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灰色の鳥  作者: 山川 景
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知ってる?

「ねぇ、ナミダ鳥って知ってる?」


 翔太のやつが、前の席から話しかけてきた。

 今はなんてことない、高校のいつもの休憩時間。


 一ヶ月ほど前、席替えがあって、この翔太が俺の前の席になった。こいつは、他に仲の良さそうな友達もいっぱいいる感じなのに、よく俺に話しかけてきた。あまり人と関わるのが好きじゃない俺も、今ではすっかり翔太と打ち解けていた。


 ……で、何て言った? ナミダ鳥? ……知らねぇなぁ。


「ありゃ、裕也も知らないのかぁ。僕ずっと、皆知ってるものだと思ってたよ」


 裕也ってのは、俺の名前。

 ちょっとかっこつけた名前かい? よく不良と思われるんだよな。しかも俺人相悪いからさ、実際、よく不良に絡まれるんだ。無視するけどさ。


 でも最近は、何故だかこの翔太が、不良たちから俺を遠ざけてくれていた。

 翔太は、頭がいいんだ。成績じゃない、頭がいい。成績もまぁまぁだけど、なんていうか、人望があるやつで、周りの皆から一目置かれてるようなやつだ。

 だから、不良たちも、翔太と一緒にいるときは、俺に絡んできたりしない。

 もしかしたら、翔太はそれをわかってて、わざと俺と一緒にいるんじゃないかって思うときもある。

 

 で、何なんだ? ナミダ鳥って。


 俺がそう訊くと、翔太は楽しそうに話し出した。


「僕が幼稚園くらいのときにさ、たまに寝る前に親に聞かされていたんだよ。ナミダ鳥。幸せを運ぶ青い鳥。でも、困っている人の前にしか現れない。つまり、困っている人を助ける鳥。そんな、不思議な鳥の話」


 へぇー。


「その鳥は、一目見ればわかるような、きれいな深い青色をしてるんだよ。僕、このナミダ鳥って、有名な話かと思ってたんだけど、皆知らないみたいだねぇ」


 こいつは、よくこういう話をする。誰も知らないような、それでいて何だか面白そうな話を、いっぱい知っているのだ。

 俺が、もっと聞きたいと言うと、翔太は話を続けた。


「ナミダ鳥は、良く晴れた暖かい昼間に現れる。どこからともなく、雨が降ってきたら、ナミダ鳥のサインなんだ。空をきれいなナミダ色にして、悲しいこと、嫌なこと、不幸だったことを、全部洗い流してくれるんだ。僕、昔はね、雨が降るたびに、ナミダ鳥がいるんじゃないかと思って、傘もささずに空を見上げてたんだ。それで風邪をひいて、よく親に怒られたなぁ」


 翔太は、ハハハと笑った。


 今の翔太には、親がいない。

 翔太の両親は二年前、交通事故で亡くなったそうだ。一人っ子の、翔太を残して。


 でも、俺が見るかぎり翔太は毎日、幸せそうだ。

 こいつは強いなぁ、と、俺はいつも感心させられてしまう。


 キーンコーンカーン……


 授業の始まりを知らせる鐘がなった。


「もしも、他にこの話を知ってる人がいたら、僕に言ってね。飛び上がって喜んじゃうからさ」


 翔太はそう言って前に向き直り、いそいそと授業の準備を始めた。



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