表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色の鳥  作者: 山川 景
13/14

裏切らん

「痛い……死にたく、ない」


 翔太が途切れ途切れになりながら、言葉を繋いだ。やっと聞き出せた、翔太の中の本当の声のような気がした。


「何でか……今は……たくな……」


 雨は強さを増していて、翔太の言葉をかき消す。

 俺は舌打ちをした。小さく、遅いんだよ、とも言った。それも雨のせいで、翔太の耳には届いてないだろう。舌打ちはしたが、あざだらけの俺の顔は、少し笑ってるかもしれない。あぁ、気持ち悪い。


 直後、翔太の拳が再び俺の顔面に炸裂した。不意を突かれた俺は後ろに倒れこんでしまう。翔太と同じく、大の字に、地面に。

 やってくれやがったな。……まぁ、別にいいや。


 おい。


 俺は翔太に声をかけた。


 言っとくが、俺はお前を裏切らん。お前が悪魔にでもならない限りはな。


 打ちつけるように降ってきている雨が痛い。言葉が聞こえたかどうかは知らないが、返事の代わりに翔太の笑い声が聞こえてきた。

 何かが吹っ切れたかのような、開放的な笑い声だ。

 俺は勝手に言葉を続けた。


 ナミダ鳥、だっけな。お前が学校で言ってたやつ。ああいう話はなかなか面白い。また、俺に聞かせろ。


 また、翔太の笑い声がした。


「ナミダ鳥。幸せを運ぶ、青い鳥。……昔、親から聞いた話は全部、ハッピーエンドだったよ。でも現実には誰も幸せなんて運んでくれないし、ハッピーエンドで終わるなんてことはない」


 そこで一呼吸置くと、また話し始める。


「と思ってたけど、まぁもう少し生きてみないと分からないかもしれない」


 おやおや。


 翔太は上半身だけ起き上がらせていた。


「それに、お前を殺さないと僕が死ねないってことは分かったからね、裕也」


 物騒なこと言うな。


「お前が最初に言ったんだ」


 翔太はやっぱり笑っていた。俺は心の底から安堵した。


 ――――良かった。


「……まぁ色々言ったけど、あれは全部本心だし、肝心なトコはまだ引っかかったままだけど」


 こいつが負った心の傷は、深すぎる。それは、あるいは一生塞がらないかもしれないし、他の何かで埋められるものでもないのかもしれない。それでも――――


 ――――それでも翔太は、笑っていた。


「でも何でか今は、何か、幸せだ。久しぶりに、さ。本当に、何でかは分からないけれど」


 はっ、と、俺は短く笑うと、勢いをつけて一気に立ち上がった。

 これだけボコボコに殴って、雨に打たれて。ただでさえ大が付くほどの怪我人だし、ここで死なれちゃ俺が殺したようなもんだ。


 俺は翔太に近づいて、手を伸ばした。


 帰るぞ。


 翔太は目をつぶって、大きく深呼吸をする。

 そして、俺の手を掴み、言った。


「ありがとう。君の、おかげだ」






「ピューーイ」


 帰り道。

 鳴き声が聞こえた気がして、振り返る。雨の中に、小さいシルエットが消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ