2・巡り会い
これからは、火曜日と木曜日の投稿となります。
「始め!」
教官の合図により、周りの生徒たちは一斉にあらかじめ決めていた生徒同士でペアーを作り始める。俺も自分のパートナーの元へ向かおうとした時、気づいた、中流貴族と思われる8人の生徒と、確か上流貴族のアクガヴァン家の長男、名は確か……サイラス。に囲まれていた。
刹那の沈黙、それを破ったのはサイラスだった。
「やあ、『平民君』、お相手願おうかな?」
サイラスがいった通り、俺の身分は平民……正確に表現すれば『元貴族の平民』だ。
あの事件で父は死に____家の跡継ぎとしては俺はまだ幼過ぎたので、家を継ぐことができなかった。そして、俺は母方の親戚、平民ながら宮廷魔導師まで上り詰めた男、俺にとっては母方の祖父にあたるアンセルムに引き取られることになった。因みに母親は病弱だったために俺を産んですぐに亡くなったと父親が言っていた。
話は戻るが、現在の俺の身分は平民、貴族の『命令』に逆らうことはできない。
「……喜んで……ところで、周りの方々は?」
「ああ、忘れていたよ。彼らも君と演習を共にしたいらしくてね、しかたがないから、彼らのあとに僕は相手をさせてもらうことにするよ」
……なるほど、連戦させて弱らせてから、サクッといい所だけ持っていく算段なのだろう。だったら
「いえ、時間も無いので『全員同時に相手をしても俺は構わないですよ?』」
明らかな挑発、しかし、効果は絶大だ。さっきまで余裕の笑みを漏らしていたサイラスの表情は怒りで歪み、剣を引き抜いた。それに続き周りの8人も剣を抜く。
「この平民風情がっ!」
「……やれやれ」
俺は小さく溜息を吐きながら……剣を構える。この練習用の剣はもちろん切ることはできない。しかし、長さと重さは本物と変わらないようにできている。
二度目の「始め!」という教官の合図で俺は近くにいたサイラスの取り巻きの剣を弾く。その剣は物見事にサイラスの顔にあたり、ひるんだ隙に剣柄で峰を打つ。
気絶までは至らない攻撃だが、戦闘不能には出来る。
しかしそれだけでは止まらない。突然のことで呆然としている赤毛の男子の腹部に蹴りをいれつつ反対側の生徒には剣の先端で腹部を強打する。
「う、おぉぉぉ!」
恐怖に駆られて残っていた二人が左右から攻撃するが体制を下にして避け、そのまま足を払い地面に叩きつけた。残った二人はどこかに逃げてしまって、もう近くにはいなかった。
たった10秒足らずで残っているのは俺だけになり、周りからは歓声、怒声や悲鳴などが上がる。意中の相手があの9人の中にいたのかもしれない。
そう思いながら、本来のパートナーを探す為に視線を彷徨わせた時、スッ、と『彼女』の姿が目に入ってきた。
髪は光の反射で色は区別できないが、おそらく栗色、そして端整な顔立ちをしているが、なにより目を引くのはその瑠璃色の瞳……世の中にこんなに綺麗な瞳があるとは、そんなことを俺は思った。
「ギル……ギルバート! 聞いてますかっ!」
「あ、あぁ、シャーニッドか」
____本来のパートナー、俺の唯一の友と呼べる存在、シャーニッドが近くに居たのに俺は気づかなかったらしい。
「……シャーニッド、お前の妹の隣にいる女子生徒、知ってるか?」
「ん? あぁ、シャノンさんですね、確かヒューネベルグ公爵家の令嬢だったはずですよ?」
ヒューネベルグ公爵の名前が出たことに驚いたが、特に思うこともない。
「それにしても」
「ん?」
シャーニッドは面白いものを見る表情をしながら言葉を続ける。
「珍しいですね、ギルバードが他人に……特に女子に興味を持つなんて。なにか理由でもあるのですか?」
「……別に、理由なんてない」
シャーニッドは「そういうことにしておきますよ」とニヤニヤしながら、この話を切り上げた。そして別の話題へ。
「ところでギルバード。また被害者がでたらしいね」
「……あぁ、だから巡回の時間も増えた、睡眠時間が削られるのは構わないが、広すぎるから対処できない」
「僕が手伝いましょうか?」
真面目な顔でシャーニッドは問う。
「お前は守られる立場だし、俺みたいに守る義務もない……といいたいところだが、頼めるか?」
「任せてください、これも僕の妹を守る為ですから」
「……シスコンめ」
「?」
小さく呟いた筈なのにシャーニッドは反応した……恐ろしいやつだ。
「なんでもない」
そう、なんでも____
2015/3/24 本文修正