1・お留守番
皆様、お待たせしました。
第三章の開幕でございます。
ついにこの時期がやってきた。
試験も終わり、春の花々が散って太陽が殺人的な光を大地に降り注ぐこの季節――。
夏。
もっといえば、夏の長期休暇。
私にとっての鬼門である。
★☆
この国のあちこちからこのグラン・ロマーナ学園に通う貴族の子弟たちが、年に二度、親許に帰ることを許される時期がある。それが夏の長期休暇と冬の長期休暇だ。普段学園から出られない生徒たちにとっては、勉強せずに済んで、さらに地元へ帰れる最高の期間。長期休暇といっても二週間あるかないかというところだが、毎日勉強漬けの学生たちにとっては天国だろう。
しかしながら、この長期休暇中でも学園に残ることは可能だ。事情があって家に帰れない生徒も僅かだがいるので、そういう生徒たちのために学園は開放される。
で。私、シャノンは、夏の長期休暇を学園に残って過ごすことにしている。
「シャノン、ほんとに残るの? せめて一緒に私の家に来ない?」
「ごめんねアイリス、でも大丈夫よ。去年だって私は残ったじゃない」
「でもぉ、やっぱり女の子一人は心配だよぉ」
アイリスにそう言われてはたまったものではない。
続々と荷物を抱えて学園の正門を出て行く生徒たち。アイリスもまた、父であるフォイエル伯爵の治める領地へと帰るのだ。その見送りに正門まで来たところ、再三一緒に行かないかと提案された。
「そうだよシャノンさん、遠慮しないでいいんだよ?」
アイリスの隣に立つシャーニッドさんも口添えてくる。けれども私は首を振った。シャーニッドさんもダメ元だったのか、苦笑して頷く。
「くれぐれも気を付けてね。じゃ、ギルバート、シャノンさん、またね」
「シャノン、お土産持ってくるからね!」
アイリスとシャーニッドさんが手を振って歩き出す。シャーニッドさんがアイリスと手を繋ごうと試みて無情にその手をはたかれている様子が人混みの向こうに見えなくなって、私は振っていた手を下ろした。
そして、隣で腕を組んでいるギルバートを見上げる。
「……貴方も、帰らないのね」
「ああ……まあ、休暇中に一度くらいは祖父の顔を見に行くが。そっちこそ、いいのか?」
「私はどうせ、王都の出身だし」
「王都出身の奴らも、帰宅はしているぞ」
「いいのよ。実家は堅苦しくて、ちょっと苦手だから」
本音を漏らすと、ギルバートは「そうか」と頷いた。そして彼は腕をおろし、私の方へ向き直る。
「……実は、昨日シャーニッドとアイリスふたりに頼まれていたことがあったんだが」
「え?」
「『休暇中、シャノンと一緒にいてやってくれ』と」
「……」
シャーニッドさんとアイリスが学園に戻ってくるまでの、約十日間。
常の人口から百分の一以下になった、このときとなっては無駄に広すぎる学園で。
私はずっとギルバートと過ごすことになりそうだった。




