こっちへ来い
俺は翔太の姿を探して、街の中を走り回った。俺は一応サッカー部だ。足の速さと体力なら、翔太よりも数段上なはずだ。
やっぱり、病院の近くにはいない……。あいつ、一体どこに――――
俺は躍起になって、国道沿い、学校のそば、翔太の家の帰り道など、思い当たる限りの色々なところを、全速力でまわって行った。
……だが、一向に見つかる気配はない。そりゃそうだ。この広い街の中、どこにいるかもわからない一人の人間を見つけ出すなんざ、たちの悪い運試しみたいなもんだ。どんどんとあせる俺を尻目に、五分、十分と、時間は残酷に過ぎていく。
ちきしょう! もう二度とふざけた真似はさせねぇ! 早く……早く出て来い、翔太!
無我夢中になっていた俺は、そのとき、心の中で、何かに祈った。
――――そのとき、だった。
「――――ピューーイ!」
病院の中で聞いた、聞き覚えのある鳴き声。それが突然、俺の耳に飛び込んできた。
これは……!
俺は咄嗟に空を見上げ、目を凝らした。
そうだ、思い出した。この鳴き声は……!
俺の視線の先――――そこにいたのは、曇天の中を飛んでいる、一匹の、小さな灰色の鳥。
間違いじゃない。何故かそのとき、俺にはわかった。その鳥は、少し前に俺が助けてやった、あの鳥だった。
羽ばたいたまま、その場から動かない。その姿はまるで、俺のことを上から見ているかのように思えた。
……一瞬、俺はその鳥と、目があったような気がした。そして――――
「ピューーイ!」
鳥はもう一度そう鳴くと、河川敷の方へと飛んでいった。
そんなはずは……でも、今のは……!
呆然と立ち尽くしていた俺は、数秒後、はじかれたようにその鳥が飛んでいった方へと走り出していた。
……馬鹿らしいと、思われるかもしれない。そんなわけはない、と。
でも。確かに、俺には聞こえた。
あいつの鳴き声が――――こっちへ来い、って、言ってるように聞こえたんだ。
俺は、必死になって、その鳥の後を追いかけていった。
河川敷の、堤防の上。
俺以外に、人はいない。
いや、違った。
俺のずっと先には、寝巻きを着たままの、誰かの後姿があった。
俺は、そいつのところまで走った。声の届くところまで。
そして、名前を呼ぶ。
翔太。
俺の声を聞いて、ゆっくりと、翔太がこちらを振り返った。