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〜翡翠の彼、瑠璃の彼女〜  作者: 狼×狐
第二章・変わりゆく学園生活
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13・親父

 試合終了の審判が下される。


 ギルバートとシャーニッドさんが、負けた。


 その相手は____。



 すぐ横で観戦していたエリックが、『アンノウン』がフードを取り払った瞬間に身を乗り出した。そして叫んだのだ。


「『親父』!」と。



「あれれ、エリックさんのお父さまって騎士団長だったよねぇ?」

「ええ……」


 アイリスの質問に私は頷く。エリックの言葉を聞くまでもなく、舞台上にいるのはこの国の騎士団長その人だ。何度か顔を合わせたことがあるし、騎士科の生徒ならみんな知っているはずだ。


 エリックが観客席の手すりを飛び越えた。あっ、と声が出る。建物にして3階分はあるだろう高さから、なんの躊躇もなくエリックは飛び降りたのだ。慌てて舞台を覗き込むが、エリックは危なげなく着地して父親とギルバートたちのところへ駆けだしていく。


「エリックなら心配いらないです、このくらいの高さから飛び降りてもびくともしませんから」


 ユリアナさんがにっこりと微笑む。それを聞いて私もほっとして椅子に腰を掛け直した。


「それにしても、どうして騎士団長ともあろう方が学生の大会に……?」

「さあ……でも、あの方はエリックの父君ですから」


 苦笑いを浮かべるその顔には、どことなく諦めの意思が漂っているような気がする。


「エリックのあの性格って、父君譲りだと私は思うんです」

「ああ……」


 エリックには申し訳ないけれど、私とアイリスはなんだか納得してしまった。



★☆



 地面に膝をついていたシャーニッドを助け起こしつつも、ギルバートの視線は騎士団長に固定されている。その鋭いまなざしに、騎士団長は軽く肩をすくめて見せた。


「そう睨むな、騙していたのは悪かったよ」

「どうしてこんな場所で単身、剣を振るっておられたのですか。何かの任務でしょうか?」


 ギルバートの言葉はどこか刺々しい。それも仕方ないのかもしれないな、とシャーニッドは折れた自らの刀を取り上げながら思う。


 10年前にギルバートの父親である前騎士団長を殺害した容疑者の一人に、このエリックの父も名が挙がったのだ。


 考えてみれば当然である。ギルバートの父が死ねば、次の騎士団長は腹心だった彼になるのだから。それを狙ったのではないかという噂もあったが、結局証拠も動機も不十分ということでエリックの父は容疑者から外れた。


 何より、ギルバートの父とエリックの父は最高のパートナーだったのだ。それをよく見てきたのはギルバートであり、エリックだ。


 しかし同時にギルバートは、『人の気持ちなんて簡単に変わる』ということを身を以って知っている。


「……君は、やはりまだ私を疑っているのか?」


 そう口にする騎士団長の声は、むしろ諭すように優しかった。ギルバートは刺々しさの中に不愉快さをにじませていた。


「……貴方ではないという確証がない以上、疑わしいことに変わりはない……」

「ギルバート、やめておこう」


 シャーニッドに腕を引かれ、ギルバートは小さく息をついて頷いた。ここで論争しても仕方のないことである。……ギルバートにだって分かっている、彼が犯人でないことくらい。


「親父!」


 観客席から飛び降りてきたエリックが駆け寄ってくる。だが、エリックが何か言うより先に騎士団長の拳骨が振り下ろされた。鈍い音が響く。


「ってぇッ!?」

「この馬鹿息子! どうして一度剣を交わしたところで父と気付かないのだ、情けない! 少しはやるようになったかと思えば、あの戦い方ではユリアナの魔術が活かされないではないか!」

「無茶だし! しかもそんな小言いま言うなよっ」


 反論も虚しく、エリックはひょいと地面に転がされてしまう。騎士団長は軽く咳払いをしてギルバートに向きなおった。


「君の問いに答えよう。実は、いずれ騎士となる君ら学生の視察に来たのだ」

「視察……?」

「最近、騎士団の若者たちは骨がない。それだけならともかく、貴族という肩書に頼って威張り散らすようなとんでもない輩が多いのだ。そのため、こうして抜き打ちで来たのだ」


「騎士団長が単独で試合に参加とか聞いたことないぞ……あ、あれだろ、どうせ任務がなくて書類執務ばっかりしているから身体を動かしたくなったとかそういうのが本音だろ」


 身体を起こしたエリックだったが、再度騎士団長が張り倒す。痛いと嘆くエリックだったが、それを見てギルバートもシャーニッドも『図星なのか』と納得していた。


「まあ、今回の視察は良い意味で私の予想を裏切ったといっても良いだろう。特に決勝まで勝ち上がってきたギルバートとシャーニッド。


 君たちは素晴らしかった」


 騎士団長は自らの剣を鞘に収めて笑う。


「私は今大会にはイレギュラーな存在だ。実質、優勝者は君ら二人だ」


 その言葉と同時に観客席が湧いた。シャーニッドがやれやれと溜息をつく。


「なんとも腑に落ちない勝利ですね」

「まったくだ」


 ギルバートは頷き、立ち去ろうとしている騎士団長の背中に声を投げかける。


「本当にそれだけだったんですか?」

「……それだけ、とは?」

「学園長から、何か頼まれていたのではないですか」


 騎士団長は苦笑する。


「さて、どうだろうな」


 舞台から降りた騎士団長を、エリックが追いかけて行く。シャーニッドはその後ろ姿を見つめて呟く。


「……強かったね、騎士団長」

「ああ。……いつか、必ず抜いてみせる」


 負けず嫌いなギルバートの言葉にシャーニッドは頷き、親友の肩を叩いて歩き出す。



 大会は、終わった。



















 この時


「予定通り、これで彼を……」と、学園長が薄ら笑いを浮かべながら呟いたことは、誰も知らなかった。

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