10・怨嗟
学園の中央部にある訓練場。闘技場程ではないが、それなりの広さを持つ。故に、通常では騎士科の生徒の授業としてや、個人的な練習に使われることが多い。先生の許可がないと入れない場所でもあるので、授業以外での使用の際は一々断りを入れなくてはならないが。
その訓練場に、今は木刀と木刀がぶつかり合う音が響いている。俺たちのクラスが剣の模擬試合をしているからだ。
あちらこちらで、自分のレベルと同じ位の相手と試合をしている。俺のペアというと、相変わらずシャーニッドだ。たまに違う人とペアになってみるものの、あまりにも参考にならなかった為、最近ではずっとこれである。
しかし、試合の途中、俺の相手をしていたシャーニッドが唐突に剣を収め、問うた。
「どうしたんだい。浮かない顔だよ」
「……そうか?」
「シャノンさんのことかな」
……相変わらず鋭い奴だ。けど
「いや、まあ、それもあるが……」
「ん?」
「後で話す、取り敢えず今は!」
下段からの攻撃を仕掛ける。それをシャーニッドは焦ることなく避け、逆にこちらの隙を狙って踏み込んで来た。流れるような一連の動作は、学生の域を超えている。
その攻撃を体を反ってなんとか避けたが、態勢を崩して地面に膝をついてしまった。
「集中しないと、一本も取れないよ?」
シャーニッドのあからさまな挑発。それを珍しく思いながら、同時に対抗心が芽生える。
「……上等!」
「それでこそだよ。
さて、ちょっと僕の練習に付き合ってくれないかな。新しい『型』を試したいんだ」
そういえば、連休で実家に帰ったときに、シャーニッドは父親に稽古を付けてもらったと聞いた。
「いいけど、なんで剣を納めた?」
シャーニッドの獲物は俺が使っているような両刃剣を模したものではなく、刀身が反っている……確か「打刀」と呼ばれる剣を模したものだ。それは今は鞘に納められている。
「これはそういう『型』なんだよ……さて、構えていないと怪我するよ」
「……」
俺は木刀を中段で構えて、いつでも受けられるようする。シャーニッドは木刀の刀身を鞘から半分だけだし、静止した。
それから数秒か、いや、実際は瞬き一つ位の時間だったのかもしれないが、俺にはそれ位長く感じた。
そして、俺が視線を木刀から少しだけ上に移した刹那
「な!」
構えていた木刀が衝撃で遠くに飛び、シャーニッドは剣を振り切っていた。僅かな一瞬で抜刀し、俺の木刀に剣撃を与えたのだ。
正直に、驚嘆した。
「…… 凄いな、今のは?」
「抜刀術というらしい、まあ、一対一じゃないとあまり使い道はないけどね……そういえば、これを習っている時に父様から面白い話を聞けたんだ。それも、ギルバートにも関わりがあるね」
「ん?」
「実は、」
シャーニッドが話し始めようとした瞬間、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。それに合わせて、周りのクラスメートたちも次々と訓練場から出ていく。
疲労でトロトロと移動しているその姿をみてシャーニッドが、また後でね、と言った。
*****
昼休みになった。
なんというかやはり男二人だけでの食事はなんとも虚しいいかな、と感じながら先ほどの話の続きを促す。
「で、俺にも関わりがあるって?」
「そうそう、まあ、直接じゃ無いんだけどね。僕のお父さんの師匠、ようするに、この刀という武器の戦い方を教えてくれた人がいたんだけど、その人の名前がカエデさんと言うらしいんだ。聞き覚えがないかな?」
「カエデ……?」
珍しい名前だから、一回聞いたら忘れないようなものだが……覚えがない。しかし、関わりがあるということは、やはりどこかで会ったことがあるのか……?
「その顔だと、知らないみたいだね」
「ああ、少なくとも知り合いにはいないと思う」
「うーん……意図して隠したものなのか、それとも、単に教える機会が無かっただけなのか……どちらにせよ……」
「どうした?」
急にブツブツとつぶやき始めたシャーニッドに恐る恐る声をかけてみると、それで我に返って、取り繕うように笑みを浮かべた。
「いや、なんでもないよ。それとゴメン。どうやらの口から言っていい情報かどうかわからないや」
「そうか……」
イマイチ状況がつかめない。それのせいか、残念だという気持ちはあまり湧いてこなかった。
「それより、ギルバートは話してくれるのかな。今日の醜態の理由をさ」
「醜態って……」
言い過ぎだろう。
「いや、剣筋はバラバラ。視線もどこか向いていて、全く集中していなかった。これを醜態と言わないとでも?」
「……すまなかった」
「うん。でも、理由があるんでしょ?」
スッと、目を細める。なんというか、俺は底知れない恐怖覚えた。
少し躊躇ったあと、結局はその視線に負けて、制服の内ポケットにしまっていた「それ」を取り出し、机の上に乗せた。案の定、シャーニッドは驚いたように目を大きく見開く。
「……詳しい説明を貰えるかな」
「いつの間にか制服に入り込んでいた。気づいたのは、練習場に行く前だ」
「それ」を一瞥して、まるで、嫌なものを見たかのように視線を外す。
そこには、クシャクシャになった白い紙があり、その書いた人の気持ちが伝わってくるような字で、ひたすら怨嗟の言葉が綴られていた。
そして、その中に何度も何度も、「シャノン・ヒューネベルグ」という名前が_____。




