6・鬼ごっこ③
それからの行動は迅速だった。騎士科のメンバーが後ろから奇襲をかけ、背中の一つを除き全ての魔法陣を破壊。と同時に、シャノンの合図で魔法科の生徒による一斉攻撃が行われる。
この攻撃は凄まじい威力だった。なにより、ユリアナの雷系魔法が卓越していたのが大きいだろう。
基本的な攻撃魔法のように、手の先に魔法陣を描き魔法を完成させるのではなく、足元を囲むように魔法陣が四つ展開、増幅作用と雲を使って天からの強力な雷魔法を形成したのだ。
まあ、そんなこんなで俺達のホムンクルス、エルトレス討伐は終わった……ように見えた。
魔法科の生徒が放った雷魔法によって落ちたエルトレスのそばに、皆は大急ぎで集まった。
エルトレスは騎士科の生徒に壊された部分と、髪に当たる部分が若干焼けているが、それ以外の場所には外傷はないように見えた。が、ホムンクルスと人間は違う。きっと、内部は電気によってズタズタに壊されているはずだ。
そう思い、エルトレスから視線を離して、エリックを探すために移動しようとした時「きゃっ!!」と、シャノンが短い悲鳴を上げた。
何事かと思い皆が振り返り、そして、驚愕した。
なんとエルトレスが動いていたのである。それも、ただ動いていただけではない。うつ伏せのままシャノンの華奢な両足を掴んでいたのだ。
『機体損傷レベル4と判断、強制自爆モードに変更します。3秒前』と無機質な声が漏れる。
シャノンも俺もその意味に気づき、止めようとしたが……間に合わない!
『0』
俺は来るであろう爆発を覚悟して目をつぶる……しかし、いつまで経っても爆発は起きない。
恐る恐る目を開けると、そこには
「さ、サーシャ! どうしてここに!?」
そこにいたのは、真っ二つになったエルトレスの残骸と、真っ白な短剣を持っている使用人のサーシャだった。
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サーシャは貴族として落ちぶれた俺に今でも仕えてくれている唯一の使用人である。が、子供の頃からお世話になっているため、使用人というよりは姉や母と言った方が違和感がなかった。
サーシャの話では、学園長が騎士団にホムンクルス討伐を要請した後、それでは間に合わないと思いサーシャに声をかけたという。事情を知ったサーシャは大急ぎでこちらに向かい、先程のことに至る。
今はエルトレスを回収して騒動も終了し、俺とシャノンとサーシャはフェルニー先生の宿屋にきていた。
フェルニー先生はというと「本当に助かったよー!」と何回も言っている。
「まったく……自分の実験に周りを、生徒を巻き込まないでくださいよ。姉さんは昔から……」
「「姉さん⁉︎」」
俺とシャノンの驚き声が重なる。
「そう言えば言っておりませんでしたね。私、サーシャ=メリクリウスはフェルニー=メリクリウスと血の繋がった姉妹で」
「え? でも」
シャノンがフェルニー先生を見て、そして、視線をサーシャに向ける。
「……似てませんね、主に背が」
フェルニー先生とその妹のはずのサーシャは実に10センチ以上も背の高さが違っていた。勿論、背が高いのはサーシャの方だ。
「あはははっ、よく言われるよ!」
「まあ、多分、姉は母上に似て、私は父上に似たのでしょう」
「でも、性格は似てないよね〜」
なんか、とても和気藹々(わきあいあい)というか、楽しそうな家庭なんだろうなと想像する。同時に胸を締め付けられるような感覚に襲われた。それに気づいたサーシャは慌てて膝を足についた。
「も、申し訳ございませんでした!」
「いや、気にしなくていい」
サーシャは昔から、過剰にギルバートを大切にする。それは、家族を失ったギルバートの母であり父であろうとした彼女の愛情からくるものだろう。
「父様や母様が居なくても、俺はさみしくない。俺にはもう、仲間がいる。サーシャや親友、良敵、それに、シャノンだっているしな」
一人じゃない、そう呟いた。




