14・試験
三学園対抗戦は、グラン・ロマーナ学園代表のギルバート、シャーニッドさんのペアの優勝で幕を閉じた。
騎士団長の参加は運営の中でも一部にしか知らされておらず、本当に抜き打ちの視察だったのだ。あれほど生徒たちの中で突出した才能を持っていたエリックとユリアナさんも、ギルバートとシャーニッドさんも、あまりの力量差を突きつけられた結果となった。
閉会式で表彰されたギルバートもシャーニッドさんも複雑そうな表情であったけれど、準優勝として台に上がったエリックとユリアナさん、そしてあの双子魔導師も手放しに喜べる状態ではない。
けれど、この対抗戦の間、みんなが全力で勝ち抜いたことに変わりはないのだ。だから閉会式も終わり、コロシアムから出てきたギルバートに、せめて私は笑顔で言おうと決めていた。
「お疲れ様。おめでとう!」
きょとんとしていたようなギルバートだけれど、すぐに小さく頷いた。
「……ああ、ありがとう」
シャーニッドさんはといえば、アイリスのもとに駆け寄っている。
「アイリス、アイリス、兄さんに労いの言葉は?」
それに対するアイリスはにっこりと満面の笑みを浮かべ、くるっと重心を移動させてギルバートに向きなおった。完全に目の前のシャーニッドさんは無視である。
「お疲れ様です、ギルバートさん!」
「ひ、ひどい」
項垂れたシャーニッドさんの背中を、ばんと誰かが叩いた。良い音だったけれど、比例してシャーニッドさんにも相当な衝撃があったらしく前へつんのめる。と、そこにはエリックとユリアナさんがいた。
「なに項垂れてんだよ、堂々としてろって」
「みなさん、お疲れ様でした」
ユリアナさんはやっぱり優しい。エリックは困ったように笑う。
「決勝じゃ親父が悪いことしたな。親父さえいなけりゃ、きっと俺らとお前らとで戦えただろうに。それだけが心残りだぜ」
「もう帰るのか、ふたりとも」
ギルバートが呟く。エリックもユリアナさんも荷物を持っていたのだ。もうこのまま、グラン・ロマーナの敷地から出る気満々である。
「俺らは対抗戦参加組だからな、終わったら即引き上げて来いって。これで明日から普通に授業とか悪魔だろ、ほんと」
ぼやくエリックの横で、ユリアナさんが私たちの方を向く。
「シャノンさん、アイリスさん、短い間でしたけど一緒にいられて嬉しかったです。今度はきっと休暇で王都に来ますから、その時遊べたら嬉しいな」
「はい! 楽しみにしてます」
「美味しいもの、食べに行こうねぇ」
アイリスのほわほわとした言葉に、ユリアナさんも頷く。
「いいか、ギルバート、シャーニッド! 俺もユリアナも腕を磨く、だから次の機会まで戦いは持ちこしだ! ちゃんと訓練しとけよ!」
「お前に言われなくても」
エリックに指を突きつけられたギルバートの表情は、いつもより生き生きして見えた。シャーニッドさんも微笑んでいる。
「じゃあ、また今度な!」
「元気で」
最後まで明るい言葉を残して、エリックとユリアナさんの後姿が遠ざかっていく。それを見送りつつ、ちらりと私は隣にいるギルバートに視線を送る。
二人は本当に強かった。強いという事実は聞いていたけれど、それを実際にこの目にしたのはこれが初めてだった。切り裂き魔事件の時と同じように、ギルバートは一迅の疾風のように速く流麗な身のこなしで。それを援護するシャーニッドさんも、ギルバートに劣らぬ技術があった。いつも寡黙で冷静なギルバートと温和で妹を可愛がりすぎるシャーニッドさんという、『生徒』としての二人しか知らなかったから、あんなふうに闘気むき出しだったのが酷く新鮮だ。
……格好良かった、よね。
エリックとユリアナさんが完全に見えなくなる。と、そこでギルバートはくるりと私のほうに向きなおった。
「さて……」
「なに?」
「学園対抗戦は終わった。次は侍女の試験だな?」
その単語がぐさっと頭に突き刺さる。シャーニッドさんが苦笑した。
「あれシャノンさん、その様子だと忘れてた?」
「わ、忘れてないですよっ」
正確に言うならば、忘れたかったのだ。
対抗戦に気を取られていたせいで、この数日すっかり自分の試験というものの意味の大きさを失してしまっていた。いやもちろん、対抗戦の合間に練習もしていた。しかしながら、いまギルバートに言われるまでのほんの少しの間、その存在を忘れていたのは否定できない____。
「……大丈夫か?」
「そんな心底不安そうな顔で言わないでってばっ」
「そうです大丈夫ですよぉ、だってシャノンだもの」
アイリス、その根拠は何ですか。
「試験いつだ?」
「あ、明日……」
答えると、ギルバートさんは無言で頭を掻き、そしてふっと息をついた。
「……分かった、今から練習しよう」
「えっ!?」
「給仕の試験だったよね? それだったら僕も少しは手伝えるかな」
シャーニッドさんまで名乗り出る。いや、しかしそれはどうなんだろう?
「だ、だって、ふたりは試合終わったばっかりで……!」
「そう、俺たちの試合は終わった。だから問題ないだろう?」
「ずっと応援してくれたお礼がしたいからね」
渋る私の肩を、アイリスが微笑んで叩く。
「大丈夫だよ、私もいるし、お兄様だってテーブルマナーは心得てるもの。ギルバートさんには文句のつけようがないし、最高の練習ができるよ!」
3人で私を矯正するということですか。
「……わ、分かった……お願いします」
そんなこんなで――。
みんなをひやひやさせながらも私はなんとか試験に合格。
もちろんアイリスは、トップ通過をしたのであった。




