボット勝利!!!」


 ニャーくんがにやりと笑う。


「下僕!!! なんなのこの不審者は!!!」


「ダンジョンに不法滞在してる邪神です」


 カツオがばっさり斬り捨てる。


「ノー!!! ミーはこのダンジョンのガーディアンなゴッドよ!!! ミーの邪神のイメージはメディアに作られたねつ造アルヨ!!! ホントは子どもと遊ぶのが好きなだけの無邪気な神様よ!!!」


 嘘がはじける。


「つまり面倒くさい生き物って事ね?」


 カツオは『そうだ』と言わんばかりにぶもーッっと唸る。


「酷い!!! 子どもまでミーを虐める!!! うああああああんッ! いいもん! いいもん! ロボの保護膜解放と基地の隔壁解放!!!」


「はい?」


 マクスウェルの乗ったデラックスロボがプシューッという音を上げ、外側を覆っていた保護パーツが落ちていく。

 そしてその直後に工場に警報が響く。


「隔壁解放! 隔壁解放! デラックスロボ宇宙空間に発進します」


 ガシャリという音がしてデラックスロボの足が固定される。

 カツオはこれ知ってると思った。

 カタパルトだ!


 そうカツオが思った瞬間、カタパルトが高速で発進する。


「みゃあああああああ!!!」


 あっという間にデラックスロボが射出される。


「っちょ! ちょっと待って! 外は宇宙空間ですの!」


「そうだヨー。まーくんってさ人を傷つけるとかの争いごとが徹底的に嫌いじゃない? そのせいか使える魔法が偏っててさー。特に空間魔法は創造神(アザトース)レベルなんだよNEー! 宇宙まで作っちゃうくらい?」


 人ごとのようにニャーくんがそう言った。


「ミーもこのダンジョンってレン高原みたいで超居心地いいのねー。死んでも出て行かないのねー」


「下僕! ダメな大人なんかに構ってられません!!! 私はマクスウェル様を追いますわ!」


「え? どうやって」


「お父様は言ってましたわ。宇宙空間は気合いさえあれば何とかなるって!!!」


 そう言うとエレノアは背中の翼を広げる。

 なんという脳筋。

 その刹那、エレノアは炎に全身を包まれる。

 そしてその炎から出てきたのは人型の少女ではなく、赤いドラゴンであった。


「ぎゃおおおおおおッ!(今お救いしますわ!)」


 この際、エレノア自身から逃走したという事実は一切無視する。

 そしてドラゴンは少しだけ助走をつけると一気に飛び出した。


 宇宙空間。

 何もない漆黒の闇。

 狭いコックピッド。

 そこでマクスウェルはなぜか妙な安心感を得ていた。

 ここまでは怖いお姉ちゃんが追いかけてこない。

 それだけで充分だったのだ。


 だがそれも長くは続かなかった。

 警報が操縦席に響いたのだ。


「警報! 警報! 巨大な熱量を持つ物体が急接近してます!」


 警報と共にバーチャルスクリーンにレーダーと後部カメラの映像が表示される。

 それを見たマクスウェルは固まった。

 炎に包まれた巨大なドラゴンが超高速で後を追いかけて来ていたのだ。


「みゃああああああああああッ!!!」


 マクスウェルは必死になって逃げる。

 目がハートマークになった巨大怪獣から。


「んぎゃあああああああああああッ!!!(ああん。待ってー!!!)」


「びみゃああああああああああッ!」


 そして数時間後。



「社長……お部屋から出なくなりました」


 店長がため息をついた。


「そんな……そんなつもりじゃありませんのよおおおおおッ!」


 サラに尻を叩かれたエレノアが寝転がりながら言い訳をする。


「じゃかしい! このバカドラゴン!!! マクスウェルはようやく森までは遊びに行けるようになったんだぞ!!! それを全部ふいにしやがって!!!」


「うううううううう。私悪くないのにー」


「お前が原因じゃボケ!!!」


 サラが怒鳴る。

 それを見て、クレアが首を捻る。


「うーん。サラちゃん。私に考えがあるんだけどいいかな」



 クレアがマクスウェルの部屋の扉を叩く。


「まーくん。ちょっといい?」


「……ダメなのです」


 沈んだ声が帰ってきた。


「引きこもるんでも暇つぶしが必要でしょ? プラモあるよー」


「プラモ!!!」


 食らいついた。


「あとねえ。怖いお姉ちゃんがごめんなさいしたいってー」


「ひいいッ!」


「え? なんで私がへぶッ」


 サラがアイアンクローをかける。

 無言かつ問答無用で。


「あ、謝りますから。これ外して……骨がミシミシって……うごごごご」


 サラがエレノアを解放するとエレノアはよたよたと扉の前へ行く。

 すでにサラの体術は並のドラゴンなら余裕で葬れるほどの威力になっていた。


「ごめんなさい。恥ずかしくてつい叩いてしまって」


 このさい撲殺寸前だったことは脇に置く。

 子どもの曖昧な記憶力に全てをゆだねる作戦である。

 すると龍王の間の扉が開き、マクスウェルが顔を出した。


「……もう叩かない?」


 マクスウェルは上目遣いでエレノアを見上げる。


「も、もちろんですわ! 約束ですわ!!!」


 エレノアは興奮しすぎて鼻血が出そうになるがグッとこらえる。


「うん。わかった!」


 マクスウェルはにこっと笑った。


「はい。まーくんプラモ」


 サラがプラモを手渡す。


「わーい♪」


 こうしてサラたちは『まだ騙せる』というどす黒い思いを表に出さず、心の中だけで安堵したのだ。


 そして……

 ロボット工場。


「おーい! ミーのこと忘れてね? おーい!!! 逆さづりは辛いんですけどー。つうか、なんで空間転移無効になってるの? ねえマジでー! おーい!!!」


「もう一人のミーよ。ミーも逆さづりでーす!!! ミーも逃げられません。 神様にこの扱いは酷いんじゃないのかなあ? ねえ! どうしてこうなった?」


 邪神が逆さづりにされて放置されている。

 なぜか空間転移は出来ず、逃げられないでいる。

 彼らはパラメーターは全てマイナス効果がかかり、魔法は無効、今だったらスライムにも指先一つで倒される程度の存在になっていたのだ。

 マクスウェルで遊びすぎたせいか、ダンジョン全体が牙をむいたのである。


「ぼうやだからさ」


 そうつぶやきながらロボットがカツラを外しながらいつものバーボンをロックで口に運んだ。

 約一名の二つの同時存在はきっちりお仕置きされ、悪は滅びたのである。

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