ロボット工場
映画館。
映画を見る前に買うものがあった。
ポップコーンとジュースである。
もちろん使い走りさせられるのはカツオである。
「カツオちゃん! カツオちゃん!」
映画館の受付スケルトン、マリリンに声をかけられた。
「なあに、おばちゃん?」
「専務さんから指令よ。これで思いっきり遊んできなさいって」
そう言うとマリリンは2万クレジットをカツオへ渡した。
「ぶ、ぶもおおおおおッ!」
カツオの目がキラキラ輝く。
「でね、専務さんから注意点『遊ばないで懐に入れたり、自分のおもちゃを買ったらアイアンクローの刑』だって」
「ぶもおおおおおおッ!!!」
全部バレてる!
カツオは焦った。
こうしてカツオのミッション。
『火龍嬢をエスコートする』が始まったのである。
◇
「下僕! 究極戦隊グッズを買いに行きますわよ!!!」
「ういー!」
映画が終わり、二人は今度はキャラクターグッズを買いにおもちゃ屋へ。
二人とも妙にテンションが高い。
「合体まで完全再現ですわ……」
「ぶもう」
お値段5400クレジット。
カツオには手が出ない価格帯である。
だが、二万クレジットがあれば!
カツオもこのロボを手中に!
だが……
サラの『アイアンクロー』。
その恐怖は計り知れないのだ。
「ぶもう……払いやすぜ! 俺が」
「え? 本当?」
「ええ。払いますとも」
心で男泣き。
それが男ってものさ。
どこかで聞いた台詞だ。
「姐さん。こっちには変身ブレスレットが……3000クレジットです。これも行きますか?」
「ぬうううッ! 『おもちゃは一度に一つだけって』パパには言われてますけど……ぬうううッ!」
悩む少女。
うなっていると店員がやってきた。
「やっほー。店員のニャーくんだよ!!! 何をお探しかな?」
カツオが口をパクパクさせる。
「にゃにゃにゃにゃにゃ!」
「おっと、『なんでここにいるんだYO?』って言いたいんだね? それは簡単さ。邪神の不思議な力で同じ時間軸に同じ存在を同時に発生させたのさ!!!」
そんなこと聞いてねえ!
カツオは思った。
「え? なんで店員やってるのだって? それは簡単さ! 時給800クレジットでアルバイトしてるのさ!!!」
「知り合いなの? お友達?」
知っているけど、そいつは友達じゃねえ!
カツオはなぜか言葉が出せずパクパクと口を動かす。
「おっと、ニャーくんに不利な証言はできない不思議なバリアが発生したようだね。うーんこれは困った」
「下僕。大丈夫?」
いやそのおっさんがいるという状況が大ピンチなの!
カツオの心の叫びは誰にも届かない。
「おっとカツオちゃん! 大丈夫かい? これは大変だ。すぐ地下のロボット工場へ行かなければ(棒読み)」
なんでロボットが出てくるんだよ!
カツオの必死のツッコミも誰にも届かなかった。
「え? ロボット工場?」
少女の目が輝いた。
あかん。マジであかん。
カツオはあきらめた。
「そうロボット」
ニャー君はにやりと笑った。
◇
「おっとー! 俺ちゃんホームランッ!!!」
ニャー君が叫んだ。
それを見たサラが何かを察する。
「この野郎。何かやりやがったな」と。
「専務……バックヤードの警備システムがオフになっています……」
店長が言った。
その瞬間、サラの中で全てが繋がった。
「店長。ドリル持ってきてください。ぶっといやつ」
「っちょ! ニャー君はね、火龍のお嬢さんをロボット工場に案内しただけYO!」
ぐわし。
サラはニャー君の顔面を掴む。
アイアンクローである。
ダークエルフの種族的パラメータの限界を軽々と超えた握力がニャー君を襲う。
「いたたたたたたた! っちょ! 邪神に攻撃通ってる! 邪聖剣でもないのに攻撃通ってる!!!」
「専務! 監視カメラにカツオと火龍の姿が確認されました!」
「おどりゃッ! この邪神!!! よりにもよってロボット工場とはどういう了見だ!!!」
「だって面白いんだもん!!! いだだだだだだ!」
サラがアイアンクローで邪神をいたぶっていると、マクスウェルがきゅっと鳴いた。
「ろぼっとってなんですか?」
マクスウェルが目を丸くしていた。
興味津々である。
「い、いやな。あのな……」
サラが目をそらす。
あまりにもピュアな視線に耐えられなくなったのだ。
「それはね。君の大好きなロボットの工場さ!!! いでででででで!」
「ろぼっと……ロボット!!! 見たいです!!! 見たいのです!!!」
マクスウェルがぴょこぴょこと跳ねる。
それを見てニャー君が笑った。
「良い子には旅をさせろターイム!!! おっと突然無から現れた魔女っ娘ステッキで空間を歪めるの術!!!」
ニャー君はどこからか現れた顔だらけの不気味な彫刻を施された杖を振る。
するとマクスウェルが光に包まれる。
「火龍ちゃんによろしくねー!!!」
ニャー君の声が聞こえた。
「みゃ、みゃー!!!」
そして光は散りマクスウェルの姿はそこにはなかった。
◇
「みゃ、みゃー?」
そこは工場だった。
ベルトコンベア。
そこに並んで手作業をするロボット。
ロボットはどこまでもやる気のないデザインだった。
丸いフォルム。
蛇腹ホースの腕。
二本のやっとこのような手。
いわゆるロボットアームである。
「ろ、ロボットなのです!!!」
「坊ちゃん。作業を邪魔しちゃいけないなあ」
テンションが上がり興奮するマクスウェルの耳に渋い声が聞こえた。
「どなたですか?」
「っふ。ジョンソンって呼んでくれ。俺はこの工場の案内ロボットさ」
なぜか金髪のもじゃもじゃ頭のカツラを頭に被り、葉巻を口にくわえ、空のビール瓶を持ったロボットがそこにいた。
「おっと。あんた社長じゃねえか」
「はいなのです」
「そうかい。とうとうデラックスロボが必要になったか」
なぜかジョンソンは一人で納得している。
「デラックスロボ?」
「ふふふ。世界を征服しようとする悪党と戦うためのロボさ。反物質砲とプラズマキャノン装備。もちろん巨大ロボの浪漫『デラックスソード』完備!!!」
「うおおおおおおッ!」
マクスウェルの目がキラキラ輝く。
『主砲使ったら埼玉吹っ飛ぶんじゃね?』とツッコミを入れる人物はどこにもいない。
「もちろん変形して外宇宙も航行可能ォッ!!!」
「うおおおおおおッ!」
「というわけで行くぞレ○ィ!」
「○でぃって誰ですか?」
「子どもは気にしなくていい。な?」
「はいー」
もはや変形ロボの事しか頭にないマクスウェルは小躍りした。
◇
「巨大ロボットですわね……」
「だからあのオッサンの言うことは信用しちゃダメだって!!!」
「いえいいですわ。ここからダーリンの匂いがしますもの!」
火龍の少女は目を輝かせた。
ダーリン?
カツオは首を捻った。
このダンジョンで一番男らしいのはサラである。
だがこのダンジョンで生物学的に男性であるのは、マクスウェル、カツオ、警備員のオッサン、昼間からゲームセンターに出入りする哀愁漂うオッサンだけである。
カツオ自身とオッサンどもを排除すると、残るのはマクスウェルだけである。
「あのー? 姐さん。もしかして、まー君の関係者ですか?」
「そう。私はマクスウェル様の許嫁エレノア! 私のお爺さまと先代龍王様との約束ですわ!」
その時、カツオの脳裏に小川にハマり、クワガタに負けるマクスウェルの姿が浮かんだ。
……ねえよ。
絶対ねえよ!
だがカツオは空気を読んで黙っていることにした。
そしてツッコミを入れる代わりにぶもぉッとため息をついた。
やっぱかわいい系男子は違いますねえ。
あんな子どもでもリア充でさあ。
へへへ。やってられねえぜ。うへへへへ。
カツオがひがむ。
うへへへへ。うへへへへ。
カツオのやる気はどこまでも下がっていた。
土曜休みます




