優しいやつ
堰を切ったように、翔太の言葉があふれ出す。
「二人は、信号で止まっていた前のトラックに突っ込んで死んだ!! 助手席には母さんもいたのに、ぶつかる直前にもブレーキを踏んでないなんて、いくら不注意でもあり得ないんだよ!! 二人は自分で、命を放り出したんだ!!」
俺は驚いて、言葉が出なかった。
翔太はうつむき、服の袖で涙を拭きながら、つぶやく。
「……なんでだったと思う?」
翔太からは、今まで感じたことのないような……威圧感にも似たものがあふれ出ていた。
「決まってるさ。二人が幸せじゃなかったからだよ」
翔太が俺をにらむ。
……そうか。分かったよ。
威圧感の正体、そのとき俺は、それに気づくことができた。
それは翔太の、「憎悪」だ。
この世界への。翔太自身への。
俺にはなぜだか、それが分かった。
「違うことは分かってる。でも……どうしても思ってしまう。『僕が二人を不幸にしたのか?』って」
そうだ。こいつは、闇の中にいるんだな。
「今思うと、ずっとそうだったような気がするよ。僕の周りの人たちは、どんどん不幸になっていく」
とてもとても、深い闇の中に。
「いくら僕が大切に思っている人だって……僕が不幸にしてしまって、僕の前から消えていくんだ。……僕を裏切るように」
あぁそうか。それなら……きっと……
「裕也……君もだ。君だっていつか、僕を裏切る……!」
こいつを救い出すのが……
「そうに決まってるッ!!」
俺の役目、なのか。
お前は、優しいやつだ。
つぶやいた俺の言葉を聞き、翔太は不思議そうに、だが険しい表情のままで、俺をにらむ。
俺は、言葉を続ける。
翔太、前に俺に言ったよな? 人を助けると、必ず自分に恩返しがくる。情けは人のためならずってやつだ、って。
翔太の眉が、ピクリと動いた。
俺は知ってる。お前が学校のやつを、町の人を……俺を、何度も何度も助けてきたことを。
俺は、人に何かを伝えるのは得意じゃない。……でもこのときだけは、自然と言葉が次々に出てきた。
翔太、その恩返しは、きっと来る。だって……そんなに優しいやつを、誰も裏切ることなんて出来やしねぇはずだから。
翔太の表情が、ほんのわずか、和らいだような気がした。
それが俺の気のせいであったって構わない。俺の言うことは変わらない。
翔太、今度は少し、俺の話を聞いてくれるか……?
空から、一粒のしずくが落ちてきた。




