4・手がかり
この学園の夜の警備は主に先生達が時間毎に移動して行っている。専門分野が違えど、この学園の先生はみな優秀であるために、どこぞの城と同じくらい忍び込むには難易度があるらしい。
しかしだ、それでも、もう四件も事件が続いているということは、考えられることは二つ。
一つ目、それはこの警備をものともしない潜入のプロフェッショナルの犯行。
二つ目、内部の犯行。しかし、うちの学園には生徒先生含め、事務員、魔道具整備士、食堂のシェフなど多くの人がいるために特定は難しい。
やはり、捕まえるとしたら現行犯に限る。
この事件が『内部の犯行と仮定して』考えると、先生たちの見回りの順番は把握していることになる。そうなると、捕まえることができるのは、自由に動ける俺と、シャーニッドだけである。
しかし、行き当たりばったりでは見つかるものも見つからない。
だから、俺たちは南、北にある監視塔に登り、下に不審な人物がいないか監視している。
シャーニッドは知らないが、俺は夜目が利く。それは父もそうだったらしいから、遺伝的なものだろう。
この方法はとても有効なものだと思われるが、実は明らかな穴がある。
死角が多すぎるのだ。
まあ、どこから監視してるかなんて相手には分からないだろうから、あまり関係ないかもしれないが。
監視を初めて二時間……そこで、異変に気づく。
先生が見回ってない区がある。
なにかあったのか、そう思って、一旦塔を降りてその場所に向かう。
昼間の賑やかな雰囲気と一転して、静か過ぎるその場所は、どことなく寂しいものがある。
すこし歩いていると、建物の影になにかが置いてあるのが見えた。
近づいてみて見ると……
「なっ……先生っ!」
そこには、仰向けに倒れている……確か魔導師科の魔道具学を教えてくれているフェルニー先生がいた。
どうやら外傷はなく、気絶してるだけのようだ。
「先生っ、フェルニー先生っ、大丈夫ですかっ」
呼びかけてみると、んっ、んんー、といいながらフェルニー先生はゆっくる目を開けた。
「……ん、ん? っててて……なんか頭がいたいな……っと、君は確か……ギルメント君?」
……まぁ、学科が違うし、仕方ないか。
「ギルバートです、先生、一体なにがあったんですか?」
先生を立たせながら率直に問う。フェルニー先生は145センチと背の低い女性のために立たせることは、たいした労働でもない。
「あー、んー、ちょっと、まて、思い出す……そうそう、見回りをしながら朝ご飯のメニュー考えてたんだけど、突然後ろから頭に衝撃が走って、で、ブラックアウト、今に至るわけよ」
なんとも大雑把な説明だった。
「は、はぁ、ということは先生はその犯人を目撃していないということですか?」
「ん、まあそうだけど……」
フェルニー先生はガサゴソと白衣のポケットを探り、なにか箱のような物を出した。
「試作品型持ち運び式録音機、まだ、5時間前までしか記録できないけど、犯人が声を漏らしてるかもしれないし……犯人の特定も出来るかもよ?」
「…………なんでそんなものを持ち運んでるのですか?」
はははっ、と笑いながらフェルニー先生は答えた。
「名前がさっぱり覚えられないからさ!」
「……さいですか」
もうなにもいうまい。
「じゃ、コレは君に預けるよ、真ん中に魔力を流せば再生するからね!」
録音機を渡される。そして先生は俺に背を向けて走り出した。
「先生はどこにっ!?」
「先生は怪我をしてるので自宅で休養をとってます!」
休みたいだけだろ! と怒鳴りたくなるのを抑え、先生に言われたとおり、魔力を流して再生する。
使い方が初めは分からなかったが、少し弄っていると分かってきて、目当ての時間にすることができた。
そして、なんと犯人の呟きが……拾えた。
詳しくは聞き取れなかったが、とある人物の名前だけ聞き取ることができた。そう、シャノン、と……。
次の瞬間には俺は女子寮に向けて疾走していた____。