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〜翡翠の彼、瑠璃の彼女〜  作者: 狼×狐
第三章・蠢く影、新たな展開
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3・食事

 昼時の城下町は、たいした人混みだった。


 今はどこの学校も長期休暇期間。しかも今日は祝日。子供連れの家族が商店街を埋め尽くし、まともに進むにも誰かと肩をぶつける始末だ。


「混雑してるな……いつもこんなか?」

「きょ、今日は特別よ……普段はもう少し落ち着いているもの。というか、貴方だってこの街で生まれ育ったんでしょ?」

「特にこの辺りをうろつく理由もなかったから、あまり詳しくない」


 この王都に暮らして、王都一の繁華地区をよく知らないとは。本当に、ギルバートって休日は何をして過ごしているんだろう。


 大柄な男の人とすれ違った拍子に、肩がぶつかる。小柄だから私のことが見えなかったのだろうか、思い切り突き飛ばされた。


「わっ……」


 よろめいた私の腕を、ギルバートが掴んで支えてくれた。ギルバートにしてみればごくごく自然な動作なのだろうけれど、私はそれだけで一気に赤面してしまう。元々、男の人に腕を掴まれることなんて滅多になかったのだから。


「はぐれるなよ」


 ギルバートはそう言って、私の手を引いて歩きはじめる。ギルバートが人混みを掻き分けて道を作ってくれて、私はただ彼の後を追って歩くだけ。


 どうして手繋がれているんだろう。どうして躊躇なく。いや、でもこれって傍から見れば迷子の私が手を引かれているように見えるのでは……。


「店って、ここか?」


 私が一人妙な考え事をしているうちに、ギルバートが歩調を緩めた。はっとして顔をあげると、私が学園を出るときに教えたカフェテリアの看板が目の前にあった。すごい、詳しくない割には、大体の場所を教えただけでその店に辿りつけるなんて。


「あ、うん。そう……なんだけど」


 私は言葉の途中で、目線をすいっと横へ移動させた。カフェテリアの入り口からずらっとお客さんが行列を作っていたのだ。ギルバートは頭を掻いた。


「……相当待つな、これは」

「や、やめよう、他にもお店あるから」

「そうだな、それに女性客ばっかりで俺はちょっと入りにくい」


 そういえば、女性向けのカフェテリアだった。今更ながら、ギルバートは嫌だろうなと思い直す。


「ええと、それじゃひとつ向こうの通りの……」


 アイリスと一緒にグルメ巡りをしたときのことを思い出しながら、私は別のお店に向かってみた。だが、そこもお昼時ということで超満員。他の店も、どこの店も、目星をつけていたお店はすべて行列ができてしまっていた。



「あー……ごめんなさい、ちょっとこれは想定外だったわ……」


 十軒回って十軒敗れる。長期休暇の休日、しかも昼時ジャストという想定外のせいで店巡りも疲れ、市民に開放されている大規模な公園に来てみたところ。


 静かで緑豊かな公園は、今日に限って何か市民のお祭りを開催しており、屋台が大量に軒を連ねていた。休憩どころか賑やかすぎる。


「祭りか。楽しそうじゃないか」


 ギルバートがぽつりと呟いた。その声が少し弾んでいるように聞こえ、私は思わず顔をあげる。ギルバートはどこか懐かしそうな顔をして、祭りの屋台を見つめている。


「シャノン、外で何か食べるって許せるタイプか?」

「え? ええ、まあ……」

「そうか。貴族のお嬢様ってこういうの、下賤だとかで嫌うからな……ちょっとここ座ってろ」


 屋台の傍には、いくつかテーブルとイスが並べられていた。周りでは民たちが座って屋台で買ったものを食べている。シャノンは空いている席に強制的に座らされてしまう。


「え、ちょっ……!?」

「すぐ戻るよ」


 ギルバートはそう言って、すたすたと屋台のほうへ向かってしまった。訳も分からず数分待っていると、言った通りにギルバートはすぐ戻ってきた。


 その手には――作り立てなのか、ホットドックやら串焼きやらがたくさん。ちゃんと飲み物まで抱えている。


「こ、これどうしたの……?」

「どうしたのって、そこの屋台で買ってきたんだ。ちゃんとした昼食じゃないけど、たまには外でこういうのもいいんじゃないかな」


 初めて見るわけではない。けれど、あまりランチとして見ない光景。


 貴族の娘だったら、まず『庶民の食べ物』なんて言うものたち――でも、私にとってはそういうものが食べられるのが嬉しくて。


 信じられないくらいホットドックが美味しくて、仕方がなかった。


「すごく、美味しい……!」


 思わず呟くと、ギルバートは微笑んだ。


「気に入ってくれて良かった。俺は、どっちかといったらこういう方が好きだったから」

「そうなの?」

「ああ。よく来たんだよ、ここの祭りは」


 懐かしそうなギルバートの瞳は、そういう意味だったのだ。私はギルバートの視線を追って、屋台に目を向ける。食べ物の店だけじゃなくて、娯楽の店もあるようだ。


「……ちょっと遊んでいくか?」

「え……」

「庶民の祭りも捨てたもんじゃないって、分かると思うよ」





 私にとっては初めてのお祭り。屋台の食べ物に、射的に輪投げ。


 何もかも新鮮で、楽しすぎて。思わず時間を忘れそうになった。


 こんなに楽しい休暇は初めてだ。それはきっと、隣にギルバートがいてくれるからだろう。


 そんな幸せをかみしめてお祭りを堪能し、私たちは学園へと戻った。



 ――このあと、思わぬ食後の運動が待っているとは、予想だにしなかった。


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