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灰色の鳥  作者: 山川 景
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お前のことが、わからない

 翔太が、交通事故に……だって?


 朝。学校の朝礼で、担任の先生からそのことを聞いて、俺は呆然とした。


「……昨日の夜遅く、明石(あかし)(翔太の名字)が国道でトラックにはねられた。今は、予断を許さない状態なんだそうだ……」


 先生はものものしい雰囲気で、クラスの生徒たちにそう告げたのだった。クラスはどよめく。


 ――俺は、信じられなかった。あの優しい翔太が。


 どういうことだ。


 何で、よりによって、あいつが。




 昼の休み時間。俺の足は、何故だか勝手に職員室の方に向かっていた。


 ――先生。


 俺は、自分の机でパンをかじっている、ウチのクラスの担任の先生のところまで行った。


「おう、日野(俺の名字)か。お前が来るのは珍しいな。どうした?」


 ……翔太のやつが、交通事故にあったって、本当なんですか?


 俺はそう訊いた。自分でも、何でわざわざ、こんなことを訊きにきたのかわからない。多分、俺は信じられなかったんだ。――いや、信じたくなかったんだろう。翔太が、そんな目にあってるだなんて。


 おかしいなぁ。そんなに、仲が良いつもりは、なかったんだけどな。


「……ああ、本当だよ。今朝言ったとおりだ」


 先生は悲しそうな表情で、そう答えた。俺は返事をしようとしたが、口がうまく回らない。自分が今どんな表情を浮かべているかすら、全く分からなかった。


 事故……ですか。


 独り言のように俺はそうつぶやいた。すると、先生は、口元に手をあて、眉をひそめながら、言った。


「いや……」


 え…………?


「目撃者の証言によるとだな、どうやら……明石の方から、車道にフラリと飛び出していったんだそうだ。信号も街灯もない場所で、トラックの進行方向の先へ――」


 え?


「……っ。いかん……日野。悪いが、今のは聞かなかったことにしてくれ……」


 先生は、しまったといわんばかりに俺から目を逸らした。だが、そんなことは今の俺には気付くこともできない。 


 明石の方から――――


 その言葉が、グルグルと俺の頭の中で繰り返される。


 翔太の、方から……? 車道へ……?


 それじゃあ、これは……




 自殺未遂、だったのか?




 翔太、お前は……死ぬつもり、だったってことか?




 やがて学校が終わり、ゾロゾロと皆が帰っていく。俺も一人、家路についた。今日は催し物の準備で、部活も休みだった。何となく、消化不良な気分になる。


 目の前に輝く夕日を見つめながら、ふと俺はまた、翔太のことを考えた。

 心の中で、翔太に問いかける。



 ――どうしてだ……。お前、何考えてんだ?

 

 あんなに、お前は幸せそうだったじゃないか。あんなに、楽しそうにしてたじゃないか。

 楽しそうに俺に、色々な話をしてくれてたじゃないか。


 ……違ったのか? 本当は、そうじゃなかったのか?


 人助けしてみたらって、言ったのもお前だ。

 俺は、お前はそれだけ自分のことも大切にできるやつなんだと思ってた。


 でも、全部違ったのか?


 …………。

 何だかなぁ。

 何だかお前のことが、わからなくなっちまったよ――――。



 俺は、昨日見たおかしな夢のことを思い出した。……そうだ。その夢の中で、あいつは、ずっと泣いていたんだった。



 なあ、翔太。お前……本当は、毎日死にたいくらい、辛かったのか……?

 

 本当は……誰でもなくて自分が一番、助けて欲しかったのかよ……?

 


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