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ショッピングセンター出現

「うおおおおおッ! これがデラックスロボ!!!」


 マクスウェルが目を輝かせた。

 そこは格納庫。

 もはやカツオや火龍のことなど完全に忘れて、デラックスロボを見学に来ていたのだ。


「そ、操縦は? 操縦は?」


 そわそわぴょこぴょこと跳ねる。


「子どもでも操縦できるように脳派コントロールだぜ」


 コ○ラ型ロボットが渋い声で答えた。

 さらに大きくぴょこぴょことマクスウェルが跳ねる。


「ど、ドリルは? ドリルは!?」


「もちろんあるぜ」


「ぬおおおおおおッ! た、端末!!! カメラに取ってあとCADで図面書かないと!!!」


 そう言うとマクスウェルは前足を上に挙げた。

 光を放つ魔方陣が現れ、その光が装置を形作る。

 それはタブレットだった。

 背面カメラ付き、知恵の泉(インターネット)対応、マクスウェルはこれ一つでネット閲覧から製図までこなすのである。


 カメラを操作し激しく撮影をするマクスウェル。

 おもちゃ売り場のプラモやフィギュア。

 実はほとんどがマクスウェルの図面によるものである。

 マクスウェルは激しくもの作りが大好きなのである。


「うおおおおおッ! さすが生の迫力は違います!!!」


 カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ。

 カメラモードにしたタブレットの撮影ボタンを連打するマクスウェル。

 のめり込むマクスウェルに声がかけられた。


「乗らなくていいのか?」


「の……の、の、の……乗ってよかですか?」


 マクスウェルが小刻みに震える。

 ちなみにマクスウェルはぬいぐるみのような外貌のため女の子に間違われることも多い。


「もちろんだ。男に生まれたからには一度はドリル付き巨大ロボットを操縦してみたいだろ?」


「ど、ドリル……ドリル!!!」


 ドリルは『すっごいドリーム』なのである。


「乗ります!!! 乗るのです!!!」


 その時だった。


「ドリル! それは聞き捨てなりませんわね!!!」


 少女の声が聞こえた。

 次いで、「ぶもおおおッ」という泣き声も聞こえた。

 マクスウェルが声がした方を見ると親指を立てたカツオ。

 その横で仁王立ちをする火龍の少女がいた。

 マクスウェルは首を傾げる。

 なんだろう?

 知っているような気がする。


「お姉ちゃん誰ですか?」


 それを聞いた少女が鼻血を吹き出した。


「お姉ちゃん……イイッ!」


 小さく自身の前で拳をグッと握る。

 そして鼻血をそのまま流しながら言った。


「お久しぶりです白龍様。赤龍『サマエル』が長女エレノアでございます」


「赤龍おじさんの……お久しぶり?」


「ええ。お外で一度」


 その時、マクスウェルを頭痛が襲った。

 この少女を知っている。

 なぜか知っている。


「一度しか会ってないのに婚約者なの?」


 カツオの問いにエレノアが鼻高々に答える。


「ええ。うちのお父様と先代龍王様はバンド仲間ですの!」


「バンド?」


「メロディック・ハードコア・パンキッシュ・浅草オペラ・ムード歌謡バンド『デスアダー』ですわ!」


 あかん。

 なぜか思考が訛りながらカツオは思った。

 全部知らんけど、たぶんそれ混ぜたらアカンやつや。


「セッションをしているときに父が言ったそうですわ。『うちの子とお前の子ども結婚させたら面白くね?』って!」


「軽ッ!!!」


「結局、バンドは『そんなんバロック音楽じゃねえ!』って主張する父との音楽性の違いで解散になったそうですけど、約束だけは生きているそうですわ」


 マクスウェルを見てて思ったが、やっぱドラゴンは変人ばかりや。

 カツオは思った。

 マクスウェルは目を大きくしていた。

 そしてビクッと震えた。


「あうううううあうあ……積み木……積み木ぃぃぃぃぃッ!!!」


 マクスウェルが頭を抱える。


「あ、その節は申し訳ありませんでした。でもマクスウェル様も悪いのですのよ。いきなり顔をぺろんって舐めるなんて」


 積み木殴打事件の真相。

 それは誰もが思っているより単純なことだった。

 婚約者の存在を知ったエレノアはその日、マクスウェルの巣に遊びに来ていた。

 その頃の巣はダンジョンの体を成しておらず、森の中に簡素な木造のログハウスを建てたものだった。

 スケルトンたちも今のように感情豊かではなく、命令だけをこなす普通のアンデッドだった。

 マクスウェルもお外が大好きな子どもだった。

 とは言っても友達もいないため、外に出て巣の目の前にある広場で本を読んだり日光浴をしたりが日課だった。

 サラは商人ギルドから小売商株(開業許可証)を分けて貰うのに忙しい最中だったが、運動が苦手なマクスウェルを心配して、なるべく散歩には付き合っていた。

(小売商株は資金確保とマクスウェルの社会勉強のために小さい商店を予定していたものである)

 

 だが、その日はマクスウェルの散歩に付き合っている最中に開業許可証が届いたためその応対に追われて目を離してしまったのだ。


 そして事件は起こった。

 マクスウェルが外で一人寂しく積み木をしていると少女の声がした。


「あなたがマクスウェル様?」


 エレノアが一人で遊んでいたマクスウェルを見つけたのだ。


「どなたですか?」


 今より一回り小さいマクスウェルがきゅっと小首を傾げた。


「赤龍の長女エレノアでございます」


「赤龍おじさん!!!」


 幼いマクスウェルも赤龍の名前は知っていた。

 ネットでメッセージのやりとりもしたことがある相手なのだ。

 マクスウェルは何もない空間から魔法を使いタブレットを取り出す。


「えっとフレンド登録するのです!」


「私、情報系の魔法苦手ですの。どうにも操作が覚えられなくて……」


「……そうですか」


 少し残念そうにマクスウェルが言った。

 子どもの竜に会うのは初めてのマクスウェルは、ぜひチャットやメッセージのやりとりをしたいと思っていたのだ。


「それよりせっかくですから遊びません?」


「はいなのです!!!」


 遊んでくれる。

 マクスウェルはとても嬉しくなった。

 ぴょこぴょこと跳ねまわる。

 そして同時にサラに言われたことを思い出した。


『人間の姿をしているものには人間の姿で対応しなさい』


「あ、そうだ!!!」


 マクスウェルが魔方陣を展開する。

 マクスウェルを光が包む。


「え? も、もう人間に変化できるんですの?」


「はいな」


 光の中から出てきたのは銀髪の男の子だった。

 まだ幼いが、まるで少女のような顔立ちをしていた。


「はい。お姉ちゃん! 遊びましょ!」


 ニコッと笑うマクスウェル。

 そしてエレノアは『ぶッ!』っと鼻血を吹き出した。

 それは一目惚れ。

 エレノア初めての恋であった。


「どうしました?」


「い、いえ……」


 胸がバクバクと高鳴る。

 かわいい。抱きしめたい。

 エレノアは初めての感情に戸惑った。

 サラサラの銀髪。

 キラキラした目。

 見れば見るほど顔が赤くなっていく。

 そう。エレノアは完全にテンパっていたのだ。


「お姉ちゃん大丈夫?」


「いいいいいいい。いえ何でもありませんわ!!!」


 鼻血が吹き出す。

 ぼたぼたと鼻血が流れる。

 そして凶行への幕が切って落とされる。

 マクスウェルは目を大きくした。

 何かを考えついたらしい。

 マクスウェルはエレノアの顔に顔を近づけた。

 エレノアの頭が沸騰する。


 そして


「いたいのいたいのとんでけー」


 舌を出して頬をぺろんと舐めた。


「あ、そうか。これは『ドラゴンの姿の時だけにしときなさい』だった。お姉ちゃんごめ……」


「んぎゃああああああああああああッ!」


 それは怪獣の咆吼だった。

 火龍の攻撃本能のリミッターが外れる。

 目を回しながらエレノアは積み木を手に取ると一気に振り下ろした。


「みゃああああああああああああああッ!!!」


 森にマクスウェルの悲鳴が響いた。

 その瞬間、ダンジョンは変化を遂げる。

 それは地上三層、地下五層の巨大ダンジョン。

 どこからともなくわき出てくる、意思を持ったスケルトン。

 初期状態のバハムートショッピングセンターだった。


「……というわけですの(っきゃ!)」


 エレノアが頬を赤らめた。

 それと同時にがくがくとマクスウェルが震える。


「じ、地獄じゃ……」


「修羅場さ……」


 カツオとコ○ラ型ロボットだけが修羅場の降臨を認識していた。

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