また、失ってしまう
「裕也……」
翔太が力のない儚い声で、俺の名前を呼ぶ。
今の翔太のその目には、光が宿っていない。まるで……死人、のようだった。
しばらくの沈黙を破って、翔太がまた口を開く。
「……何しに来たの?」
…………。
何だよ、それ。ふざけんなよ。
どれだけ、どれだけ俺が心配したと思ってんだ。
俺は疲れて棒のようになってる足を、一歩踏み出した。――そしたら、だ。
「来るな」
翔太は憎々しげに俺を見ながらそう言った。俺はショックを受けた。
翔太が俺に……いや、誰かにこんな態度を取るのは初めて見た。
俺は足を止めて、語りかける。
……お前こそ、こんなところで何してんだよ。
「…………」
翔太は返事をせず、俯いた。前髪が邪魔で、表情が分からない。
しばらくの沈黙。俺は堪えきれずに、次の言葉を続けた。
また……死ぬつもりだったってのか?
そう言うと、今度は返事が聞こえてきた。
「だったら、何だってんだ」
その声は、震えていた。
そうか……俺の悪い予感は、的中だったみたいだ。翔太は……
「昔さ……」
顔を上げて、翔太が語りだした。その目にナミダを浮かべながら。
「昔、よくここを散歩してたんだよ。父さんと母さんと、一緒にさ」
…………。
「……この二年間、ずっと心に穴が開いたみたいだ。何をやっても、誰といても塞がらない。ある日気付いたんだ。これは『孤独』なんだって」
翔太の両親は、二年前に交通事故で亡くなった。翔太をたった一人残して。
お前の心に影を落としていたのは、そのこと……だった、のか……?
最愛の両親の死。それが翔太の心の一部を、大きく抉り取っていってしまったのか。
……それは、俺たちじゃ埋めてあげられないもの、なのか?
無意識に、俺はそれを言葉として発してしまっていた。その言葉を聞いて、ようやく翔太が、俺と目を合わせた。
「……そうじゃない」
翔太の顔が、悲しそうにゆがむ。
「きっと僕が、拒絶しているんだ……。怖い……怖いんだ……。誰かに、心の穴を埋められてしまうことが……」
……? 何、言ってるんだ……?
「また、失ってしまうんじゃないかって……僕の目の前から、いなくなるんじゃないかって……思って…………だって……だって父さんと母さんはッ!」
急に、翔太の言葉は叫び声に変わった。大粒のナミダがあふれ出してきている。
「父さんと母さんの乗ってた車には、ブレーキ痕が無かったッ!!」
…………!
「二人は……自殺したんだッ!!」